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【完結】呪われた王子と幸せにしたい少女  作者: Nadi
第一章

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あなたを見つめる

 キエリが目を覚ますと王子の姿がなく、キエリがぼーっとしながらきょろきょろと部屋を見渡した。


間もなくすると、扉が開かれ、王子が分厚い本を持って帰ってきた。


王子の姿を見て、キエリがほっとしたように笑顔になった。


王子はキエリの反応が理解できず、顔をしかめる。


 「何を笑っている?」

 「王子様とまた会えてよかったなぁ、と思って」


王子は、呆れたため息をついて、椅子に座り、本を読み始めた。


 「何の本を読んでいらっしゃるのですか?」


王子の目線が本から少しだけキエリに向けられて、また本に戻った。


 「お前には関係のない本だ」

 「そうですか‥‥きっと、たくさん文字が読めれば、たくさん物語を知ることができますね」

 「お前、字が読めないのか?」

 「少ししか‥‥」


思えば両腕のない少女が今までどのように生きてこれたのか、不思議でしょうがない。


両親はいるのか、それとも孤児なのか、様々な可能性は考えられたが実際にどうなのかは王子にはいまいち想像がつかなかった。


 「お前、そんな姿で今までどうやって生きてきた?」


キエリは、自分について質問されると思っていなかったのか、目をぱちくりとさせていた。


 「王子様から質問されるだなんて、びっくりです」

 「いいから答えろ」


少し苛立ったように吐き捨てたがキエリは嬉しそうに微笑んでいた。


 「そうですね‥‥んーと、最初はお父様と暮らしていた‥‥気がします。あまり思い出せないのですが」

 「記憶がないのか?」

 「ぼんやりとしか‥‥でも‥‥‥」


キエリが切なそうに長いまつげを伏せた。


 「無理に話さなくていい」


王子が静かにそういうと、キエリは「大丈夫です」といって横に首を振った。


 「‥‥あとはいろんなところを転々としていました」


キエリは珍しく口数少なく、王子から視線を外している。


あまり良い過去を思い出せていないのか、表情は固い。


 「あ‥‥でも、いろいろありましたが、あの思い出だけは大事だな‥‥」


キエリがそう独り言のように呟いたとき固かった表情がとても優しく柔らかくなった。


嬉しそうに微笑んで頬が少し赤い。


王子は、その顔を見たときなんとも言えない苦々しい感情が溢れてきた。


キエリは、会話していたはずが一人で思い出に耽ってしまい、慌てて王子に向き直った。


 「すみません、少しぼーっとしてました。わたし、あまりいいお話しがなくて、つまらなかったですね」

 「そうだな、時間を無駄にした」


王子は立ち上がると医務室をあとにした。


ぽつんと残されたキエリは、また何か不快にさせてしまったのかと胸が切なくぎゅっとなった。




 キエリは、起き上がって何かやっていると怒られるだろうかと思ったが、じっとしているわけにいかず医務室から出ていった。


 (もう、いいよね? 食べることもできたし、寝たし。時間は限られているもの‥‥グイスは待っててくれてるかな?)


キエリは温室へと足早に歩きだした。



 温室でまたグイスが寝っ転がって寝ていた。


 (また寝てる‥‥)


キエリはグイスの脇にかがんで、ぐっすりと眠るグイスの顔を覗き込む。


 「人間には睡眠と食事が必要‥‥か‥‥」


キエリがぽつりと呟くと、グイスがぱちりと目を覚ました。


 「なんだ? 俺のイケてる寝顔に見とれてんの?」

 「起きてたの?」


グイスは、からだを起こしてぐっと伸びをし、からだをゆっくりとほぐす。


 「お前、倒れたらしいな? しかもあの殿下に介抱されたんだって? いやぁ、そんなにもう距離を縮めているとは、やるねぇ」


グイスは茶化すように笑いながら話す。


キエリは思い出せば恥ずかしいし、笑われてちょっと腹が立った。


 「もう、水をまた引っ掛けるよ!」

 「いやいや、オレは褒めてんだぜ? だって呪いをかけられたあの陰気野郎にそこまでさせたのはお前が初めてだからさ」

 「陰気って‥‥王子様はそんなんじゃないよ! それに、もともと王子様はお優しいのだから」

 「そうだよ、あいつは優しい奴だった。けど、誰かに優しくすることができなくなってたんだよ」


できないというのは、したくてもできない、ということなのだろうかとキエリは考えた。


 「‥‥呪いのせいで?」

 「あぁ‥‥今まで仲がいいと思ってたやつらに怯えられて、大事に思ってくれる奴らもまるで腫れ物に触るような扱いしかできなくなって‥‥傷つけるのも、傷つけられるのも嫌になってるから、ああやって独りで閉じこもってるんだろうな」

 「まっ、オレの想像でしかないけどな!」


グイスは、ばっと立ち上がって首をこきこきとならした。


 「んじゃ、やるか‥‥って、おまっ、どうした?」


グイスがキエリをみると、キエリの大きな瞳からぽろぽろと涙が流れていてグイスは思わずぎょっとした。


 「ぉおい、オレそんな嫌なこと言ったか?」


グイスがあたふたするのをよそに、涙を流している本人が驚いたようにきょとんとしている。


 「ごめん、王子様の気持ちを考えてたらなんだか苦しくなって‥‥わたしが泣けるなんてびっくりしちゃった」


キエリは困ったように笑うと膝でぐしぐしと涙を拭った。


それをグイスが不安そうな顔をしてみる。


 「‥‥お前ってなんか変わってるよな? 見かけもあるけど、雰囲気が」

 「そうなの? わたしって変なのかな‥‥」

 「いや、嫌な意味じゃなくて、存在がふわふわしてるっていうか、なんだか‥‥お前ってなんだかいつか‥‥」


グイスが何かいい淀み、キエリは首を傾げたがグイスは結局言葉の続きを言うことはなかった。


 「ほらっ、立て立て! 練習すんだろ!」

 「うん! 王子様を元気にするぞ作戦のためにがんばるっ!」


キエリは、にこっと元気な笑顔で答え立ち上がった。


 「名前ダサいな」


グイスは、キエリを見てやれやれと言ったように微笑む。


心の奥底で王子のことが少し羨ましく思えた。

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