表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰府これに隨ふ  作者: 雀ヶ森 惠
1.Cast a cold eye On life, on death.Horseman, pass by!
19/60

不安定なfantasy(1)

「こっちやでぇ~、遅い、遅い」


 灼け付きそうな午の砂漠、あやのがなぜか関西弁(似非なのだろう)で手を振っている。まるこめXも一緒だ。豆粒のような二人の黒い人影が影を無くして立っていた。

 私は仕方なく全速力で駆け寄ると遅刻を詫びた。


「大丈夫jane_doe? 顔色悪いねえ。何かあった」


「ッ毛工時間厳守っぽいのにjane_doe遅刻とか珍しいよね? どうしたの」


「悪い、一寸私用のメールに捕まっていたんだ」


 あながちそれは嘘でもなかったし、言い訳にするには私には相応しく思えた。思うが儘の報酬――その文言が今も私の脳内で木霊し続けているなど、この二人に言えるはずもない。


「あらら、プライベートか……面倒くさいよねでもさ、そういうの忘れてここでは、ぱーっと遊ぼうよ」


 そう言って小柄な黒髪の少女、あやのは笑ってみせた。

 そうだ、面倒くさいアイカのことも忘れて今晩は徹夜で三人で遊ぶ気で来たのだ、あのメールは予想外だったとしても。


「ああ、悪かった御免な、今晩は楽しく遊ぼう。ところであやの――」


「どうしたのjane_doe?」


「都の外って砂漠だったのか? そちらからのメールで初めて知ったぞ」


「わたしもしたなかった!」


「あーんーと、元になった小説作品を読んだことある人には割とメジャーな知識かと思って、言ってなかったんだけどね」


 するとあやのは急に砂漠の砂を掘り始めた。


「なにやってリるの? あやの」


「まあ、待てまるこめX、此処はあやのに任せよう」


 あやのは砂を掘り続ける。すると間もなく石畳が現れた。それを手にした魔法使い然とした杖でつつき出した。乾いた音が返ってくる。


「よし、ここでいい! みんな手伝って」


「この砂の下の日干し煉瓦を突けばいいのか?」


「そういうこと!」


 jane_doeは打刀の柄でその煉瓦を突きだした。まるこめXも何のために持っているかわからない初期装備の杖を使って其処を力いっぱいつつく。

 五分もその作業が続いただろうか、不意に皆の足元はぐらぐらと傾きだした。


「いくよ!叫んだ刹那――

 足元の煉瓦は割れてjane_doeたちの体は宙を舞った。


「‼」


 身構える暇もない私のjane_doeの体は――灼熱の砂漠とは一転して広大な闇の広がる地下空間の、砂地の上に鈍く落下した。


――お前は誰だ?

 酒場で見た影がぼんやりと映る。

 何故虎を追っている……

 私は……jane_doe(誰でもない女)

――お前はアオ……


「jane_doe! もう目を覚まして? 気絶が長い」


 あやのは私の肩を揺さぶった。


「あ……」


 私が意識を取り戻すともう二人はとっくに気が付いていて、当たりの様子を窺ったり私の介抱をしたりしていた。つまりはすっかり出遅れたというわけだ、あの虎追いの妙な夢を一瞬見ていたとしたとしても。


「ここは……?」


「砂漠の地下に広がる地下空間、失われた時代とやらの遺構らしいよ? その原作の小説におると」


 忙しそうに周囲を警戒するあやのに代わって、まるこめXはそう教えてくれた。


「失われた時代――ねえ」


 そうだ、ファンタジー小説らしいしそういったありがちな設定があったとしても、何ら不思議ではなかったしかしそれが今回、まるこめXに必要な獣を捕まえることと何か関係があるのだろうか?


「失われた時代の遺跡には、わたしの従属獣にお逢え貫江向きのモンスターがうようおよしてるって、あやのさんが言ってた」


 まだ自分とまるこめXのいる場所はどうやらその遺構の入り口に過ぎず、天井から溢れる午の砂漠の光が柔らかに差し込んでいた。


「で、あやのは?」


「魔法で光を作れるか経って先を見てくるのだって」


「一人で行かせてしまって大丈夫かな?」


「なんか前来たこと逢えるんだって、マッピングしたから大丈夫とか言ってたよ?」


 流石wikiの製作者だけはあるな……ぬかりない。そうこうするうちに光がこちらに近づいてきて、あやのは戻ってきた。


「ただいま、やっぱだよね古い商店の跡とか残ってるわ、流石は失われた時代の遺構」


「なあ、あやの私はその『原作』とやらを知らなくて、失われた時代と言われてもピンとこないのだが……」


「もう……教えてくんは嫌われるよ? なーんてね、ざっと見た感じでは目的地までかなりあるからお二人さんにわたしが知ってる範囲でよければ、お話ししましょうか」



 わたしたちがこうやって現に住んでいる世界を仮に新王国と呼んでおくね、

 その前には神々と共存していた時代があったのだけれど……

 神々は人間たちを見捨てて去って行った。

 そして失われた時代というのはさらにその神々との共存時代のはるか前、

 高度な先史文明のことを指すのね、それは我々の文明に近いか、

 もっと高度な文明らしいのだけれど、詳しいことは何一つ解っていないの……



「意外と複雑なバックボーンを持ったゲームなんだな」


「だから原作の小説ありきなんだってば、もう二人ともラノベとか読まないの?」


「あーわたしは本自体読まないかなあ…・・?」


「資料にならない本は時間の無駄だから読まない、そういえばラノベって読んだことないな」


「……二人とも時代から置いて行かれるよ?」


 いったい毒にも薬にもならない「ライト」ノベルを何のために私は読めばいいのだ。書店に足を運べば確かに扇情的な表紙のだが、陳腐な冊子が山と積んであるのは承知の上なのだが。

 そんな「時代」とやらに置いて行かれるのは本望だが、以前話したことのある内科医に拠れば、私はあまりに浮世離れしすぎているらしく、馬鹿々々しいと思っても少しは皆の好きな娯楽にバランスを取るためにも触れろ、と注意されたことさえあるのだ。だから私はちょっと歩み寄ることにした。


「原作ってなんていう題名の小説シリーズだったっけ?」


「『薔薇の復讐』」


 あきれ顔であやのは答えた。


「それって図書館にある?」


「えー!? 普通に買おうとか思わない? 私全シリーズ持ってるよ!」


 あやのが口を尖らせる脇で、まるこめX急に歩を止めたので二人はぶつかってしまった。


「ちょっとどうしたのよ、まるこめX」


 大きすぎる胸の少女は暗闇の方を指さした。


「ねえ、そこ……何かいる――」


この冬は終わらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ここまで読了。 並行連載作品に絡めてくるとはやるな! そっちも読んでみたくなってしまったので時間作るよー。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ