元究極生命体デスティ・ルークシオン 3
カトラとスライの魔力の波の影響は凄まじく、王都へと着くまで一度たりともあの禍々しい魔力を見ることはなかった。
「デスティの話を聞く限り、この魔力の元はデスティの父親か、もしくはそれに近しい人物だ。とりあえずデスティ、君の家に案内してくれるかな」
「わかりました」
魔力を見れば、今自分がどこにいるのかはわかる。
感じ取れる光景は色こそないものの、私の知っている王都そのものだった。
ただ前のように家に帰るだけ。迷うはずのないその足取りには、確かな迷いがあった。
私の家族はどうなってしまったのか、あまり知りたくはならなかった。
私が森に放り出されたときには、父はすでに父ではなかった。
姉は無事だろうか。私のような仕打ちにあっていないだろうか。
もしかしたら、私だけが助かってしまったのではないか。
そんなことを考えているうちに私の家はもうすぐ近くに感じられた。
一見すると、ここもさっきの一撃で払われてしまったかのように綺麗な魔力が漂っている。
だがよく凝らして見ると、家の中に1つ異物が紛れ込んでいることがわかった。
「あっさり見つけられたね。じゃあ、ここから先は私1人で行かせてもらうよ」
「な、なんでですか。人手は多い方がいいんじゃ……」
得体の知れない存在に1人で挑むなど、無謀にも程がある。
私が取り乱していると、カトラが横からなだめに入ってきた。
「大丈夫よ。オーネに1対1で勝てる可能性のある存在なんて、この世に数えるほどしかいないし、仮に私達がついていってあの魔力に取り憑かれでもしたらかえって迷惑だもの」
前から思っていたが、カトラ達のオーネへの信頼は異常といえるほどだ。
「わ、わかった。確かに、足手まといになるのも確かだし……」
私がそういうと、オーネは家の中へと足を進めていった。
ただ、オーネの正確な位置は遠ざかるにつれてわからなくなっていく。
オーネの魔力はカトラ達のものと違い、近くにいても豆粒ほどにしか感じられないのだ。
だから、私の不安はそこにもあった。本当にあの魔力だけでなんとかできるものか、と。
それからオーネが入って行って、3分ほどが経過した。
スライが突然、「身構えておいた方がいいよ」と私の肩を叩いて言った。
なんだか分からないまま、いったいなにが起こるのかと身構えた。
それは、一瞬の出来事だった。
突然なにも見えなくなったかと思うと、次の瞬間にはあの禍々しい魔力を除いた全ての魔力が戻っていた。
何故か、全身の力が抜け地面に座り込んでしまった。
手や足はまだ震えている。
「い、今のは何……?」
恐怖もなにも感じなかった、にもかかわらず身体は確かに何かに押されるように震え続けている。
「オーネが魔力を使ったのよ。普段は押さえ込んでるからほとんど無いように見えるだろうけれどね」
「私も感じるのは2回目だけど、やっぱりすごいね。もし魔力が見えてたら、私もデスティみたいに腰を抜かしちゃいそう」
「も、もしかして一瞬なにも見えなくなったのは、この辺り一帯全部オーネの魔力に包まれたから……」
カトラは「そういうことね」と答えた。
「さあ、これであとはオーネを待って、残党がいないか確認して終わりね」
私は、「そうですね」と答えようとした。
しかしその言葉は途中で詰まってしまった。
さっきまでなにもなかった場所に、奇妙な魔力が現れていることに気付いた。
なんだろう、色々なものがぐちゃぐちゃに一点に集められたようなそんな魔力が私達のすぐ横に現れていた。
「ね、ねえカトラ。そこに何か……」
「わかってる。デスティ、それにスライも、私から離れないで」
その声にはいつもの余裕はなく、張り詰めていた。
スライもカトラの後ろで固まって動かない。
珍しくスライがカトラに素直に従っていることを考えると、相当にまずい状況のようだ。
「『始まりの生命体』はどこ」
聞き慣れない声から聞き慣れない単語が発せられた。
『始まりの生命体』とは何のことだろう。
聞き慣れない声からの問いには誰も答えない。
カトラも、スライも、沈黙を貫いている。
「分からないなら、ごめんね」
その「ごめん」は今質問したことへの謝罪か、あるいはこれからすることへの謝罪か。
私達へ巨大な魔力が放たれた瞬間、後者だと分かった。
放たれた魔力が私達に当たろうかというその瞬間、横から別の魔力によってその軌道が逸らされた。
「遅れてすまない、屋敷に結界が張られていてね。少し手間取ってしまった」
オーネはそう言うと、私達の前に立った。
「カトラ、ワタシが合図をしたら、2人を連れてこの世界へ来た場所まで全力で向かってくれ」
「オーネはどうするの」
「ワタシもすぐ後を追うよ。それに、カナデがここにいるということは、奴もじきにやってくるだろう」
「……わかったわ。それじゃあ宮殿で待ってるから」
「ああ、そっちも捕まらないようにね」
そう言ってオーネは謎の魔力の方へと歩き始めた。
2歩、3歩と進み、4歩めを踏み出した瞬間、オーネは一気にスピードを早め、魔力と接触すると、「今!」と叫んだ。
すると、カトラから魔力が放たれたかと思うと、私とスライを包み込みそのままとてつもないスピードでカトラと共に移動し始めた。
1分もあれば来た場所に戻れるかというほどの速さで移動するなか、私は多数の魔力が森の中に散らばっていることに気づいた。
「ねえカトラ、何かはわからないけど、かなりたくさんの魔力が私達が向かってるところに」
それを聞いたカトラは、舌打ちをしてらしくない焦り方をした。
「もう見つかってた……!いつから……いや、それよりもどうすれば……」
いつもと違うカトラにスライも心配して声をかける。
「デスティはともかく、私は戦える。私達2人ならそうそう倒せない敵なんていないでしょ。何をそんなに……」
カトラはその言葉を聞いていたようだったが、返事をすることもなく険しい表情でぶつぶつと何かを考えている。
少しして、カトラは深呼吸をすると、何か覚悟を決めたように言った。
「オーネの真似をするみたいだけど……2人とも、聞いて。この魔法も使っている間は魔力が防壁になってくれるけど、魔法を使ったままだと魔力が干渉し合ってあそこを潜れない。スライ、私がこの魔法を解いたらデスティを守って宮殿へ飛び込んで。私が時間を稼ぐ」
「ち、ちょっと待って、さっきまであんなに警戒してた相手でしょ。カトラ1人じゃ……」
「少しの間耐えれば、オーネがやってくる。そうすれば帰って来れるわ。だから、2人は安心して先に行って待っていて」
そう言っている間にもう私達が来た場所は目と鼻の先だ。
だが、突然周りから無数の人間が現れ、私達に向かって魔法を放ち始めた。
カトラの防壁は貫けないものの、その衝撃と轟音は内部まで伝わってくる。
当たり前と言っては当たり前だが、宮殿へと続く穴の下にも何人かの人間が待ち構えていた。
一体カトラはどうするのだろうと思ったが、スピードが緩まる様子がないところを見ると、このまま突っ込んで吹き飛ばすつもりのようだ。
思った通り、魔力の防壁で穴の下にいた人間を突き飛ばすと、そのまま急停止した。
急停止の衝撃はかなりのもので、私はバランスを崩し倒れ込んでしまった。
だが、起き上がるのを待っている暇はないと言わんばかりに、カトラは防壁を解いて言った。
「スライ、デスティを連れて早く!」
刹那、私の体はスライによって引っ張り上げられた。
穴へと飛び込むまでの一瞬、周りからは無数の攻撃が放たれていたが、それらは全てカトラによって防がれた。
カトラは私たちに向かって親指を立てて笑いかけた。
その姿は、嫌というほど私達の頭に焼き付けられる。
私達に見せる笑みの右半分は、赤い血で染まっていた。




