究極生命体、蘇る
何も見えない、感じない。
少しの光も見えない闇の中を私は漂う。
どこかへ向かっているのかあるいはただただ無意味に闇の中を彷徨っているだけなのか。
目も開けることも、手足を動かすこともできない。
それどころか自分の体の感覚さえあやふやで、本当にそこに存在しているのかわからなくなってくる。
しかしそんな不安を抱くときまってある感覚が私を襲う。
一瞬だが、私を暖かさが包む。
その暖かさは私の不安を綺麗に消し去ってくれる。
それがなんなのかは、わからない。
ただそれが私を私として繋ぎ止めてくれている。それだけはわかった。
だけど妙だ。
いつもはこの暖かさはすぐに消えてしまうのに、今回はまだ消えることなく感じ続けている。
それどころかだんだんと、感覚が濃くなってくる。
それは胸の辺りから、腕、指先、足へと体全体に広がってくる。
同時に私の感覚の中に光が生まれた。
光はあっという間に闇を照らし尽くし私の世界を照らす。
私は恐る恐る目を開けた。
入ってくるさらに強い光に目を一度細める。
少し目が慣れてくると、視界がより鮮明に映った。
見知らぬ天井、そして思ったより薄暗い部屋。
おもむろに光源の方を見る。
ベッドの横に置かれたランタンが光を放つその横には、私を見て呆然とするダイアナがいた。
彼女の名前を呼ぼうと声を出そうとするが、うまく声が出ない。
掠れてしまって音にもならない息が溢れるだけだ。
そんな私の様子を見て、ダイアナはハッとしたように立ち上がり大慌てで部屋を出ていった。
少しすると、開けっぱなしだった扉からダイアナが戻ってきた。
手には水の入った吸い飲みを待っている。
ダイアナは私の隣まで来ると飲み口を私の口まで持ってきて水を飲ませてくれた。
乾いた喉に水が行き渡り、今なら少しは声を出せそうだ。
「ダイアナ、おはよう」
するとダイアナの目からは涙が溢れ出した。
どうしたらいいのだろう、寝起きだからかうまく頭も回らない。
とりあえずなんとか動かせる右手を動かして、ダイアナの頭へやって撫でてみた。
涙が止まることはなかったが、ダイアナは少し落ち着き心地よさそうな様子を見せたので続けることにした。
ダイアナも泣き止む様子はないし、何がどうなっているのかいまいち掴めない。
とりあえず部屋の様子を確認しようと周りを見ると、部屋の入り口にもう一人誰かいることに気づいた。
その人はフードの中から青い瞳と毛で覆われた顔を覗かせて私に向かって手を振り、「やあ」と口を動かすとダイアナの横へと寄ってきた。
「無事目が覚めたようで良かった。もう、喋れるのかい」
「はい、この通り。あなたは…」
「私はディーケイ。色々と呼び名はあるが、今君にとってわかりやすいのは、君の命の恩人といったところかな」
どうやら私は生死の境を彷徨っていたらしい。
いまいち覚えていないが、実際気を失っていたのだ。おそらく嘘ではないだろう。
「それは、ありがとうございます。ところで状況があまり掴めないんですけど、ここはどこですか?私はなんでここに?あと、なんでダイアナは泣いたまま私の腕に抱きついてきてるの?」
私が浮かぶ疑問を次々に口にすると、ディーケイが笑って言った。
「ははは、まあまあ彼女のしたいようにさせてあげなさい。なんせ、1年間も眠り続ける君をずっと看病し続けていたんだ」
「い、1年間!?」
その長さに思わず口に出して叫んでしまった。
私はそんな長い間眠り続けていたのか。
思えばダイアナの様子も少しばかり大人びたような気がしなくもない。
「1年間も眠り続けていたなんて…一体何があったんですか?」
「ああ、やはり記憶が少し飛んでしまったようだね。ちゃんと説明はするつもりだが…」
ディーケイは少しずれた掛け布団を私にかけ直す。
「まずはしっかり回復することだ。この話をするのもすこしつかれるだろうからね。君が元気になったら話をするとしよう」
そう言うとディーケイは「食べやすい食事を用意しよう、待っていてくれ」と部屋を出て行った。
2人きりになった部屋で私はダイアナに再び顔を向ける。
「ダイアナ、大丈夫?」
「私は、とっくに大丈夫よ。アルト、ほんとに目が覚めて良かった…」
また泣き出しそうになってしまい慌てて頭を撫でると、今度はおさまったようだ。
私はふと、そういえばと思っていながら口にしていなかった疑問を口にした。
「そういえば、他のみんなは?」
デスティやティア、フラムも一緒にいたはずだ。だけど、この家にはそんなに多くの気配は感じない。
ダイアナは少し寂しげな顔をして答えた。
「みんな、少し前まではここにいたんだけど、それぞれやらなきゃいけないことが出来て、出ていってしまったわ」
「そうなんだ、それは…寂しいね」
「ええ、でもアルトがいるから私は大丈夫よ」
そんな感じで、若干照れくさい会話を交わしながらディーケイが持ってきてくれた食事を食べ、そのまますぐに眠りについた。
そして次の朝、不思議なことに昨晩は腕を動かすことすらそれなりにきつかった体は、もう立って普通に生活できる程度には回復してしまった。
しかし、ディーケイに聞くとまだまだ安静だとのことで、それから1週間程度、部屋からはほとんど出ない生活が続いた。
そして、ようやくディーケイから「もう十分だろう」と完治とまではいかないもののオーケーは出た。
そして今は、ディーケイが話をしてくれるとのことで自分の部屋で待っているところだ。
この1週間、私が眠っていた間の話はほとんどさせてもらえなかった。
ダイアナからもディーケイに口止めされていると教えては貰えていない。
曰く、デスティたちが出て行ったことも本当はまだ言ってはいけなかったようで、あの後少し怒られたらしい。
そうして厳重に守られてきた話を1週間経ったら急にしてくれると言うんだから、なんだか釈然としない。
胸にもやもやを抱えながら待っていると、扉をノックする音が聞こえ、ディーケイが入ってきた。
「入るぞ、ダイアナは……いないな」
「ダイアナがいたらいけないんですか?」
「いや、いてもいいんだが、彼女がいると君は集中が切れやすい傾向にあるからな」
「あはは…」と笑って誤魔化す。
確かにダイアナといると、ダイアナに気を取られて他のことを疎かにすることが、この1週間何度かあった。
まあ、彼女が兵として送り出されてから会えない日々が続いていたのだから、少しくらい許して欲しい。
「さて、まずはそうだな…君が置かれていた状況から話そうか。なぜ君は一年間も眠り続けていたのか」
きた。正直一番気になっていたことだ。洞窟の出口でダイアナを見つけたところまでは覚えているのだ。しかしその後どうなったのかがいまいち思い出せない。
「単刀直入に言おう。君は一度死んだのだ、敵の槍に貫かれてな」
「え…?」
思わず自分の腹部を見る。しかし穴なんて空いていない。
それに死んでしまったのなら、私が今ここにいることもおかしい。死者を蘇らせることなんて、不可能だ。
「君の言いたいことはわかる。確かにどんなに優秀な医者であっても、死者を蘇らせることなど不可能だ。だが、君の場合は事情が違ったんだ」
「事情…?どう言うことですか?」
「君は死の間際、自分の魂の一部を目の前にいたダイアナの中へ移していたんだ。だから体は死んでいても、魂のみが生き残ると言う異質な状況が出来上がった」
「で…でも、今の私の体は生きてますよね、これはなんなんですか?」
「確かに、魂が生きていたとしても、体までを生き返らせることは普通できない。だがあの時あの場には私がいた。私ならば常人では不可能なそれが可能だった」
死んだ体を生き返らせる能力を持つディーケイ、一体彼女は何者なんだろうか。
浮かんできたその疑問にディーケイはすぐに答えた。
「なぜなら私は、《始まりの存在》によって創られた4体の原初の生命体のうちの1体。『死』を司る生命体だからだ」
次話でようやく話が一区切りします。
できる限り早く更新しますので、お待ちください。
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