逃がさない
港に向かう途中、多くの騎士とすれ違ったがゼノの魔法のおかげで気付かれることはなかった。
(ゼノの魔法は本当にすごいな‥‥こんなにすごいのに本当にわたしにゼノを超えられるような力があるのかな?)
キエリは、歩きながらゼノがやっていたように手に魔力を込めてみようと集中してみる。
すると、手に光が宿り、少しだけきらりと輝いた。
「キエリ、魔法の練習をしたいのはわかるけどまたあとでね」
「ごっごめん」
(そうだ、魔法使いや魔女は魔力を追えるんだ。こんなところで魔力を使ったらすぐに見つかっちゃうのに、馬鹿なことした)
キエリは心の中で反省して、港に向かうため足を動かした。
港には、いくつもの漁船やもっと大きな交易船が停泊している。
海に来た時にも船は見かけたが、近くで見るとその大きさに圧倒される。
「ふぅー‥‥そろそろ魔法を解くわね。連続して続けるとさすがに疲れるわ。ふーむ、ここには騎士たちはまだ来てないみたいね」
「うん、本当にありがとう。お疲れ様」
「迷子にならないようにおてては繋いだままでいたゲル」
二人は姿を現した状態で港の人々が行き交う中を歩いて行く。
「‥‥ねぇ、わたしたちフードは被っているけれど、魔法で姿を変えた方が安心なんじゃないかな?」
以前フェリクスが酒場に来た時、顔を魔法で変えていると言っていた。
それをした方がより安全ではないかとキエリは考えたのだが、ゼノは首を横に振った。
「それができれば一番だけど、道具が必要だし、案外時間がかかるのよね」
「そっか‥‥」
キエリたちは少しは買い物をしてきたものの、万全の状態とは言い難い。
キエリは、フードを深く被って見つかる不安を少しでもなくそうとした。
「船を借りると言っても、観光用のぐらいしか借りられないよね‥‥それで目的地までいけるかな」
「ふーむ‥‥観光用じゃあ、行ける範囲が限られるだろうし、もう、借りるより、買っちゃおうかしら?‥‥案外距離は遠すぎるわけではないし、船を買って魔力で改造すれば‥‥」
「それか、アタクシがキエリと一緒に海の上を飛んでいくべき? でも、魔力切れを起こしたらアウトだし、どんな罠があるかわからないし、まぁ、でもどちらにしろ危険に飛び込むならいっしょか?‥‥」
ゼノがぶつぶつとどうするべきか呟き始めた。
キエリもこの状況をどうするべきかと考えるが情報と手段がない。
(‥‥魔女がいる場所がやっぱり気になる。情報が欲しいな‥‥)
「‥‥人に聞き込みをしよう。船についても、地図の場所についても知りたいから」
ゼノは、歩みを止めて顎に手を添えてうーむと考え込んだが、にんまりと笑って承諾した。
(フェリクス様‥‥本当は、一緒に問題が解決できたら‥‥でも、今捕まればゼノが大変な目にあう‥‥早く呪いを解いて、ちゃんと話し合いたい‥‥)
正直、この旅はおそらく長くは続かないとはキエリは考えていた。
長期間逃げ続けるというのはゼノに負担をかけてしまうし、何よりキエリはまだフェリクスの呪いが解けていないのなら、少しでも早く解いてあげたいと思った。
フェリクスのことを心配しながらも少しでも早く呪いを解いてあげたいと気持ちが自然と早足にさせた。
ゼノとキエリが部屋から立ち去った後、ゼノに殴られたフェリクスは、キエリが居なくなったことに絶望していた。
「キエリ‥‥キエリ! キエリ!!」
いくら叫んでも愛する人の返事はない。
頭に殴られた痛みとひどい頭痛が重なって響く。
「っつ‥‥‥くそっ!」
怒りがこみあげてきて、怒りのこもった拳を床に叩き落とした。
固いはずの床がみしりと音をたてた。
(たしかに、殴られるときにはっきりとゼノ殿の声を聞いた‥‥)
「キエリを連れ出して、俺から奪ったのか‥‥ゼノ‥‥だからあんな魔女など信用すべきじゃなかったんだ。決して許すものか」
ゼノに対する憎悪が激しい頭痛とともに膨れ上がり、さらにフェリクスの頭と心を締め付ける。
「キエリ‥‥‥あぁ、俺のキエリ‥‥‥必ず取り戻すから」
フェリクスは、頭を抱え、ふらふらと立ち上がる。
フェリクスの綺麗なはずの琥珀色の瞳は、ゼノに対する憎悪とキエリへの重い執着の混じった愛情で暗く鈍く淀んでいった。
そこからのフェリクスの行動は速かった。
以前はあの忌々しい魔女に逃げられ苦渋を舐めたが、現在は魔女への対策を練りに練ってある。
即座に魔女ゼノを指名手配し、王宮魔法使いに王都に移動魔法を阻害する魔法を張らせた。
魔力を押さえ込むことのできる魔道具を開発しており、それを逃走中の相手に向かって発射するクロスボウの開発して、それを騎士たちに持たせてある。
(しかし、芳しくない‥‥)
そして現在、ゼノとキエリの行方を聞いて、フェリクスは顔をしかめた。
キエリとゼノの確保一歩手前まではいったものの、ゼノの魔法で翻弄されて追い詰めきれない。
途中ゼノが魔法で分身を作り、それを囮にして行方をくらませた。
移動魔法を阻害する魔法と共に王都の一定の範囲内から出た時にはすぐにわかるように罠をはってある。
それを考えると王都からは出ていない。
フェリクスは王都の地図を広げて、報告された囮の分身をつかまえた場所に印をつけていく。
「あの魔女は自信家で傲慢だったな‥‥力をみせようとして囮を出しすぎだ」
にやりとフェリクスの口の端があがり、悪い笑みが浮かぶ。
囮が港方面には行っていないことがフェリクスにはわかってしまった。
「魔女は港だ! 行くぞ! 誘拐された女性は魔女に脅されている、もしくは魔法で操られている可能性がある。絶対に傷つけるな」
「御意!」
フェリクスは騎士団員を連れ、身にまとった黒の鎧を日に輝かせながら、港へと馬で駆けて行った。




