仕組まれた凱旋
キエリたちは馬車に乗って王都ウルブスへ向かうことになった。
「わぁ‥‥」
キエリは、馬車の窓から変化してく景色を興味津々に眺めていた。
「キエリは馬車は初めてだったな」
「はい! 面白いですね、景色がどんどん変わっていきます!」
キエリは子供のようにはしゃいでいて、瞳をきらきらと輝かせている。
馬車にはキエリとフェリクスの二人で乗っている。
キエリは最初遠慮したが「ひとりになってしまうな‥‥」とフェリクスが寂しそうに呟くとキエリはすぐに折れた。
向かい合うように座っていると、フェリクスにはキエリのくるくると変わる表情がよく見えた。
(あぁ‥‥馬車に二人でよかった。こんなに可愛らしいキエリを他の者に見られずにひとり占めできる。ま、ゼノ殿のことは考えないことにしよう)
キエリを見つめると自然と表情が優しくなる。
「ふふっ、王子様も馬車がお好きですか? なんだか嬉しそうです」
「俺は馬車じゃなくて、キエリの楽しそうな表情が見れるのが嬉しいよ。とても可愛らしいから」
さらりと可愛らしいと言われて、キエリは目をぱちぱちとさせて、間もなく頬が赤く染まった。
あんなにはしゃいでいたのに、大人しく座って、縮こまる。
「急に‥‥そんなことを言われたら、びっくりします‥‥」
「じゃあ、次からどう言えばいい?」
「つ、次があるのですか?」
「あぁ、もっと言いたい」
フェリクスが当たり前のように、にこりと笑って言うと、キエリは赤くなりながら俯いて髪の毛をもじもじといじりだした。
「王子様ど、どうしたのですか? 前までそんなことおっしゃらなかったのに‥‥」
「呪われていた時も思ってはいたよ。キエリは可愛いって。ただ、それが口に出せなかっただけさ」
フェリクスは呪われていた時は感情のコントロールがうまくいかなかったというのはキエリも聞いていた。
ただ、さすがにそんなことを思われているだなんて考えてもなかった。
キエリとフェリクスが共に過ごした時間は一か月ほどもないので、キエリは実際そこまでフェリクスのことを知っているわけではなく、これはキエリの知らない部分なのかとぐるぐると頭の中で考える。
(うぅ‥‥王子様ってもともとこんな感じなのかな? どうしよう、また心臓がおかしい?)
(何かからだが悪くなっているのかも、今度ゼノに相談しよ‥‥)
キエリがちらりとフェリクスを見ると、フェリクスがにこりときれいな顔で優しく微笑むので、キエリはどきりと心臓が跳ねて再び視線を外してしまった。
王都に近づき、フェリクスは呪いから解けたことを国民に見せるために馬に乗り換えて凱旋を行うため馬車から降りた。
キエリは、フェリクスが乗る予定の立派な馬を好奇心旺盛な瞳で乗りたそうに見つめていた。
「キエリも馬に乗るか?」
「いいのですか!?」
人間のからだを貰った日にも馬に乗ったが、その時にはろくに楽しめる状況ではなかった。
「もちろんだ。おいで」
フェリクスは、キエリを持ち上げて馬に乗せ、その後ろからフェリクスも乗った。
キエリを囲うように手をまわして手綱を持っている。
お互いの体温が直接伝わるほど近く、キエリは背中が熱く感じた。
それに集中してしまうとまた心臓がドキドキしてしょうがないので視線を景色に移す。
「や、やっぱりすごいですね! 高くて景色が違って見えます」
「だろう? 動くよ。しっかりつかまって」
フェリクスが足をトンとあてて馬に合図すると、ゆっくりと馬は動き出した。
キエリはどこをつかんでいいかわからず、フェリクスの両腕にしがみついた。
「あ、案外揺れますね」
「慣れれば楽しいよ。今度馬に乗る練習でもしようか」
「それは楽しそうですね!‥‥わたし、王子様に教えてもらってばかりですね。わたしもできることを増やして王子様になにか教えて差し上げたいです」
「ふふっ、そうか。楽しみにしておくよ」
キエリはこうやってフェリクスと約束するとこの先も一緒にいようと言われているように思えて心が温まる。
王都を囲む壁の門までたどり着いた。
重い門が開き、門の先には煉瓦でつくられた建物がずらりと並んでいるのが見えた。
国の騎士たちが王子を出迎えるために隊列をなし、道は王子を一目見ようと多くの国民が集まっている。
キエリは、門をくぐる前にはさすがに下りないとと考えていたが、馬が止まる様子はない。
「王子様、そろそろ下りないと」
「キエリ、お前は恩人だから、きちんと国民に紹介しないと」
「恩人って‥‥」
「お前の魔力のおかげで俺の呪いは解けたのだろう? ゼノ殿に教えてもらったよ」
キエリはフェリクスの呪いが解けたのはキエリの魔力のおかげだということをわざわざ伝えてはいなかったのだが、どうしてかゼノが伝えたようだ。
「だから、ここにいてほしい」
(そんな大事になりそうなこと、いいのかな‥‥?)
結局話しているうちに門をくぐり抜けてしまい、キエリとフェリクスは国民の目の前に露になった。
「きゃー殿下―!! おかえりなさい!」
「殿下がお戻りになられたぞ!」
「殿下の前にいらっしゃるのは誰かしら?」
「もしかして、噂の方なんじゃない!? ロマンティック!」
大勢の国民に歓声をあびせられ、花吹雪が空中に舞った。
フェリクスは、国民に笑顔で手を振って、久々の故郷への帰還を喜んだ。
一方キエリはたくさんの人々に圧倒されて、緊張でカチコチの笑顔になっていた。
群衆を抜け、坂をぐんぐん上っていくと、坂の一番上に屋敷よりも大きい立派な建物が見えた。
「わぁ‥‥すごい。あれがお城」
「キエリ、あっちを見て」
「わぁ! あれはもしかして海ですか!?」
坂を上り、開けた場所に出ると海が広がっているのが見えた。
陽ざしを反射して眩しく宝石のように輝く海はキエリを釘づけにした。
風が運ぶ香りを嗅ぐと潮の香りが鼻いっぱいに広がる。
「不思議な香りがします! 王都に来てから初めて見るものばかりです!」
「海にも時間ができたら行ってみようか。キエリといると楽しみがどんどん増えていくよ」
キエリも楽しみなことが増えていくのを幸せに感じて、緊張がほぐれて、にこりと笑顔になった。
ただ、キエリはまだ気づいていなかった。
王子と一緒に馬に乗って凱旋するなど、傍から見れば恋人のようにしか見えず、さらに、あらかじめ用意周到にフェリクスはある女性の魔法によって呪いが解かれたという噂を流させていたことを‥‥。




