おかえりなさい
廊下を走り抜け、寮を抜けたところで腕を引かれ足を止めた。
「待って」とティアが言った。
「何がどうなっているのかわからない。けどせめて、何処かへ行くならティムとフューリーを連れて行きたい」
「…だめ。本当なら今止まっている時間も惜しいの」
「それなら私はデスティとは行かない。たとえ死ぬとしてもティムとフューリーのところへ行く」
ティアのその言葉にデスティは、顔を歪ませる。
涙を浮かべながら怒っているようにも、葛藤しているようにも見える。
「…なら、私もあなたについていく。2人を運ぶのはあなた1人じゃ厳しいでしょ」
まだ納得しきっていないようだったが、決心したようにそう言った。
「…アルトは先にあの場所へ向かって。必ず追いつくから」
「わ、わかった……」
そう言葉を交わし、私は門の外へ、デスティとティアは医療棟へと走り出した。
―――
王都を抜ける中、あの亀裂が至るところに現れていることを知った。
亀裂は、何もないところ、建物のあるところ、そして人や生き物までも割るように現れている。
遠くに小さく見える王立魔法学校の生徒たちは大丈夫だろうか。
あそこにはティア達の友達もいる。それに私だってあの人達とは少しの交流がある。
それでも助けに行きたい気持ちは抑えなければいけない。
デスティがあそこまで焦って早く行くよう勧めたのは、おそらく私の安全のためだけじゃない。
ピーター先生が逃げた先はおそらくダイアナがいる世界。
このままではダイアナはまたピーター先生に操られてしまう。
私だけが行ったところで何ができるかもわからないけど、私が1番助けたいのはダイアナだから。
戸惑い恐怖する人々の間を縫って、私は走った。
幸い関所の人たちもトラブルに巻き込まれているようで、王都を出ることは難しくなかった。
草原は、あちこちが崩れ地割れのようになっている。私は十分に注意しながらスピードを落とさずに走った。
一度走った道だ。それにこの1ヶ月でさらに力もついた。前よりも早く辿り着けるだろう。
ところがあの場所へ近づくにつれ、亀裂の量が多くなってきていることに気づいた。
山の麓に広がっていた森の木のほとんどが、亀裂によって切り倒されている。
地上は薦めそうもないので、飛行魔法を使い進んだ。あまり魔力を使いたくはなかったが、仕方がない。
山の中腹あたりで、下へ降りた。もうあの場所は目と鼻の先だ。
そういえば、ダイアナを見送った時は、騎士団の人がゲートを開いていたような気がするが、私1人しかいない今、どうやって開けば良いのだろう。
そんな心配は無用だった。
何故かゲートは開かれていた。しかも信じ難いことに、無数の亀裂がゲートを中心として周りに広がっている。
まさかこの亀裂は、戦争の相手である世界の攻撃なのだろうか。
そうだとすると、向こう側で戦っているはずのダイアナは、今も危険にさらされている可能性がある。
私はゲートまで必死に走った。
自信を強化する能力を全て使ったため、たどり着くまでは一瞬だった。
ただ、ゲートを潜るその一瞬、声が聞こえた。
「おかえりなさい、アルト」
その瞬間私は、一筋の光すら見えない闇の中へ、吸い込まれていった。




