止められない気持ち
今回は少し短いですが、次が長いので許してください
グイスを背負ったフェリクスとキエリは城に向かって横並びになって歩いていた。
ずっと会いたかった人物が隣にいることが現実と思えなくて、なんだか夢なのではないかと疑ってしまう。
だが、それと同時に心が酷く揺れ動いてしまった。
「あの‥‥どうしてここに?」
「クイナからキエリとグイスが町に出かけたと聞いたから、探しに来たんだ。グイスは大概どこかの店で酔いつぶれているからな」
こうやってグイスが酔いつぶれているのをフェリクスが迎えに来るという光景がいつものことだから、周りの人間が気にしていないようだったのだとキエリは腑に落ちた。
「それで、グイスとの食事は楽しかったか?」
「グイスと‥‥というかたくさんの人たちとでした。料理が食べきれないくらい本当にたくさん並べられて、他のお客さんと一緒に分けて食べました。グイスはいつも、そうなんですね。あんなに大勢で食べたのは初めてだったので楽しかったです‥‥でも」
「でも?」
「‥‥その、寂しいと思いました」
フェリクスの足が止まって、キエリの方を見る。
キエリは、フェリクスの少し前で止まって、俯いていた。
困らせると理解しつつもこみ上げてくる感情を止められる術をキエリはもっていなかった。
「わたし、勝手にあなた様と食事するのが当たり前のように考えていて‥‥あなた様がいないことが寂しいと思いました」
「キエリ‥‥」
「そうだぞっ! 寂しい思いさせやがって!」
さっきまで、ぐでっとからだをフェリクスにもたげていたはずのグイスが急に頭を持ち上げ、フェリクスの頭をくしゃくしゃにしてきた。
「ちょっ、グイス」
「おいこらっ、俺の可愛い妹を悲しませるんじゃあない! ちゃんと大事にしろ、そしてされろ! わかったか!?」
「はぁ?」
「ぐぅー‥‥」
グイスは言いたいことを言い終わったのか、糸が切れたように再びフェリクスの背で眠りだした。
「なんなんだ?」
フェリクスは、不思議そうに呟いたがグイスから返事が戻ってくることはなく、眉をひそめるばかりであった。
「妹‥‥? グイスの家族は俺と父上と母上くらいだと思うのだが‥‥キエリをいつの間にか妹にしたのか?」
キエリはグイスが本当に自分のことを大事にしてくれているのだと思えて、表情が柔らかくなった。
そして、グイスとフェリクスもお互いに大事に想っているのだと思うと自分のこと以上に嬉しく思える。
「ふふっ、そうみたいですね。ちなみに、お兄さんと弟とどっちがどっちなんですか?」
フェリクスは、考えた後、懐かしむように頬を緩める。
「ははっ、昔はグイスに兄さんと言わされてたよ。年も上だし‥‥まったく、俺も手のかかる弟だが、グイスも手のかかる兄さんだよ‥‥でも、今更兄さんと呼ぶのはな‥‥」
「グイスは喜ぶと思いますよ」
「そうかな? そう、かもな」
フェリクスが目を伏せて、確かめるように呟いた。
グイスを落ちないように背負い直して、片手でグイスを支えてもう片方の手をキエリに差し出した。
キエリは、差し出された手をどうしていいかわからずきょとんとしてフェリクスを見る。
「手を握ってもいいだろうか‥‥その、寂しい思いをさせてしまったようだから」
「いいのですか?」
「あぁ、差し出しておいて何なんだが、これでキエリの寂しさは消えるだろうか?」
フェリクスは少し不安そうに眉を八の字にしたが、キエリはフェリクスの手を大事そうに両手で握った。
「はい‥‥不思議ですが、わたし、あなた様と触れている時が一番心が安らぎます」
(そうだ‥‥いつも、この人といる時がわたしは一番幸せに感じる)
フェリクスは、しばらくキエリを見つめた後、ゆっくりとキエリの手を自身の手で包み込んだ。
離さないように、指をしっかりと絡める。
「キエリ、話さないといけないことがあるんだ。この後、時間を貰えないだろうか?」
「もちろんです。わたしも、話したいことがたくさんあるんです‥‥」
キエリは、心臓の部分が心地よくなりながら城に帰るまでの間、静かにフェリクスの手の温かさを感じていた。




