元究極生命体デスティ・ルークシオン 7
見渡す限り真っ白な空間。
気がつくと私はここに立っていた。
いや、立っていると言う表現が果たして正しいのか、ふわふわとした感覚の中ただ私がそこに存在していることしたかわからない。
ふと、何かに呼ばれた感覚がした。
どこを向いても何もない空間。
ただ、私が今どこへ呼ばれているのか、どこへ向かえばいいのかは確かな確信があった。
足を動かすこともなく、その方向へと向かうよう意識すると、その方向へと移動しているのがわかる。
しばらくして、白い世界の中に二つの点が見えた。
近づいてみると、そこには2冊の小さな本があった。
手に取ってみてみようと、その2冊の方に手をかざす。
すると、不思議とその本からの意思のようなものが脳内へと直接入り込んできた。
今は開くべきではないと。
私が2冊の本を手に取ると、本はそのまま私の中へと吸い込まれていった。
―――
目の中に光が入り込んでくる。
しばらく感じることのなかったその感覚に私は思わず飛び起きた。
しかし、目を開けると同時にとんでもない情報量が映像のように頭の中に入り込んできた。
私は思わず再び目を瞑った。
「やっと起きたか」
ティーの声が聞こえ、その姿を見ようとするがどうにもさっきの衝撃が頭を離れず、目を開けることができない。
「どうした、そんなに汗をかいて……ああ、そうか。そうだったな」
ティーはそう言ったかと思うと、突然私の瞼を無理やりに開いた。
「ち、ちょっと待ってティー……これ……すごくきつい……」
「悪いが待っていられる時間は無ぇんだ。無理矢理にでもそれに慣れて、とっとと次の段階へいかなきゃならねぇ」
頭に絶え間なく世界の情報が流れ込んでくる。
ティーが何を言っているのか、理解することすら難しい。
耳に入ってくる情報を、目から入ってくる情報が簡単に塗りつぶしていく。
何も考えられない。
私の脳はただただ入ってくる情報を処理し続けるのみで、そこから自分の思考をする余裕が全く生まれない。
「あああああああああああああああああああああ‼︎‼︎」
処理しきれなくなった私が叫ぶと、ティーはようやく私の顔から手を離す。
「わ、悪い……つい焦っちまった。だが、本当に時間が無ぇぞ。早くしねぇと、お前の体が完全に究極生命体から普通の体に戻っちまう」
ティーはそう言うと、再び私の瞼に手を当てる。
「そうなったらお前の脳は今の衝撃に耐えられず焼き切れて廃人になっちまう。その前にお前の脳をアレにならさせとかなきゃいけねぇ」
今の衝撃に慣れる、そんなことが本当にできるのか甚だ疑問だ。
今の一瞬だけでもとても耐えられずに発狂してしまうほどなのに、それを日常的に耐えられるとはとても思えない。
「む、無理です。今のに慣れるなんてとても……」
私がそう言うと、ティーは一度手を離して言った。
「お前、オーネになんて言った。あいつの苦しみをお前が受けると。あいつを救いたいと言ってたよな。お前、まだその段階に一歩すら踏み出せてねぇぞ」
そう言われてはっとした。
頭の中に入ってくる情報。
あれはきっと25の世界全ての情報だ。
オーネはきっとあの全てを処理し、その上でカトラの様子も見ていたんだ。
きっと見たくない物だって沢山あって、その全てをオーネは見守ってきたんだろう。
それを私が受け継いだんだ。
ここで止まっていては、オーネからこの眼をもらった意味がない。
「っっ‼︎」
目を開けると再び情報の嵐が脳の中に入り込んでくる。
見たこともない場所、見たこともない人々、見たこともない世界の光景が目の前に広がる。
いくつもの光景が目の前に浮かぶ違和感を抑え、なんとかティーに向かって言葉を発する。
「…ごめんなさい、ティー。もう大丈夫」
私がそう言うと、目の前にいる大きな斧を背中に背負うボサついた髪の女性── ティーはため息をつき言った
「やっとか。じゃあお前には最後の仕事をやってもらう」
やはり情報の嵐の中で言われている内容を理解するのは時間がかかり、返事には数秒遅れてしまう。
「…最後の仕事?」
「ああ、お前は今オーネの力の一部を受け継いだ。今のお前なら、泉を開けることができるはずだ」
泉というのは、おそらく世界を移動に使うあの泉のことだ。
「…つまり、私が直接ファーストワールドへ行ってカトラを助ければいいってことですね」
「ああ、俺たちが出向くにはリスクが大きすぎるからな、これならたとえ失敗しても失うのはお前1人の命だけだ」
たしかに、前に行った時のことを考えると、オーネたちがファーストワールドへ行くのは少々リスクがありそうだ。
しかし、一つ疑問が残る。
「私がオーネの力をもらってよかったんですか?私が死んだら大きな力を一つ失ってしまうんじゃ…」
「それなら、心配いらねぇ。原初の生命体の力ってのは他のやつに渡したとしても、渡した奴が死ねば元に戻ってくるらしいからな」
つまり、私が失敗した場合は迷わず死を選ばなければならないということだ。
ティーは、もちろんそれは理解しているな、と言う視線を送る。
私がうなずくと、ティーは立ち上がり、部屋の出口の方へ歩き扉を開けた。
「行くぞ」
そうして私たちは泉のところへと向かった。
―――
泉の前に来るとティーが私に近づくように促す。
私が泉の前に立つと、水面が光を放ち次の瞬間には別の世界へとつながるゲートへと変化した。
「お前の力はあくまでもオーネの一部分だ。ファーストワールドに直接つながるとは限らねえし、おそらくこちらから向こうの世界までの一方通行になってるはずだ」
「もし別の世界に繋がった場合は、ゲートを探せ。これと同じようなゲートが世界と世界の繋ぎ目に存在してるはずだ。それを順番に辿っていけばいつかファーストワールドに着く」
そう言うとティーは私の背中を押した。
「わ、ちょっとティー、まだ心の準備が」
私はティーに文句を言うが、その返答を聞く前に私はゲートの奥へと吸い込まれていってしまった。




