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陰府これに隨ふ  作者: 雀ヶ森 惠
1.Cast a cold eye On life, on death.Horseman, pass by!
18/60

奇妙なメール

「それで、銀鶏(タツ)。クリスマスディナーの予約はできたの? あたし、イタリアンが良いって言ったわよね、覚えてる?」


 起床して早々、否もう昼過ぎであったのだが、アイカからかかってきた電話は少々辛辣な内容であった。ここのところ仕事はおろかアイカのことをすっかり失念するまで私はD.D.T onlineにどっぷりだったわけで、


「聞いてるの、銀鶏? 何か最近おかしくない? 隠し事は、なしって言ったじゃない」


「隠し事なんてないよ、最近は仕事が立て込んでいて昼夜逆転気味で疲れている、ただそれだけだ」


「……嘘、そんなの四六時中じゃない。今に始まったことじゃないでしょう、他に何かやっぱりあるのね? あるなら正直に答えて?」


 何故こんなにも鋭いのだろう。最早女というのは別次元の生き物としか思えない、母もそうだが悪魔的な第六感でこちらが隠蔽したいことをずばずばと当てていく狩人のようなものなのだ、女というのは。しかしながら今彼女にD.D.T onlineのことを話すわけにもいかず、私は途方に暮れた。こちらは秘密にしておきたい、でも彼女は知りたくてたまらない――嗚呼、それも私の恋人の座という正当な理由を掲げながら!

 仕方ない……それならばひた隠しにしていた事でも言うか? 勿論オンラインゲームの話ではない。


「ごめん、アイカ。クリスマスは焼肉になる」


 アイカは電話をガチャ切りした。

――これで暫くは掛けてこないだろう、とはいえ私は何に安堵しているというのだ? アイカとの何事もないクリスマスはこれで吹っ飛んだ。24日までに復縁できる保証もないなのに、私はまた夜になったら、あやの、まるこめXの二人とオンラインゲームでひと騒ぎ企てようとしているのだ。どちらだ……どちらが賢い? アイカとイタリアンのクリスマスを過ごしその後愛し合うのと、オンラインゲーム廃人とよろしくネット上でクリスマスを迎えるのと? 答えは明白じゃないか、とんだ愚か者だ私は!

 そして私は中学校以来吸ってなかった煙草が無性に吸いたくなったが、喫煙は高くつくため我慢した。更にPCデスクに向かうと仕事用のメーラーを立ち上げ、期日の迫っている仕事から順に確認して手を付けられるものは作業を始めた。これぞ正しい姿ではないか。


「煙草、か」


 そういえば優等生だった私と違ってKたちのグループは、煙草で生活指導を受けていたことがあった。またKか――なぜここまで気になるのだろうか。彼とは話をしたこともないというのに。

 何故彼は死んだ? それを確かめようにも今頃母はママ友やらと旅行の相談で忙しい、空気を読め。それはそのうち訊けばいいことだ。そうやって私は20時過ぎまでペンタブを走らせたが、空腹に耐えかねてコンビニへ出かけたついでに8年振りに煙草を買ってしまった、ライターのオイルも一緒だ。ジッポーは実家から持参していた。借家を汚したくないので換気扇の下で私は洋煙草を吸いこんだ、強いメントールの味。一緒に買ったチキンサラダで軽い夕食を済ませ、そろそろメールが届くころと私は個人用のアカウントを立ち上げた。


新着メール

from     件名           日付

あやの☆   今日の集まりについて   201X/12/1X Tue 18:24

Estella    銀鶏様へ         201X/12/1X Tue 15:38


 誰だ? 私の個人メールにいかがわしいメールを寄越すのは。それもこれが仕事用のメーラーならわかるのだが、なぜ個人アカウントで私を銀鶏と呼ぶ? 削除するか……しかし怪しいな。読むだけ読むか。

 私はこのメールを開いた。



 "銀鶏様 Estella"


 "突然のメールを失礼いたします。

 わたくし、今はエステラとだけ名乗らせていただきますが、

 折り入って銀鶏様に依頼があってこのメールを書かせていただいております。

 先に御覧になっている「女教皇の椅子」でありますが、

 あれには肝心の女教皇が座っておりません。

 賢明なる銀鶏様でしたら、姿をご承知でしょうが

 あそこに座すべき女教皇の姿を描いてほしい、それが依頼主の願いです。

 報酬は思うが儘にはずむとのことですので、

 色よい返事をお待ちしております。

 これは銀鶏様が腕利きの画家と知ってのことでのお願いですが、

 どうか内密にお願いいたします。

 ご多忙とは存じますが、できれば近日中にお返信お願いできませんでしょうか?

 お待ちしております。"



 思うが儘の報酬! いったいどういうことだろう⁉ しかもメールの送り主は窓口に過ぎず依頼主が別に存在するらしい。

 内密に――しかし悪戯でない可能性も否定できないので私は、メールアドレスを捨てアドでないかどうか調べた。estella@babbagejapan.co.jp 否、実在しそうだ。

 その後、上の空であやのからのメールも読んだが、22時にはがらくたの都のはずれの砂漠への入り口で待ち合わせよう、という文面しか記憶に残らなかった。

 まあいい、あやのとまるこめXとのお遊びが終わったら色々考えよう。


 そうして私は今晩もD.D.T onlineを立ち上げた。


 この冬は終わらない。

エステラは「星」です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここまで読了。 いやぁネトゲ怖いですねぇ(おまいう)。 きな臭い雰囲気になってきたので続きが楽しみ。 無理せずマイペースで更新してくださいなー。
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