心にきく
城につくと、一行は王と王妃や使用人たちに迎え入れられた。
フェリクスにはやることが山積みで、フェリクスは城でキエリの部屋を用意してあるからと一言言って、フェリクスは仕事に向かった。
「ひっさしぶりだなぁ王都は」
キエリとは別の馬車に乗っていたグイスや他の友人たちがぞろぞろと馬車から降りてきた。
「グイス、みんな。王都ってすごいね。建物も人も景色も!」
「お前とクイナは初めてだもんな。はぁー愛しの王都! 今日は酒にネェチャンたちと遊んでくるかな!」
「ネェチャン? グイス、お姉さんがいるの? わたし会ってみたい」
「来るか? 面白いぞ」
「ちょっと! グイスさん、キエリに変なことを吹き込もうとしないでください!!」
クイナがグイスとキエリの間に割って入って、グイスを叱りつけた。
「いーじゃんか、ちょっとくらい嵌め外しても。それか、クイナも来るか?」
「遠慮します!」
「ふふっ、クイナとグイスはあれから仲良くなったね」
「なってないよ‥‥」
「ま、多少はな!」
キエリが二人のやり取りを微笑ましく見ていると、エレドナに肩をぽんっと掴まれた。
「さ、あんたたち、荷物を運び出さないと日が暮れるよ」
「そうだキエリ、良かったらあたしん家に泊まらないかい?」
「エレドナさんのお家ですか!? はいっ、行きたいです! あ、でもせっかくお城でお部屋を用意してもらったのに‥‥」
「大丈夫よ! キエリのために用意してくれてるんだったら、使うも使わないもキエリの自由よ」
コンゴウが顔をしかめてエレドナにこっそり耳打ちする。
「おい、エレドナ。殿下はキエリを城に滞在させる気満々だぞ。そんな、勝手に‥‥」
「いーの! 全くもうっ、少しくらいキエリと離れて罰をうければいいのよ殿下は!」
コンゴウが小声で耳打ちしたのに、エレドナは大きな声で反論した。
「な、何を怒っているのだ?」
「あんたには教えないよ! だって、あんたに言うと殿下に伝わるんだから!」
コンゴウは眉間に皺を寄せて不服そうにしているが、エレドナは構わずキエリの手を握った。
「さ、行こうキエリ」
「エレドナさん。王子様と何かあったのですか?」
キエリが心配そうに顔を曇らせるがエレドナはニカッと笑って大丈夫よ!といってキエリの手を引いた。
「ひっさしぶりだわぁ。ただいま!」
エレドナが家の鍵を開けて久々の我が家に帰ってきた。
「さ、中に入って、入って」
「お邪魔します」
キエリは荷物を持ってエレドナの家に足を踏み入れた。
エレドナの家は城からほど近く、赤茶の煉瓦造りの可愛らしい二階建ての一軒家であった。
玄関からはすぐ廊下につながっており、廊下奥の扉からガタイの良い男性がひょっこりと顔を出した。
男性はエレドナをみとめると駆け足で来て、エレドナにお帰りのキスをした。
「エレドナ! おかえり、その子は?」
「ただいま。この子はキエリ、しばらく家に泊まるからね。キエリ、この人はうちの旦那。厳ついけどいいやつだよ」
「初めまして、キエリと申します。お世話になります」
キエリはぺこりと頭を下げた。
「こりゃまた丁寧に、ゆっくりしていってください」
エレドナの夫はにかっと笑って、頭をかきながらぺこりとお辞儀をした。
エレドナに似たあったまるような笑顔を持つ彼はいい人そうで、エレドナと似ているなとキエリは感じた。
「さ、じゃあご飯にしましょうか」
「お手伝いします」
エレドナは、荷物を夫に預けてキエリと一緒に台所に立った。
エレドナとエレドナの旦那さんとキエリは楽しく夕食をとったが心の裏で(そういえば、あの人と夕食を一緒に食べないのは初めてだ‥‥何食べているかな‥‥忙しくしてるよね)とほんのりと考えていた。
夜も深まり、キエリはエレドナに二階の部屋に案内された。
「じゃあ、キエリはあたしたちの部屋で寝ようか。きれいに掃除してあるから安心しな」
「ご夫婦のお部屋に? お邪魔になりませんか?」
「あぁ、旦那にはバカ息子の部屋で寝てもらうから大丈夫だよ。だから、遠慮しなさんな」
「エレドナさん、息子さんがいるのですか?」
エレドナは呆れたようなどこか懐かしむように遠くを見ながらふぅーと息を吐いた。
「何年も帰ってきてないがね。どこかでバカやってないといいけど」
「心配ですね‥‥」
「いんや全然! あいつのことは丈夫に生んでやったからね。どこかで、何とか生きてるよ」
エレドナは曇りのない笑顔でニカッと笑った。
(遠くにいてもエレドナさんなりに息子さんのこと信じてるのかな‥‥息子さん、元気だといいな)
キエリとエレドナは寝台で横になりながら、おしゃべりが止まらずにまだ眠っていなかった。
「ねぇ、キエリ。今日の凱旋のことなんだけど、キエリはああやって、みんなの前に出てみたかった?」
「‥‥正直恥ずかしかったです。それに、なんだか大それたことをしてしまったように思えて、やっぱりやめておいた方がよかったかもしれませんね。でも、終わったことですから」
エレドナは、はぁーと大きなため息をついて眉をひそめた。
「キエリ、嫌なことはしっかり言わないとどんどん流されてっちまうよ」
「キエリは殿下と結婚したいと考えているのかい?」
どうして急にそんな話にとんだのかとキエリは大きな瞳をぱちくりとした。
「なっ、どうしてそんな話になるんですか?」
「だって、殿下は明らかに‥‥いんや、これは直接殿下が言うべきだね」
「それで、どうなんだい? 殿下のことは好きかい?」
「それは、もちろん好きですよ」
「んー?‥‥夫婦になって愛を育みたい?」
「愛‥‥さっきの結婚のお話しですか?」
「そうそう」
(‥‥愛‥‥好きとはまた違うみたいだ。夫婦、王様と王妃様みたいに? エレドナさんと旦那さんみたいに? 穏やかで、お互いが大切で、心地は良さそう)
キエリは、恋人や夫婦というのが人間の関係であることも頭では理解していた。
(何でもないわたしが、あの人の隣にいていいのかな‥‥傍にはいたいのに)
「‥‥わたしよりも王子様にはふさわしい人がいますよ‥‥」
自分で口に出してみたが、言葉が首を絞めるかみたいに苦しくなった。
(そもそも、あの人はわたしのことどう思っているんだろう?)
(わたしを傍に置いてくれる‥‥でも、どうして?)
キエリが考え込んで黙りこくってしまったのをエレドナが苦笑して優しい眼差しで見つめる。
子供をなだめるように頭を優しく撫でてやるとキエリの眠気がゆったりやってくる。
「とにかく、きちんと自分の気持ちは考えておきなよ。あたしは殿下の味方でもあるけど、キエリのことも大好きだからね」
キエリは、エレドナに心配をかけてしまっているのかと思うと胸が詰まったが、エレドナの優しさでじんわりと心が温まった。




