気付かれたくない
2021/10/18 ちょっと書き換えました
考え事をしていると気持ちが暗くなってしまいそうで、気分転換にキエリが屋敷の掃除をしていると、コンゴウに呼び止められた。
「これ、キエリ王様と王妃様がお呼びだ。着替えてきなさい」
「わたし、ですか? 遠慮することは‥‥できないですよね?」
「そうだ。さ、メイドをよこしてあるから。早く行きなさい」
「あ、いや‥‥はい」
キエリが歯切れ悪く答えたのをコンゴウは少し引っかかったが、キエリの掃除道具を受け取り、着替えの部屋へと案内した。
(ど、どうしよう。エレドナさんの時はごまかせたけど‥‥メイドさんをごまかしきれるかな?)
キエリが部屋に到着すると、三人のメイドが待機していた。
「キエリ様、私共が身支度のお手伝いさせていただきます」
メイドたちは、あらかじめキエリのことを聞いていたのかキエリの姿を見ても驚く様子はない。
王子のこともあるので相手の見た目で反応しないように言ってあるのかもしれない。
「あの、それなのですがお風呂も着替えも自分でできるので、髪の毛とか‥‥お化粧とか‥‥だけを」
メイドたちはにこりと笑ってじわりじわりとにじり寄ってくる。
「私共はキエリ様を最上に美しくせよと仰せつかっております」
「いや、あのでも‥‥‥不快にさせてしまうので‥‥」
「大丈夫です。お任せください」
キエリは少し逃げ回ったが三人に囲まれ、にこりとすごまれて、キエリは結局折れることとなった。
(お、お風呂‥‥)
キエリは、温かな湯が張ってある湯船を前に固まっていた。
「失礼します」
キエリは観念してメイドたちに服を脱がされた。
「‥‥‥っつ!?」
キエリの肌の大部分が露になり、メイドたちの息を飲む音が聞こえた。
顔の傷も両腕がないことも反応しないでいてくれたメイドたちだが、キエリの傷だらけで人間味のないからだを見てさすがに驚いていた。
「ひっ、なにこれ本当に人間!?」
「なんてことを言うの!? あなたっ、退出なさい!」
メイドの一人が声をあげて驚いてしまい、一番年配のメイドに部屋から追い出された。
「申し訳ございませんでした‥‥」
残ったメイドたちが深く頭を下げた。
キエリが慌てて、首を横に振った。
「大丈夫です! 驚くのは当然です‥‥このからだはおかしいですから。あの人は悪くありません」
「でも、あの、他の人には言わないでいてくれると‥‥」
「はい‥‥」
そうはいっているがメイドたちの顔色は優れない。
キエリも申し訳なさでいっぱいになって、ずっと顔は悲しくうつむいたままだった。
(あぁ、気分を悪くさせてしまった‥‥)
(本当の化け物は‥‥わたしだ‥‥)
身支度を終えられたキエリは、鏡の前で顔を上げた。
淡い緑色のドレスに身を包み、肩にはレースの羽織がかけられている。
唇には紅がひかれ、瞼も薄くパウダーで塗られて、化粧された顔は綺麗だったが先ほどのことがあり、顔からは悲しみが漏れ出ていた。
(今まで、そんなに気にしてなかったのに‥‥ううん、気にする暇がなくて、考えてなかっただけだ)
(わたしは、みんなとは、あの子とは違う‥‥命ですらないんだ)
(理解していたはずなのに、どうして今になって悲しくなるのかな)
「今から王子様と会うのに‥‥しっかりしなきゃ」
キエリは、フゥーッとゆっくり息を吐いて、背筋を伸ばした。
王子と王、そして王妃は庭を歩きながら、少しずつ今までの溝を埋めるように会話をしていた。
「父上、母上、今まで申し訳ありませんでした。これからは、以前のようにはいきませんが父上と母上の助けができればと思います」
「そうか‥‥私たちも今まですまなかった。お前の父親であるのに、お前のために何もしてやれなかった」
「そのようなことはありません。ずっと、寄り添ってくださったのに、俺は今まで我を失っていました。それを皆やキエリのおかげで失っていたものを少しずつ取り戻せました‥‥」
王妃と王が意味ありげに笑顔になる。
「うふふ、よほどキエリさんが大切なのね。あぁ、孫が見られる日もそう遠くはないかもね」
「はっはっは、そうだな」
王子が一瞬けつまづきそうになったが、持ち堪えた。
「ちっ、父上! 母上! そのような間柄ではありません!」
「まだな。まだ」
王は、息子に激励を贈るように王子の背中をぽんぽんと叩いた。
王子はため息をつきながら、恥ずかしさで片手で顔を覆った。
王妃は扇子をふりふりとしながら、にこにこと微笑んでいる。
(あぁ、またこんな風にフェリクスと会話できる日が来るなんて‥‥以前は誰にでも牙をむいていたのに、本当に変えてくれたキエリさんには感謝しきれないわ)
(このままお嫁に来てもらいましょう。呪いをかけられたフェリクスを見捨てたあの娘よりも信用できるわ)
王妃が心の中で二人の距離を縮めさせるための作戦を考えていると、準備を終わらせたキエリがやって来た。
「お待たせしました」
笑顔でやってくるキエリを王と王妃は笑顔で迎え入れた。
「あら、とっても綺麗よ。そのドレス似合ってるわ」
「ありがとうございます」
王と王妃がキエリを褒めているというのに、王子は少し眉をひそめた。
「キエリ、どうした?」
「え?」
「いや、浮かぬ顔をしていたから、何かあったのかと‥‥」
(やだ、顔に出てたのかな‥‥)
キエリは心配させまいと、王子に優しく微笑みかけた。
「大丈夫です。何もありませんよ」
「‥‥そうか」
何か言いたげだったが、王子はそれ以上何も言わなかった。
「キエリさん、私たち、あなたのことをもっと知りたいわ。よかったらいろいろお話ししましょう」
王妃は、にこりと親しみのある笑みでキエリに笑いかけた。
「わたしのお話しですか? あまりいいお話しはできませんが‥‥」
キエリは少しもじもじとしていい淀む。
王もキエリに優しく微笑む。
「何でもいいんだよ。今までどう過ごしてきたのか。何をするのが好きなのかとかね」
(今まで、のことは話せないな‥‥でも、好きなことなら)
「好きなことくらいしかお話し出来なくて申し訳ないのですが‥‥でも、わたしも王子様のことを王様と王妃からお聞きしたいです」
「もちろんだとも!」
「父上、あまり変なことを彼女に吹き込まないでくださいね」
「ふふっ、変なことがあるのですか? それは楽しみです」
キエリが悪戯っぽく笑うと、王子は唸りながらたじろいだように手で目を覆い隠した。




