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【完結】呪われた王子と幸せにしたい少女  作者: Nadi
第一章

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自問する

 王子は、キエリを抱えたまま医務室までたどり着いた。


幸運なことに移動するまでに誰かに会うことはなかったが、キエリは恥ずかしくてたまらず、ずっと俯いたままだった。


医務室もキエリが掃除していて、完ぺきではないが以前よりも明るくきれいになっていた。


 「本当に掃除したんだな‥‥」


王子は、ぽつりと呟くとキエリを寝台の上にそっと寝かせ、毛布をしっかりと被せた。


 「あの、ご迷惑おかけしました‥‥」


キエリが気まずそうに王子を見上げると、王子は狼の顔の鼻筋部分に皺が寄っているのが見えた。


 「えと、もう大丈夫ですから。王子様はお戻りになっても‥‥」


しかし、王子は近くに椅子を引き寄せてきて、そこにどっかりと座ってしまった。


どうやら動くつもりはないらしい。


 しばらくするとエレドナが食事を持ってきて、ひどく心配されて「ちゃんと食べなさい!」と叱られてしまった。


王子を見るとにこっと笑って「では、キエリをお願いしますね」と言って嬉しそうに出て行ってしまった。


 キエリの膝の上に病院で使うような小さい机が用意され、そこに美味しい匂いを漂わせる食事が並べられている。


キエリはその食事を見ながら固まっていた。


 (食べる‥‥物をちぎって噛んで飲み込む‥‥できるかな?)


ちらりと横を見るとじっとこちらを見ている王子がいる。


 「あの‥‥た、食べますから」

 「あぁ、食べろ」

 「あの、ですから、そんなに見られると‥‥」

 「見られるとなんだ?」


キエリは食べ物をどう食べようかといろいろ想像してみたが、きれいには食べれないと思うと王子に見られるのは嫌な気がした。


 「見られると‥‥は、恥ずかしいです」

 「‥‥‥」


一体自分はどんな顔をしているのだろうか。


今までこんなに恥ずかしいと感じることがなかった。


こんな顔も見られたくない気がして、キエリは王子から顔を背けて、王子が退出するのを待っていたが、王子の気配は遠のくどころか近づいてきた。


キエリは、驚いて王子を見上げると、彼は寝台に腰掛けてきて、からだが大きくて重いため腰掛けた部分が深く沈んでキエリはバランスを崩しそうになった。


何をするのだろうとキエリが首を傾げていると、王子は机の上にのっているパンを持ってキエリの口元に運んだ。


 「食べろ」

 「え? でも‥‥」

 「食べろ‥‥」


キエリの戸惑いなどお構いなしにパンを差し出したままだ。


王子は、爪が危ないからかパンを大きな手のひらにのせてお皿の代わりにしている。


 (この子って意外と頑固なのかも‥‥)


キエリは、諦めて手のひらにのっているパンに歯をたてた。


 (ちぎって、噛んで‥‥飲みこむ)


その様子を王子は黙って見ていた。


 (うぅ‥‥恥ずかしすぎて、なんの味もしない!)


パンを少し食べた後は、皿にパンを置いて、次はスープの器とスプーンを持った。


王子がもつとスプーンがおもちゃのように思える。


こぼさないようにそっとキエリの口元に運んでくれたのをゆっくりと飲み込む。


少し落ち着いてきて、スープの味はわかった。


 (おいしい? これが、おいしい‥‥)


キエリは、スープの美味しさについて考えていると口の端からスープがこぼれてしまったが、王子が指で拭ってくれた。


 (なんだか親鳥に餌をもらう気分だ‥‥)


 結局、最後まで王子はキエリの食事の手伝いをした。


黙々と食べさせられたので、キエリも黙々と食べ続けた。


 王子は、食器を壊さないように慎重に盆にのせて片づけた。


 「ご迷惑おかけしました」


キエリが随分迷惑をかけてしまったと思い、しゅんとしながら頭を下げた。


 「あの、それではわたし行きますね」


十分に休んだし、これ以上一緒にいては迷惑をかけつづけてしまうのではと考え寝台からおりようとしたところで、王子に睨まれた。


 「寝ろ」

 「え?でも‥‥」

 「これ以上煩わせるな。寝ろ」

 「は、はい‥‥」


キエリは、おずおずと寝台に戻ると、王子はまた椅子に座ってキエリを見つめていた。

眠るまで動かないつもりらしい。


 「あの、王子様‥‥」

 「なんだ?」

 「ありがとうございます。心配してくださって、食べることまで手伝ってくださって」

 「‥‥‥無駄話をしていないで、早く目をつむれ」

 「王子様とのお話しは無駄なことなんてないです」

 「はぁ‥‥お前はどうしてそんなに変わっているんだ? 普通の人間なら、俺の顔を見るだけで怯えてしまうのに」

 「王子様は怖くないですから‥‥」


王子は、困ったように頭を片手で覆う。


すっかり毒気が抜けてしまって、凶暴な牙も爪も今はあまり意味を成していない。


 「でも、わたし眠るのは怖いみたいです‥‥さっきも目の前が真っ暗になって、訳が分からなくなって、あのまま王子様に会えなくなるんじゃないかって思ったら、とても‥‥とても怖かったです」


キエリは、本当に怯えているのかからだを丸く縮こませ、微かに肩が震えていた。


王子は、ゆっくりと立ち上がり寝台の脇に座ると、キエリの背中を爪が当たらないようにゆっくり力が入りすぎないようにぽんぽんと優しく叩いた。


 「幼い頃、眠るのが恐ろしいとき母上がしてくださった。いい夢をみるように、と言って‥‥」

 「‥‥お優しい方なのですね‥‥王子様の手は温かいです」

 「嫌でも目は覚める。何も考えず、さっさと眠ってしまえ」

 「はい‥‥王子様が寝られないときは、今度はわたしが背中ぽんぽんしますね‥‥」


キエリは、背中から伝わる王子の手の温かさを感じながら優しい夢の中へと沈んでいった。




 (俺は、どうしてしまったんだ‥‥)


王子は、自問していた。


しかし、答えは見つからない。


 キエリが眠った後に自室に戻ったがそこで再び読書を始めるのではなく、本を持ってまたすぐにキエリが眠っている部屋に戻ってきてしまった。


椅子に座って本を読み進めると自室で読むより集中できた。


 キエリの寝息が聞こえ、ふと、とても静かなことに気付いた。


いつもなら聞こえてくる幻聴が全く聞こえていない。


本を閉じて、ちゃんと呼吸して眠るキエリを見つめると自然と表情が緩んだ。


 (どうして、こうも落ち着く? お前‥‥なのか?)


 キエリが倒れているのを見つけたとき、心底動揺した。


耳を胸に当て鼓動が聞こえなかったときは、目の前が真っ暗になりそうだった。


目を覚ましてくれて、泣きたくなるくらいほっとした。


彼女が食べるのを手伝うとき嫌だと感じなかった。


 (俺は、お前をどうしたいんだ‥‥)

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