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【完結】呪われた王子と幸せにしたい少女  作者: Nadi
第一章

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お前がいるだけで

 「う、うあああ、ほんどに殿下がお元気になっで、よがった‥‥」

 「うんうん、よかったな、ほら飲め飲め」


お酒の入ったコンゴウが泣き上戸になり、本音をぼろぼろと話し出した。


それを面白がってグイスがよりコンゴウのコップに酒を注ぐ。


 「コンゴウにも、皆にも心配をかけていたのだな‥‥」


王子が申し訳なさそうに、ぽつりと呟いた。


 「あぁ、そうさ! だから、もう心配かけるようなことしないでくださいよ!」


グイスがむっとして王子を睨みつけながら、念押しするように言った。


少し前の王子ならこんな態度をとられれば怒っていたところだが、王子は素直に反省して「すまない‥‥」と言った。


 「あらあら、今日の殿下は随分素直ですこと。それもこれもキエリが来てくれたおかげかしら」


エレドナは、にこにことしながらキエリを見る。


 「‥‥‥」

 「キエリ?」


キエリから反応がなく、皆がキエリの顔をみると頬と唇が赤く艶やかに染まっていて、目も少しうるんでいて、その場の全員がキエリにドキリとしてしまうほどだった。


初めての酒は、だいぶ回ってしまったらしい。


 「き、きえり! だいぶ酔いが回ってるみたいだよ。みず‥‥そう、水飲んで!」


クイナがキエリの様子にかなりどぎまぎしてしまって声が裏返る。


 「ん‥‥のませて」


さっきまで自分で飲んでいたはずなのに、甘えたように言ってきて、とろんとした目つきでクイナを見る。


 「ひゃっ! はっはぃ」


顔を真っ赤にして、慌てて水を持つクイナだったが、キエリの顔は別の人物に横を向かされた。


 「飲め」


王子が水を手に持って、手慣れた様子でキエリに少し上を向かせて飲ませた。


キエリは、されるがままにこくこくと水を飲んでいく。


水を飲み終えても、キエリのからだはふわふわと浮いているようだ。


 「少し外の空気を吸ってこい」

 「ふひひ、はぁい」


にへらと笑ってキエリが立ち上がるがあまりにも足元がおぼつかない。


王子がキエリを軽く持ち上げた。


 「おくってくる」

 「えぇ、ごゆっくり」


エレドナとグイスががにこっと笑って二人を見送った。


 「僕、もうちょっと飲みます‥‥」

 「おう! 飲め飲め!」


少し傷心したクイナが酒をあおった。




 「おい‥‥大丈夫か?」

 「はぃ‥‥ふふ」


歩く王子の腕に抱かれて、キエリは嬉しそうにころころと笑った。


まだ酔いはさめていないらしい。


 「ここならいいか‥‥」


王子とキエリは屋敷のバルコニーにでて、夜の冷気を吸い込み、息を吐けば白い靄が生まれて消える。


バルコニーのベンチにキエリを抱えたまま座り、さらに外套でキエリを包んだ。


 「寒くはないか?」

 「はい、王子様の腕の中は温かいです‥‥ふふ」


キエリが嬉しそうに王子に身を寄せる。


王子の獣の顔が少し緩んだ。


空を見上げれば、キエリの着ている服のようなきれいな星空が広がっていた。


 「あの歌は‥‥グイスが作ったのだろう?」


キエリが腕の中でもぞもぞ動いて、王子を見上げる。


 「はい、王子様を想って書いたらしいです」

 「歌詞の中にお前もいたな」

 「そうでしたか?」

 「あぁ、いたよ‥‥」

 「そうですか‥‥」


キエリは、まだぽーっとしているようで、とろんとした目つきで王子をじっと見つめてくる。


 「どうした? まだ酔いはさめないのか?」

 「なんだか夢の中にいるようで‥‥不思議な感覚がします。それに‥‥」

 「なんだ?」

 「なんだか不安になってきました」


王子が眉間に皺を寄せ、キエリを見つめる。


 「一体何が不安なんだ」

 「わたしばかりが幸せになっている気がして‥‥わたしは王子様に幸せになってほしいのに、このお屋敷に来てから心が温まることがいっぱいで」

 「お屋敷の皆さんと出会えて、王子様とこうやって過ごせて、わたし、とても幸せなんです‥‥幸せすぎて怖いです」

 「王子様は今、幸せですか? わたし、ちゃんとお役に立てていますか?」

 「‥‥‥」


キエリは、不安そうに王子を見つめたが、王子は黙りこくってしまった。


 (あ‥‥わたし、こんなことを言って困らせてる‥‥)


キエリは、王子を困らせてしまったと考えると酷く外の寒さが感じられて、酔いがすっとさめてきた。


 「す、すみません。変なこと言ってしまって‥‥もう、酔いもさめてきました」

 「もう、部屋に戻りましょうか」

 「幸せ‥‥か、どうかは正直わからない」

 「!」


王子は、ゆっくりと口を動かし、少しずつ話し始めた。


 「俺がこの呪いをかけられてから、感情のコントロールがうまくできなくなっていった。いつも心が重苦しくて、何もかもが憎らしく感じて」

 「何よりも大事なはずの人たちに酷いことをしてしまった‥‥そんな自分が許せなくて、この屋敷に閉じこもった」

 「お前にも酷いことをしてしまった‥‥俺のために行動してくれたことは‥‥嬉しかった」

 「ありがとう、キエリ‥‥」


キエリは、目を見開いたまま、からだが硬直してしまってしばらく動けなかった。


やっと、口が動いて、言葉を絞り出す。


 「よかった‥‥よかったです‥‥‥」


キエリは、王子の胸に顔をうずめて、目一杯王子の温かさを感じとった。


そうしていると、王子の体温が心地よくてキエリに眠気が襲ってきた。


 「す、みません‥‥なんだかほっとしたら眠たくなってきました。もう、お部屋に行きますね‥‥」

 「そのまま寝てもいい‥‥部屋におくりおどけるから」

 「はぃ‥‥」


キエリは眠気に抗えず、そのまま目を閉じてしまった。




 王子は腕の中で眠るキエリを静かに見つめる。


 「キエリ‥‥」


 (今となってはお前がどうしてここに来たのか、一体何者なのか、関係ない‥‥)

 (お前に触れると、お前の笑顔を見ると心安らぐ)


王子がキエリの銀色の髪を爪で梳く。その顔は今まで見せたことがないほどに優しかった。


 (たとえ呪いが解けなくとも、お前がいてくれるだけで‥‥俺は‥‥)

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