下りた幕の裏で
何が起こっているのかわからなかった。
国王の攻撃を受け死ぬはずだった私たちは、生きている。
そしてその攻撃をしようとしていた国王たちは、全員が石になっていた。
状況を整理しようとしたその時、声が聞こえた。
アルトを呼ぶ声、それもとても聞き覚えのある声だった。
ここで止まってからずっとアルトが見つめていた何もなかった岩壁。
そこにはかつて別れたダイアナの姿があった。
再開したことに、生き延びたことそれらを喜びたいところではあったが、どうも様子がおかしい。
ダイアナから何やら不穏な魔力が漏れ出している。
黒い霧状のそれは、私が魔力が見えるから見えているというわけではないようで、ティアとフラムも辺りに広がっていくそれを見て困惑している。
アルトはそれも構わないと言った様子で一歩ずつダイアナの方へと歩いて行く。
ダイアナは先ほどからアルトを呼んでいるようだった。
きっとアルトの存在に気づけば、この霧も収まるはずだろう。
それに一瞬安心して気を抜いてしまったせいで、いつのまにか私たちに追いついていた《神造生命体》に気付くのが遅れた。
奴らが狙っているのは私たちではない。完全に背を向けているアルトに、その矛先は向かっていた。
今私が飛び出しても間に合わない。
アルトが避けてくれることを信じて、私は必死に叫んだ。
しかし間に合うはずもなく、奴の持っていた槍がアルトを貫いた。
急いでアルトのもとへ向かおうとするが、さらに追いついてきた《神造生命体》が一人二人と現れて、周りを取り囲んだ。
逃げようがない。アルトを助ける前に私たちもここで殺されて終わりだ。
しかし、追い詰められると逆に冷静になるもので、私の中に一つの疑問が浮かんだ。
奴らの主人である国王はたった今石化したはずだ。
魔力も消えたようだったし間違いなく死んでいるだろう。
だったらなぜ、《神造生命体》はまだ動いているのか。
死んでも命令は継続されると言うのだろうか。
そんな疑問への答えはすぐにやってきた。
「おお、良い光景ではないか。あの忌々しい究極生命体の小娘が、槍に貫かれている。実に愉快だ」
「シェイン王子…」
対抗戦での試合でアルトに負けてからずっと行方をくらませていたシェイン王子がそこに現れた。
「おお、デスティ…だったか?父上にうまく使われていた、有能な駒だと聞くぞ。よくやってくれたな」
そう言葉にした後、シェイン王子はようやく気付いたように石化した国王たちを見た。
「父上も愚かよなぁ。自分の世界を壊すなど、正気の沙汰とは思えん。まあそんなくだらない計画に夢中になっていたおかげで、父上を出し抜き《神造生命体》の指揮権を手に入れることができた。今となっては感謝しているよ」
シェイン王子が、《神造生命体》の指揮権を持っている。
その言葉の通り、彼は私たちを取り囲んでいる《神造生命体》たちへ合図を送ると、奴らはそれに従いシェイン王子のもとへと集まっていく。
「お前たち、よくやってくれたな。ん?カナデはどうした………そうか、まもなくオーネを連れてやってくると……そうか、ようやくか」
そしてシェイン王子は洞窟の奥へと視線をやり、何かを見た後手招きをした。
その方向からやってきたのは、オーネと思われる魔力の塊を手に持ったカナデさんと、血まみれのティーを引きずっているスライだった。
「カナデ、そしてスライ、よくやってくれた。これで私の計画は滞りなく進むだろう。さて、スライよこれで我との契約も終わりだ。この先は好きにするが良い」
シェイン王子がそう言うと、スライは手に持ったティーをシェイン王子への方へと投げ捨て、そのままどこかへ行ってしまった。
「さて、それでは旧神界へ赴く前に、ここにいる部外者を全員片付けるとしようか」
そう言ってシェイン王子は《神造生命体》へ命令を出すと、《神造生命体》は私たちの方へと動き始め魔法を放つ準備を始めた。
しかしその瞬間、一瞬魔力が辺りを包み込んだかと思うと、気づいた時には私たちに攻撃しようとしていた《神造生命体》が全員、石になっていた。
その状況に、流石のシェイン王子も狼狽えている。
「なんだ!?何が起きたというのだ!?」
先ほども見たこの光景、ダイアナの方を見るとそこには力尽きたアルトを抱きしめるダイアナの姿があった。
「獣どもの攻撃か!?仕方ない、オーネとサノイクサは手に入ったのだ、奴等など放っておいても良かろう。今すぐ旧神界へ向かうぞ」
どうやらシェイン王子はその攻撃がダイアナのものであるということに、気付いていないようだった。
シェイン王子達は一瞬でこの場からいなくなり、あたりには急な静かさが訪れた。
「助かった…の…?」
力が抜け、思うように動けない。
とりあえず、今一緒にいるティアとフラムは無事だろうか。
「ティア、フラム、生きてる?」
「私たちは大丈夫よ…けど…」
ティアたちはある一点を見つめていた。
ダイアナに抱きしめられるアルト、その肌は青ざめピクリとも動かない。
おそらくもう、医者に見せても助からないだろう。
また一人、犠牲にしてしまった。
なのに私は、まだ生きてる。
ああ、私のこの命を彼女に分けてあげられたらいいのに。
そんな叶わぬ願いを心の中で叫んだ。
「動けるようになったら、すぐにここを離れよう。この世界が私たちを受け入れてくれるかはわからないけど、ここはまだ危険だと思うから」
ここは少し前まではファーストワールドとビーストピアが戦争をしていた場所だ。
いつこちらの世界の兵士がここへやってくるかわからない。
もし見つかれば、この世界の人間ではない私たちがどんな扱いを受けるかは想像に難くない。
しかし、行く宛のないこの世界でやっていけるだろうか。
そう考えていると、ふと声がした。
「誰かいるのかな」
まさか、もうこの世界の兵士がやってきたのか。
一瞬冷や汗が出たが、その声の主の姿を見るとすぐにそれは引っ込んだ。
「ディーケイ…!」
「その声は、デスティか…そうか、生きて戻ったか…!」
狼の姿をしたその女性は、私だと気づくと駆け足で寄ってきた。
「ディーケイはなんでここに…?」
そう聞くとディーケイは少し含んだ表情で言った。
「かつての親友の気配を感じてね。様子を見にきたんだ」
「…親友?」
ディーケイは辺りを見回した。私の他にいるティアとフラム、そしてダイアナと彼女が抱えるアルトを見た。
「なるほど、ずいぶんと危ない橋を渡ってきたみたいだね。それに帰る場所も無くなってしまったようだ」
そう言うとディーケイは動けない私を抱え上げた。
「私の家へ来るといい。君たち5人がこれから何をすべきかも、そこで教えてあげよう」




