究極生命体と犯人 2
「ティアさん……だったよね、僕がフューリー君と一緒にいたというのはどういうことかな」
「ティムがフューリーの所へ行く時、心配だから時々こっそり様子を見に行っていたの。フューリーは決まってあなたと一緒にいたわ」
ティアがそう言うと、ピーター先生は笑って返す。
「嫌だなあ、フューリー君には怪我の様子を訊きに行っていただけだよ。あの頃はフューリー君に変わった様子は無かったし、操られたのは最近じゃないかな」
それを聞きティアは、戸惑った。おそらく自分の考えに疑いをもってしまったのだろう。
私もそうだ。今の言葉を聞いただけで、今まで自分達が考えていたことは全て机上の空論だったのではないかと思えてきた。
「もう用件は済んだし、僕は失礼するよ。まだ疑いは晴れていないようだし、デスティさん。誤解を解いておいてくれないか」
そう言って部屋に背を向け、ピーター先生はここを離れていこうとした。
しかし、デスティによってその足は止められる。
「…さっきのアルトとの会話、聞いていました」
「アルトさんとの会話? いきなり何だい?」
どうしたことか、ピーター先生が急に焦った様子になる。
「…最初、アルトと私を見間違えてましたよね」
「君たちはとてもそっくりだからね。間違えるのも無理はないだろう」
ピーター先生の声がだんだん荒げられていく。気のせいか額に汗も浮かんでいるようだ。
「…私も最初はそう思い、気にしていませんでした。だけど私とアルトじゃ話し方や雰囲気も全然違う。一度会った人に、真正面から向かい合って間違えられたことはありません」
ほんの少しの間、沈黙が辺りを支配した。私は思わず息を呑んだ。
「…ピーター先生、あなたのその目や耳は、しっかりと機能していますか?」
視線が全てピーター先生へと向けられる。それらはデスティの言葉に頷いて欲しいという意味を持っていたが、ピーター先生がこちらを向くとその期待は打ち砕かれた。
こちらを向いたピーター先生の体には、幾つもの体を継ぎ接ぎした痕が現れていた。
「全く、僕としたことが迂闊だったよ。無理やりにでもティアさんに"治療"を受けさせておくべきだった」
「…やっぱりあの試合の治療の時に、フューリーを操っていたのね」
「彼だけじゃないさ、僕が"治療"したのは1人じゃない」
そう言ってピーター先生はこちらを見た。
そうだ、私もピーター先生に治療してもらった。それに、ダイアナも。
「安心してくれ、君には何もしていないよ。いや、何も出来なかったと言ったほうが正しいかな。デスティさんの魔力が想像以上に邪魔でね」
「ダイアナには……ダイアナには何かしたんですか」
すると、ピーター先生は大声で笑い始めた。
「彼女は実によく動いてくれたよ。この学校を出るのは僕でも簡単じゃないからね。おかげで外での作業が捗った」
「まさか、ダイアナに誘拐の実行犯を……?」
「ああ。別世界に行ってしまったことが残念でならないよ。流石に僕も、世界が違っては操ることはできないからね。彼女は実に有用な駒だった。あの時も、周りの騎士を殺させて逃そうと思ったんだけどね。君達のせいで出来なかったよ」
そう言いながらピーター先生はだんだんと近づいてくる。だが、どうしたことか全く体が動かない。
「動けないだろう。ティムくんの能力で君たちの体の時を止めさせてもらったよ。さて、さっきは取れなかったアルトさんの目を頂くとしよう」
ピーター先生が私に向かって手を伸ばす。そしてその手は別の方向から伸びてきた手によって掴まれた。
デスティが動いていた。
デスティは掴んだその手に何らかの能力を行使した。
すると、ピーター先生の手はそこからひび割れ、崩れていった。
だが、ピーター先生は慌てることも迷うこともなく、自分の腕を肩から切り落とした。
「君だけが、唯一の不安要素だったよ。デスティ・ルークシオン、君のことを調べても何も出てこない。まるで君が存在していないかのように」
デスティは身構える。ピーター先生の意表をつけなかったことで、少し警戒しているようだ。
「だが、君は確かに今この世界に存在している。これはどういうことか」
「…わからないなら知らなくても良い。どうせあなたはここで死ぬのだから」
「まあ待ってくれよ。だっただと言ったろう。君の素性は全て調べ終わったよ」
それを聞いた途端、デスティの様子が変わった。顔を引きつらせ汗も流して、怯えているように見える。
「24の世界を渡り、旧神界にまで行った。さて、ここまで言えば理解してもらえたかな。僕は君の育ての親に会ったよ」
そこまで言ったところでピーター先生は何かに耳を貸すように、一旦言葉を止めた。
ピーター先生は全く無防備に見えたが、デスティは動くことができないようだった。
「残念だけど、ここまでだ。アルトさんの力は欲しかったけど、僕はもう行かなければいけない。まあ、最低限の力は手に入れたし、早くここを離れないと巻き込まれかねない」
そう言ってピーター先生は私たちに背を向けた。
「それじゃあ、今日を乗り切れたらまた会おう」
そのままピーター先生は能力を使い、この場から姿を消した。
そしてピーター先生が消えると同時に私達の体に自由が戻った。
だが、誰一人すぐには動き出せなかった。
暫くして、私はデスティの様子がおかしいことに気づいた。
もちろん、弟の仇を目の前にして何もできなかったティアも放っておける状態ではなかったが、デスティは呼吸も荒くかなりの量の汗だ。
「デスティ、大丈夫……?」
するとデスティは途端に私の肩を掴んだ。
「…早く、逃げて」
「に、逃げてって、どこに?」
「…ダイアナと別れたあの場所へ。早く別の世界に逃げないと」
その時私の視界にあるものが映った。
何もないはずの空間に、亀裂のようなものが浮かび上がっている。
デスティはそれを見ると、さらに血相を変えて叫んだ。
「…早く、ここを離れて!」
何が起こっているか、全く理解できなかった。
ただ私はデスティに従い、ティアを連れて走ることしかできなかった。




