『10年』 3
「どうしてここに……」
ありえない。
ディーケイは言っていた。ここは元いた世界とは切り離されていると。
事実彼女も信じられないものを見る目でこちらを見ている。
しかしダイアナはなんでもない様子で告げる。
「アルトが私に会いたがってる。そんな気がしたから」
「で、でもここは外の世界からは切り離された場所だってディーケイが言ってたけど……」
それを聞くとダイアナは思い出したように頷く。
「確かに変な感じはしたわね。近くには感じるけれど、手を伸ばしても届かないような……」
しかしやはりダイアナはそんなことはなんでもないかのように告げる。
「でも、アルトに会いたい!って思って手を伸ばしたらいつのまにかここにきてたわ」
そんなにあっさり済ませていいものなのだろうか。
ダイアナは、何かとんでもないことをした気がしてならない。
しかし私に微笑みかける愛らしい顔を見ていると、そんなことはどうでも良くなってくる。
それどころか、先ほどまでは腹の奥から沸々と湧いて出ていた怒りさえも、今は全く感じなくなっていた。
思わず、笑いが溢れる。
彼女に今会えたことへの喜びからか、はたまたとんでもないことをした彼女の何でもない様子に拍子抜けしてしまったのか。
私は大きく笑いながら彼女を抱きしめたのだった。
―――
(私は今、何を見た?)
ディーケイはその光景にただ立ち尽くすことしかできなかった。
ありえない状況への驚嘆、そしてその状況を引き起こした少女への恐れ。
彼女は覚悟していた。この先10年、自分に恨みを抱くであろうアルトと共に過ごすことを。
その結果彼女が力をつけ、自分を消滅させるに至ったとしても、あるいは構わないかと考えていた。
いくつもの未来を想定していた。それこそ、あり得る可能性を全て。
今起こっているこの状況は、そのどれでもない。
ありえないはずだったのだ。
元いた世界とは完全に切り離され、時間の流れすら違う。
こちらの存在を認識することはおろか、こちら側に来るなど、絶対に不可能なはずだった。
ディーケイは今更ながら自分の置かれている状況の異様さ、危うさに気がついた。
片や世界に家族や居場所、全てを奪われ無くしてしまった少女。
片や無から生み出され、最低限の知識を施されただけで世に放たれた、未だ生まれたばかりの未熟で無垢な少女。
互いに何もない少女が求め合うその関係は、歪で、不気味で、そして純粋だった。
さながら傷を舐め合う年頃の乙女たちだ。
だが、その力はあまりにも強大。
アルト一人にしても、ディーケイは手を焼くだろう。
それ以上に、ダイアナだ。
もはや彼女の力は世の理を完全に逸脱している。
ディーケイ一人の手に負える力ではなくなっているのだ。
そんな二人の関係が何かしらの形で壊れてしまえばどうなるか、予想もつかない。
「安請け合いだったかな。リィビア」
ディーケイは親友の顔を思い浮かべた。
「君はあれを"愛"と呼んだけれど、私は未だにそうとは呼べない」
抱き合う二人を見る。
「あれはもっと醜い、名前などない"何か"だよ」
そう言って思い浮かべたのは、アルトでもダイアナでもなく、黒と白の二人の少女だった。
かつて永遠の約束を交わした、ただ一人の愛しい人。
今は、ただの記憶の一つにすぎない。




