元究極生命体デスティ・ルークシオン 1
私、デスティ・ルークシオンはオーリエン王国の王国騎士団長を務める名家に生まれた。
ただ私は次女だったうえ、姉であるインスティの才能が並外れていたものであったために両親は姉の教育に力を注いでいた。
それでも姉も私も、不満には思っていなかった。少なくとも、そこに幸せというものが確かに存在していた。
私が6歳の時、母が殺された。当時王国最大と呼ばれた盗賊団が、家を襲ったのだ。
その時父と姉は任務に出ていたため、家には私と母、そして数名の使用人だけだった。
だが帰ってきた父は、母が殺されたことなど目にもくれなかった。
父が目を奪われたのは、血塗れで倒れる母でもなく、それを守るように取り囲んで倒れている使用人たちでもなく、盗賊団を皆殺しにした私の才能だった。
父はそれを見るなり私を訓練場へ連れて行った。
訓練場に入ると父は私に何を告げることもなく斬りかかってきた。
だが私に刃は通らない。危険を感じた私はすぐにその剣を奪い取り父へ突きつけた。
父は狂喜した。これまで圧倒的と言われてきた姉をも凌駕する才能。父はその魅力に狂ったように取り憑かれてしまった。
「もう一度だ」
父はそう言って、私に剣を返すように手を差し出した。
逆らうことは出来なかった。たとえ身体が傷つかなかったとしても、確かに父からは恐怖を感じたから。
それから何度も、何度も何度も何度も、父に切りつけられては奪うというやりとりが続いた。
一体どれほどの時間が経ったかはわからない。終わったのは、姉が呼んだ騎士団が父を探しに訓練場へやってきた時だった。
それからしばらくは事件の収拾のため父と会うことはなかった。
しかし事件からちょうど1週間経った日、父は私を連れ、王都の中心から少し離れた屋敷へ向かった。
そこで待っていたのは、ステータス鑑定士だった。
そこで初めて父から、今日は私のステータス鑑定をすることを告げられた。
父は鑑定士に早く始めてくれと伝えるが、鑑定士は何やら躊躇っていた。
そして、恐る恐る告げた。規定の年齢に満たない私のステータス鑑定を行うことはできないと。
当時の私ほどの若さでは安全を保証することはできないと。
だが父は聞く耳を持たなかった。
何がなんでもやれと、ただそれの一点張りだった。
それでも折れない鑑定士に、ついに父は我慢を抑えられなくなり、身分を表に脅迫まがいのことを始めた。
そして渋々、私の鑑定を行うことを決めた。
結果、私は人間では無い別の生命体、異生命体であることがわかった。
私のステータスには、その異生命体の中でも特別異質な、究極生命体だと記されていたらしい。
だがそれを知る代わりに、私は多くのものを失った。
まず異常がおきたのは目だった。鑑定が終わると同時に視界が暗くなり、視力が完全に失われてしまった。
異常に気付いたのか、父が何か声をかけているようだったが、しっかりとは聞こえなかった。
とにかく助けを求めようと、口を動かすことを試みたが、それは叶わなかった。それどころか自分の体を動かすことができない。
唯一、浅い呼吸することだけしかできなかった。
それからすぐに、私は病院に運ばれると思っていた。
だが、感じたのは病院のベッドに寝かされる感覚ではなく、冷たい土の上に放り出される感覚だった。
視力も聴力もない、ただうっすらと体に感じる感覚しかないこの時、魔力だけは非常に鮮明に感じ取れた。
そして気付いた。父に取り憑く暗くおぞましい何かに。
だがそれに気づくには、あまりにも遅すぎた。
―――
それからどれだけの時が過ぎたのか。
まだ生きているという感覚があったため、それほど長い時間が過ぎたというわけでもなさそうだ。
しかし、何もすることができない時間というのは何倍にも長く感じてしまうものだ。
加えて、自分が今どこにいるのかという不安。もし森に捨てられでもしていたら、いつ獣に襲われるかわからない。
いやいっそのこと獣に今すぐ殺してもらった方が楽かもしれない。
死を近くに感じるに連れて、妙な落ち着きも生まれてくる。
もはや私は生きることを諦め、訪れる死が唯一の救いになる。そう感じ始めていた。
だが、不思議と生まれたその落ち着きは、長くは続かなかった。
突然失われていた感覚の中に痛みが生まれたのだ。
あまりに突然の、そして激しい痛みに意識が遠のいていった。
しかし、何故か完全に意識を失うことはなかった。
そしてぼんやりした意識の中、徐々に周りの音が聞こえてきた。
何故か痛覚だけでなく、聴覚も戻り始めている。
周りからは、ザクッザクッと硬い土を踏む音が何重かに重なって聞こえた。
どうやら私の周りには何人か、あるいは何匹かの存在があるようだった。
すると、突然ひときわ近くに音が聞こえた。
「君、まだ生きているみたいだね。このまま放っておけば死ぬこともできるだろうけど、生きたいかい」
優しい声だった。どうやら私の元に訪れたのは恐ろしい獣ではなかったらしい。
私は必死に「生きたい」と、そう伝えようとした。
しかしうまく声が出ない。聴覚が戻ったことで声が出ていることはわかるが、同時にそれが到底言葉には聞こえないものであることも理解できた。
果たして伝わるのだろうか。私にはそれを祈ることしかできなかった。
「ふふっ、大丈夫。ちゃんと伝わったよ。そんな顔で、必死に死を懇願する人なんていないからね。君を助ける」
ザクザクッと複数の土を踏む音がなる。
そして何も見えない中、そこにいる誰かの間で交わされる会話が聞こえてきた。
「ティー、この子を頼むよ」
「……いいのかよ、絶好の機会なんだろ」
「いいさ、この作戦はいつでも……とはいかないけれど、二度とできないわけじゃないからね。この子の命の方が大事さ」
「まあ、オーネがいいなら俺は何も言わねぇよ」
「スライも、それでいいかな」
「うん、私も別にいいよ。後輩が増えるのも嬉しいし」
「よし、それじゃあ帰ろうか」
少しの風切り音が聞こえた。勢いよく持ち上げられたようだ。
「君を今からワタシ達の世界へ連れて行く。治療はそこへ帰ってからだ。そのままだと辛いだろうし、眠っておくといい」
パチンと鳴った音と共に、ぼんやりと保たれていた私の意識はゆっくりと遠のいていった。




