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陰府これに隨ふ  作者: 雀ヶ森 惠
2.une semaine de bonté,ou les sept éléments capitaux
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Tru'nembra(1)

 アイカはクリスマスを楽しみにしていたが(私のせいで台無しになったイベントだ)、私はこの冬至イベントには少しも期待などしてなかった。

 ただこのフライヤーを置いて行った製作者に興味があるだけだったし、今から店に問い合わせても返事は来年だろうから関係者を探しに出向いた次第だ。――HPに依れば小さな箱らしいので居ても不思議ではない、場所はJR八王子の繁華街の片隅、23時、雑居ビルの地下行き階段を下りていくとクラブらしい、腹に響く音が聞こえ始めた。

 入り口ドアの前に小さなレジスターと、もぎりをやっている防寒着の男が居て、私を見ると声を掛けてきた。


「いらっしゃい、おひとり様? Tru'nembraへようこそ」


 クラブの店員らしい軽佻浮薄な雰囲気だ。それ以上にある種の中毒者のような、否、偏見か。

 私は無言でフライヤーを見せる。


「お代、1500円ね」


 料金を支払うとペラペラの紙に印刷されたドリンクチケットを二枚寄越す。


「南瓜はないけど、楽しんでらっしゃい」


 扉を開けた、轟音、熱気、乱痴気騒ぎの夜がはじまる――


 そこは本当に狭い店で20人も入れば一杯の店舗であった。成程、アドレスが電話番号なのも納得だ。店側にやる気があるというよりイベントの作り手側にやる気があるのだろう、あのフライヤーのように。

 大音量で掛かっているのは――ハードハウスだが時折断片のように聞こえるのが変わった旋律の曲であった。何だろう? 何かを鷲掴みにされるような。有名曲を繋いでいるだけの駄目DJではないようだ、しかも案外……


「踊らないのかい? お兄さん、荷物預けなよ。ロッカーはそっち!」


 不意に知らない男に声をかけられて、私は我に返った。


「聞くこと聞けたらチケットはそいつにやってもいい、踊りに来たんじゃないんだ。期待外れなら終電あるうちに京八駅に戻りたい」


「ここでは珍しい手合いだな。何が聞きたいって?」


「今晩のイベントのフライヤーを作ったのは誰だ!?」


 大きな声で訊かないとこの音の渦にかき消されてしまう。


「さあな、バーカウンターで聞いてみたらどうだ」


 結局何か飲むことになるのか私は? 仕方なく人込みを書き分けてバーカウンターへと行った。カウンターと言っても椅子があるわけじゃない、本当にカウンターのみだ。


「ようこそ、ドリンクチケットは?」


 カウンター内部にいたバーテンなのかバイトなのか分からない男に声を掛けられた。


「飲みに来たんじゃない、此のフライヤーを作ったのは誰だ?」


 私はハガキをちらつかせた。


「店に居るってことはチケットあるだろ? まあ飲めや。そしたら教えたる」


………………、仕方ない私はチケットを一枚出した。


「何を飲む? 酒のリストはこれな」


 カウンターにはラミネート加工された紙が一枚、そこにバーカウンターの明かりで漸く読める酒のリストが書かれていた。選べってか……


「カールスバーグ」


 私が無愛想に答えると、バーテンは紙コップにそのビールをなみなみと注ぎ、カウンター越しに手渡す。


「おい! タマキ! タマキはどこだ?」


 急に彼が誰かを呼んだので私は酷く驚いた。ビールを落としそうになった。

 爆音で聞こえないのか、なかなかその人物は現れなかったが、数分待つと誰か見知らぬ男が見知らぬ女を連れてきた。


「アンタを探してたんだとよ、タマキ」


 目の前に来たのは中背で痩せた面長の女だった。癖のある黒い髪が方に掛かっている。

 駄目だ。どうしても、どうしてもアイカと比較してしまう。

 服装はクラブに相応しく軽装というかいたくラフだ、ノースリーブのシャツにカーゴパンツを穿いている。


「何故? わたしなんかしました?」


「アンタの作ったフライヤーのことでこちらのお兄さんがって」

 バーカウンターの中から男が口を挟む。


「そうだ」


「非現実の王国として知られる地における、ヴィヴィアン・ガールズの物語、子供奴隷の反乱に起因するグランデコ・アンジェリニアン戦争の嵐の物語」


「……あんた何者だ?」


 クラブの喧騒だけではない妙な熱気に捉われていき、それとまた同時に血の気が引いていくのも感じていた。


「とりあえず一緒に踊りましょうか? そのコートと鞄預けてきたら」


「って、ちょっと!?」


「したい話はそれからしましょう」


 そう言うとタマキはフロアに戻って行ってしまった。


 畜生、追うしかないのか!


 この冬は終わらない。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここまで読了。 銀鶏の最後の台詞、分かる人には分かるんだろうけど分かんなくてもかっこいい。
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