不安定なfantasy(3)
そうして二人は押し問答となっていたが、私が「それ」を見に行くことはよしとしなかっただろう、決して。
「分かった、もう今夜は終わり! また別の日に罠を張るそれでいい? まるこめ君?」
「まるこめくんじゃねええよwwwww、でも今日はdぽうかと思うからその方がいいかもしれないnえ」
「よしjane_doe帰ろう」
「でも……」
私は口籠った。やはり二人が正気を無くすように畏怖したモノを私は確かめたいという、好奇心に打ち勝てなかったのかもしれない。
「どうしたの?」
「済まない、やはり私もそれを見てくる」
そう言うと踵を返し私は二人を置いて駆け出した。一体二人は何を見たというのか? どうしてもそれが見たくてあやのの言う猟場とやらへ向かっていた。二人が戻ってくる時間を加味すれば100mもここからないはずだ。そこには何が掛かっているのだ?
だが「好奇心は猫をも殺す」
私はまさに猫にならんとしていたのだ、自ら望んで――
あやのが言っていた猟場はこの地下空間の中でも、天蓋の開けた巨大な空間だった。そこに空から、地面から、地下水に潜む水生生物やらなにやら色んなものが掛かってくるに違いなかった。
そしてそこには大きめの罠が仕掛けてあり(昼間にあやのが仕掛けたといったものに相違なかった)確かに何かが掛かっていた。そう何かが。
私は二人に従うべきだった。
それは見てはいけない類のものだったのだ。
まるこめXの言った通りそれには翼があり、鳥のカリカチュアと言えなくもなかった。
だがそれはどう考えても私の悪夢の想像を超えた産物でしかなく、言うなれば腐った、ハゲタカのような、かぎ爪のある、カラスでもなく、昆虫ののような、薄い毛の生えた、何らかの乗用動物であろう何かが弱って罠にかかりこの世のものとも思えない、不快な断末魔を上げているのであった。
――逃げなければ!
私は即座にそう思った。
弱っているとはいえ、こいつのにはまだ私を切り裂いて余りある能力が残っている! そう私の本能は告げていた。
だが私はバランスを崩し転んだ。
罠の上から「それ」のかぎ爪がゆっくりと私に迫っていた。
終わりか。
Game over.thank you for playing!
目を閉じる。
そのとき、不快な断末魔はいよいよ大きくなって、それは引きずるように消えていった。
どうした? 何が起きたというのだ?
そして、あやのでもない、まるこめXでもない、聞き覚えのある声音が聞こえた。聞こえるはずのない声が。
「なんのエラーか知らないがこんなところで良いのか?」
私は伏せた状態からゆっくりと振り返り声の主を確認した。
そこには青黒い長髪に、灰色の眸をした少女――彼女の背後には名状し難い恐怖の主が未知の体液に塗れて沈んでおり、あの若頭LV10の亡骸より毎日奪っていた長剣より遥かに良い武器を手に、此方をじっと視ていた。あのどす黒いオーラは増している程だったが。
「???のTiger chaser……なぜここに?」
「それはこちらのセリフだ、何故あんたここに居るんだ、ここはぼくのレベル上げの場所だ。ま、予想外の生き物がいてちょっと面食らったが」
ぼく、なんて一人称を使われて面食らったのは私なのだが。
「jane_doe別にあんたを助けたわけじゃない、ぼくのレベル上げの一環だ――しっかし本当にこれエラーだな、運営に睨まれてなきゃクレームものだぞ」
「エラー? 一体何のことだ???」
「誰かさんの罠にかかってたコイツのことだよ、下級の奉仕種族だがあんたが勝てる相手じゃない。あのかぎ爪に捕らわれたら吸血されてお陀仏ってわけさ」
「それを苦も無く倒せる貴方は何者なんだ???のTiger chaser」
「あんた掲示板とか見ないの?」
「気を付けてjane_doe! そいつは荒らしのアオヒツギだ!」
そのときあやのの声が背後から響いた。
???のアオヒツギの灰色の眸ががゆっくりと細くなる。
「お仲間が来たようだ、ぼくは失礼するよ。じゃあね」
アオヒツギは殺した異形を踏み台にすると天井の開口部から、あっという間に砂漠へと姿を消した。
「待て! あんたにはまだ訊きたいことが――」
だがあやのは私を制止した。
「あいつは D.D.T onlin 随一の荒らしアオヒツギ。何故知り合いなんだjane_doe?」
「荒らしってどういうことでUS?」
追いついたまるこめXも疑問に思っているらしい。私だってわからない。
「以前、がらくたの都の場末の酒場で助けてもらったというか……行きがかり上――」
「あいつ以前酒場で違法にレベル上げしていた事があるけど、それに巻き込まれたのね、同じクラスだからかも知れないけど……」
それきり、あやのは黙ってしまったが、何か思案しているようでもあった。
あいつ『アオヒツギ』というのか……本名でも何でもないじゃないか、恥ずかしい名前とか言っていたけれどなんなのだろう?
「それにしてもアオヒツギはこれを『下級の奉仕種族』と言っていたが何なのだろう……」
アオヒツギが殺害したモノは罠にかかりっぱなしだったが、悍ましいだけで皆目見当もつかなかった。
「それ艦艇するの私の仕事なんだけどレベルが全然足りてない」
「そう言えばまるこめXのクラスがそうだったね」
「もとはといえば獣使いの私のペットみたいnを探しに来たのに、私のせいでこんなことになって本当にごめんなさい><」
「善哉、善哉あいつもエラーとか言っていたし――」
そこで漸くあやのが口を開いた。
「そうエラーなんだよね。こんなところに居るはずがないモノがいる。わたし運営に問い合わせてみるね」
私とまるこめXは頷いた。
「と、今晩はここで解散にするねもう朝の5時だし、それとjane_doe」
「どうした?」
「今後あのアオヒツギには関わらない方がいい、これは忠告じゃない。お願いなんだ」
「アオヒツギはwiki制作関連も悩ませている?」
「そういうこと」
その後すぐに私は二人への挨拶もそぞろに D.D.T onlin をログアウトした。
あやのが言ってたようにPCの時計は午前五時過ぎを指してた。
今晩は色々なことが起こりすぎて、なかなか整理がつかなかった。罠に掛かっていたのは見たこともない怪異というか異形。あやのも、まるこめXも、そして私もそれを視て正気を失いかけた。
それをいとも簡単に、弱っていたといはいえ倒して見せたのが、あやのが荒らしと呼んだ???ことアオヒツギだった。彼は、彼女はいったい何者なのだ? そしてもう関わるなとは何故?
考えても仕方ない。
私はメールをチェックして仮眠をとることにした。
新着メール……チェック中
新着メール
from 件名 日付
Estella 銀鶏様へ 201X/12/1X Tue 23:09
ゲーム中に、あのエステラと名乗る女から再びメールが来ているではないか!
一体何用だというのだろう! わたしはひどく混乱してメールを開いた。
この冬は終わらない。




