究極生命体と、誓い
「原初の生命体って、オーネと同じ……というか『死』って…え…?ディーケイは人の命を操れるの…?」
「そうだったなら良かったんだが、残念ながらそこまで万能ではない。ただ人を死から遠ざけたり、逆に近づけたり、その程度だ」
”その程度”って…
「それは十分人の命に干渉してるよ!そんなことができる人がいるなんて…じゃあディーケイが少し力を使うだけで、少し前まで元気だった人が急に死にかけちゃうってことでしょ?」
「そうなるな」
淡々と答えるディーケイに、胸の辺りが冷えていくのを感じる。
今日まで一緒に過ごした中でこんなこと感じたことはなかったのに。
私を見るその目が、私の命そのものを見ていると知って不気味な不安感に襲われる。
「……だが、私はこの力を人を殺めるために使いはしない。そう、決めているんだ」
「はい、それはわかってます。わかってますけど…」
簡単に受け止めきれはしない。
だけど、ここで詰まっていてはずっと話が先に進まない。きっとまだ私が聞くべきことは残っているはずだ。
私がディーケイの方へ顔を向けると、意思を汲み取ってくれたようで彼女は再び話し始めた。
「私はその力で君の魂を死から遠ざけた。すると君の体も共鳴するように少しだけ生気が戻ったんだ。だからそちらにも力を使い、体の方も死から遠ざけた。本来ならこれで2、3日もすれば目覚めるはずだったんだが、一度死んだ君の体はどうにも不安定でね。1週間前君が目覚めるまで気の抜けない日々が続いていたと言うわけだ」
「お、思ってたより危なかったんですね。ありがとうございます」
だけど、思ったより大したことない……と言うにはあまりにも危険な状態だったわけだが、それにしてもずっと秘密にされるほどの話とは思えない。
「と、ここまでが君が眠り続けていた理由。そしてこれから先が君が本当に知らなければいけないことだ」
ディーケイの表情がより真剣なものへと変わる。
「今の君の魂は、彼女──ダイアナと直接繋がれた状態にある」
「ダイアナと…?つまりどう言うことですか?」
繋がれたと聞いて思わず胸に手を当てるが、特につながっているような感覚は感じない。
「物理的に繋がっているわけではない。君とダイアナの魂は、君を蘇生する段階で混じり合い、1つの魂となり、そして分かれそれぞれの体に収まっている。それらの魂は魔力によって呼応し合い、繋がることにより存在することができている。この意味がわかるかい?」
私は少し考えたのち、首を横にふる。
「つまり、今の君たちは一つの魂を2人で共有している状態。一方が死んでしまえば、もう一方も死ぬ。文字通りの運命共同体というわけさ」
「そう…なんですか…」
とても重大なことのはずなのに、それを聞いた私の心はひどく落ち着いていた。
そのことはディーケイにも伝わったようで、彼女は少し驚き混じりに言葉を発した。
「随分と…落ち着いているんだね。自分ではない存在が、自分の中に入っているのは私としてはあまり想像したくないものだが」
「驚きはしてます。けど、ダイアナだから。今の私にとって彼女は全てなんです。むしろ、ずっと彼女を感じていられて少し心地良いくらい」
ディーケイは感心と、多少の呆れが混ざった表情でため息を吐いた。
「全く、君もダイアナと同じことを言うとは、仲が良いようでなによりだね」
どうやらダイアナにも同じようなことを聞いたらしい。
「これが、私が知らなきゃいけないこと…ですか?」
「ああ、これが一つ。だが、真に重要なのはここからだ」
ディーケイは周囲を確認した。おそらくダイアナがいないことの確認だろう。
「今のダイアナは、はっきり言って異常な状態だ。魔力も力も、信じられない速度で膨れ上がっている。それこそ私たち原初の生命体を上まわるほどに」
「そ、そんなにですか…?」
確かにダイアナの強さはかなり底知れないものがあった。
だけどそれほどなんて…
「そして膨れ上がるその力は、やがて君の魂を飲み込み、君の存在は消えて無くなってしまうだろう」
「え……」
今なんて言った...?
「私が…消えてなくなる…?」
「ああ。あくまで今のままでは…ということだが。まず間違いなく、いずれ彼女の魂は君の魂を飲み込んでしまうだろうね」
なるほど。
ディーケイがダイアナにこの話をしなかった理由がわかった。
こんなことを聞いたら、ダイアナは私を消えさせないために自らを傷つけてしまいかねない。
「じゃあ、私はダイアナのもとを離れるべきなんですかね…」
彼女を傷つけてしまうなら、私は一緒にいない方が良い。
「結論を早まるな。まだ今のままではそうなる、と言っただけだ」
「え…?」
「私が君を育てよう。ダイアナに飲まれてしまわないほど大きく。そうすれば、ダイアナを傷つけることはなくなる」
その提案はあまりにも魅力的だった。
しかし同時に疑問も浮かぶ。
「どうして、そこまでしてくれるんですか。私たちあったばかりなのに」
私がそう言うと、ディーケイはふふっと笑い答える。
「1年間も看病をさせておいて、それを言うのかい。今更君の世話をすることにはなんとも思わないよ。それに──」
「──親友との約束があるんだ」
―――
森に囲まれた家の庭。
そこにぺたんと座りながら、木々の隙間から覗く星空を眺めている少女がいた。
夜空に瞬く星のような輝きをもつ彼女の髪は、闇夜の中でも一際美しく見える。
そんな彼女は私がみていることに気づくと、視線を空からこちらへと移し、小走りで駆け寄ってくる。
「アルト、話はもう終わったの?」
「うん、色々と聞いた。とりあえずもうしばらくは、ディーケイのところでお世話になろうと思う」
ダイアナはそれを聞くとニコリと笑う。
「アルトがそうするなら私もそうするわね」
彼女は私の手を引いて、先ほどいた場所へと誘う。
「ねえ、アルト。見て。ここから見える星、綺麗でしょう」
ダイアナは空を指差す。
「そうだね」
私はそれに相槌を打つ。
「アルト、なんだか冷めてるわね。今の状況、割とロマンチックだと思うのだけど」
「いやあ、なんだか気が抜けちゃって。こんなに落ち着く空気は久しぶりだったから」
隣にダイアナがいて、並んで夜空を眺める。
なんてことない日常が、ずっと求めていた平穏が、ようやくここにある。
「ねえ、ダイアナ」
「なに?アルト」
「私、強くなるね。ダイアナを守れるくらいに」
「私の方がずっと強いわよ」
ダイアナと、笑い合う。
きっとこの平穏は長くは続かないだろう。
ディーケイから聞いた。
この一年、神がいくつもの世界へ侵攻を続けていること。それを仲間たちが追って出て行ったこと。
きっとそれらはまた、ダイアナから笑顔を奪いにやってくる。
だからその時、私がダイアナの笑顔を守ってあげられるように。
そして大きくなっていくダイアナと、ずっと一緒に生きていけるように。
強くなろう。
夜空に輝く星に、横で笑う彼女に、そう誓った。
大変...お待たせいたしました...
これにて、第一部が完となります。
第二部以降も、アルトたちの物語はまだまだ続いていく予定ではありますので、恐れ多くも読んでくださる方はお待ちください。(次はなるべく早く出します...)




