魔女
街でヒールの音を響かせて歩く、美しい金髪に豊満なからだの女性は通り過ぎる男性たちの視線を釘づけにしていた。
しかし、当の本人は頭の中は魔法の研究でいっぱいだった。
(あーあ、まったく、全部ダメになっちゃうだなんてびっくりだわ。他の方法を考えないとネ)
(今度は、魔力の調整を半分にしてみて‥‥あぁん! 次の実験が楽しみすぎる)
「あら?」
ゼノの魔法研究に対する欲望のレーダーにあるものが引っかかった。
(うそ‥‥これは魔力?‥‥よね?)
その魔力の方向へ興奮気味に急いで走って行った。
「はぁ‥‥はぁ‥‥どこ? わたしの研究欲をくすぐる研究対象ちゃんは!?」
棚の中に座っていた人形は、目をギラギラとさせているゼノの姿が視界に入った。
(何あの人?)
「そこね!!」
(こっちに来た!)
ゼノは、間違いなく人形めがけて歩いてきて、人形のことをじっと見つめる。
「うっそーん!! この子ったら、魔力まであって、さらに話してる‥‥これは、魂と言っていいのかしら?」
ゼノは興奮して人目もはばからず、べらべらと一人で話している。
人形は、自分で動くこともできないので、この人間は一体何なのかとじっと考えていた。
(あなた、わたしの声が聞こえるのですね‥‥一体あなたは誰ですか?)
「ん? アタクシ? アタクシは世界一秀麗で、世界一優秀な魔女のゼノよ! ヨロシクね」
ゼノは、ぱちりと片目を閉じて、堂々と自己紹介をした。
(まじょ?)
「そ、からだの中に魔力を宿し、それを研究し、いろーんなことに使えちゃうすんごい人間のことよ」
(すんごい‥‥?)
「あら? しっくりこない? じゃあ、取引しまショ」
このゼノという人物は一言離せばその倍以上で返してくる。
しかも、どんどん話が進むので人形はついていけないでいた。
「アタクシがアナタに肉体をあげる。その代わり、アナタを観察させてほしいの。どうかしら?」
(肉体?‥‥というのはどういうことですか?)
「人間のように自由に動けるからだよ。どう? 魅力的でしょ?」
唐突な提案に人形は困惑がさらに増した。
だが、ひとつ、肉体と聞いてある考えが浮かんだ。
(自由に動けるんですよね? 観察している間でも自由にしていていいですか?)
「もちろん、何だってしていいわよ」
(‥‥あの子は今困っている‥‥肉体を持てば何か助けられるかもしれない‥‥)
「ほら? 何かやりたいことあるんでしょ? いーいじゃない、やっちゃいなよん!」
人形はもう答えは決まっていた。
(お願いします)
「んふふ、ヨロシクね‥‥」
ゼノはにんまりと笑って、人形を抱きかかえた。
「ゼノに力を貸してもらって、こうして皆さんに会うことができました」
「‥‥魔女‥‥本当にその魔女って大丈夫なのかい?」
エレドナが不安そうな面持ちで恐る恐るきく。
「んー‥‥ゼノは研究に対してものすごく情熱を注ぐ人で、そのためならいろいろやると思いますが基本的にいい人だと思います」
「こうやって、もう一度わたしに肉体を与えてくれましたし‥‥」
「そ~よマダム! アタクシは悪い魔女じゃなくてよ!」
「ひゃあ!?」
声がしたと思ったら、突然エレドナの後ろにゼノが現われた。
エレドナは驚きすぎて大きな声で叫んだ。
「ゼノ、どうしたの?」
「どうしたのって‥‥そりゃキエリに会いに来たのよ。昨日ぶり!」
「そっか」
キエリは、ゼノが会いに来てくれたことは嬉しいのかにこりと笑顔になった。
ゼノがくるっと手のひらを回すとキエリのからだが浮かび上がった。
「な、なにゼノ?」
「ちょっとシツレイ」
キエリが座っていた椅子にドカッと座り、ゼノは膝の上にキエリをのせた。
「重くないの?」
「標準じゃない?」
「いや、膝が痛くならないかって‥‥ゔっ」
突然ゼノは思い切りキエリの腹を掴んで、ぐっぐっと内臓を確かめるように腹を押した。
「ちょっと、キエリに何をするんですか!」
ずっとキエリを弄ばれていることに我慢をしていた王子の我慢が解かれ、キエリをゼノの膝から持ち上げた。
「内臓がちゃんとできてるか確かめたのよ。ま、だいじょぶじゃない?」
満足したゼノは鼻歌を歌いながら、部屋の扉から出て行こうとしたが、急に振り返った。
「キエリ、そのからだなら、ちゃんと子供もできると思うから、ぜひ作ってみてね」
そんな爆弾を落としてから、ゼノはじゃあねぇ~と手を振って部屋から出て行ってしまった。
「子供?」
キエリは不思議そうにゼノが出て行った扉を見つめた。
王子に持ち上げられていたが、そっと降ろされた。
キエリがちらりと王子の顔をみるときれいな顔がものすごく険しくなっていた。
周りの皆もグイス以外下をむいていた。
「どっどうしました?」
「‥‥‥なんでもない」
グイスがそれをにやにやとしながら見ていた。
その視線に気づき王子はグイスを睨みつけたが、グイスは知らぬふりをしてそっぽをむいた。
王子が咳ばらいをして気持ちを切り替えた。
「‥‥キエリ、お前の過去はだいたい理解できた。それに、どうして会いに来てくれたのかも‥‥」
「皆さんには隠し事ばかりで申し訳ありませんでした‥‥」
「いいよ。でも、今度からはちゃんと相談してほしい。俺も皆も助けになりたいと思うから‥‥」
「はい」
キエリは、皆の優しさが心にしみて、これからも大好きな友人たちといられると思うと嬉しくなった。




