究極生命体と事件 4
「ま、待ってカナデさん!スライはいつ行っても図書室にいたんだよ!ここの外に出ていることなんて…」
私はそう言い返すが、カナデさんはそんなことは些細なことだと言う。
「別にアルトだって毎日一日中一緒にいたわけじゃない。それにデスティから聞いたけど、スライは幻影魔法を得意とするそうじゃない。なら、自分の幻影を置いておくことだって可能だわ」
スライは私に能力の使い方を教えてくれた恩人であり、大切な友達の一人だ。
そんなことあるはずがない。だけど私の口からは何も出てこない。
カナデさんの言うことが真実だと、私自身認めかけてしまっている。
「少し…考えさせてくださ──」
「だめよ」
私の言葉をカナデさんは遮る。
その顔はいつになく真剣で、険しかった。
「ここでアルトちゃんが情報をくれなかったことによって、命が失われるかもしれない。そうなってしまって、アルトちゃんはその命の責任を取れる?」
私は黙り俯いた。
「アルトちゃん、彼女に接触できれば被害者の失われた能力も戻す手がかりが掴めるかもしれないの。お願い」
私は暫くの間考え、顔を上げた。
「スライは、原書を探しているって言っていました。それがついでだってことも。とてもたくさんの能力を使えて、私が図書館に行くといつも能力を教えてくれました。それと、スライの幻影魔法は本物と区別がつかないほどだから、隠れているなら本当に注意深く探さないと無理だと思います」
それだけのことを伝えると、カナデさんはいつもの笑顔に戻った。
「ありがとう。それじゃあ私は彼女の捜索の準備をするわ」
カナデさんはそう言って病室を出て行った。
病室の窓から赤い夕日が差し込んだ。
いつのまにか日は沈みかけていた。
私がしばらく動けないでいると、同じ病室の別のベッド。閉められたカーテンの向こう側から声が聞こえた。
「…大丈夫だよ。カナデさんに任せておけば。アルトがスライを助けてって言えば、罪を軽くすることだってできる。それだけの力があるから」
その声に引かれてカーテンを開けるとそこにはデスティがいた。
頭や足に包帯が巻かれ、なんとも痛々しい。
「…怪我は大丈夫だから。それよりこれ、アルトに」
そう言ってデスティは数冊の本を手渡した。
「これは……?」
デスティは顔を少し逸らした。
「…本当は私も、アルトとダイアナには再会してほしい。方法が強くなるしかないなら、絶対に死なないように鍛えてあげよう。そう思ったの」
それを聞き、私の中の疑問が一つ解消された。
なぜ本を嫌いなデスティが図書館であった爆発に巻き込まれたのか。
私のために本を取りに行ってくれていたのだ。
「ごめん、デスティ。私のせいでこんな怪我」
「…別に。それよりも、もう戻った方がいい。今外にいるのは危険だから。できれば1人になって欲しくないし、ティアも連れて」
私は頷き、デスティに別れの合図として手を振ると、ティアの下へ行った。
ティアは変わらずじっとティムを見つめていた。
「ティア、そろそろ帰ろうか」
はっとしてティアがこっちを見た。
「うん、そうね。もう帰らないと、危ないものね」
ティアはティムに向かって「またね」と言い、立ち上がった。
部屋を出ようとしたその時、何かに気づいたようにティアが止まった。
「そういえば、フューリーは……?」
そうだ。確かあの時、ティムの血は1つの部屋につながっていた。
つまり、ティムが襲われたのは部屋の中だったということだ。そしてその場にはフューリーもいたはず。
ティムを医療棟へ運んだ後、誰かあの部屋に入っただろうか。
一刻も早く確認するため、私とティアは寮へと走った。
―――
息を切らしながら寮の3階へと辿り着いた。
ティムが倒れていたその場所には今もまだ赤黒い痕が残っている。
そしてそれが点々と続いていた先の部屋の扉を開けた。
しかし、入ってすぐあることに気づいた。部屋に入った途端、血痕が途切れているのだ。
ティムが襲われた現場と考えていたその部屋の中も、私の部屋となんら変わらない様子で、そこでおぞましい事件が起こったとは考えられないほど整っていた。
ただ一つ、その部屋には私達が求めているものが欠けていた。
「フューリーはどこ……?」
本来はいるはずの部屋の主が見当たらない。
もしかしたらもうすでに保護されたのだろうか。それとも彼もまた犯人によってさらわれたのか。
どうすることもできず、一旦自分の部屋へ戻ろうとした私達に、突然声がかけられた。
「彼はここにはいないよ。そうだなーいつも私がいた場所を探せば、何か見つかるかも」
スライの声だった。しかしその声がした方を向いても姿は見えない。幻影魔法だろうか。
「どういうこと? スライは何か知っているの?」
返事はなかった。しかし他に手掛かりもない今、スライの言葉を信じてみるしかない。
私は同意を求めるためティアの方を向く。するとティアは首を縦に振った。
私達は再び寮の外へ飛び出し、本校舎へ向かった。
―――
本校舎の前まで来ると1人の人物が仁王立ちして待っていた。
「アルトちゃん、ティアちゃん。どういうこと。もう部屋に入らないと危ないでしょ」
そのまま危うく帰されそうになったので、慌てて先ほどあった出来事を話す。
「そう、もう1人……スライの言っていたいつもいた場所っていうのは図書館のことね。彼女が何か知っているのは間違い無いわね」
カナデさんは少しだけ何かを考えた。
「教えてくれてありがとう。でも、もう無茶しちゃダメよ。部屋でじっとしていること。図書館は私が調べておくから」
私もティアも、首を縦に振る。
今日一日の疲労が体にも心にも来ている。こんな状態の私達では足手纏いになってしまうかもしれない。
今度こそ部屋に帰るため、私達は寮の方へ引き返した。
部屋は一階にあるので階段を上がらなくていいことが幸いだ。
ようやく部屋につき、ティアと順にシャワーを浴びベッドへ倒れ込んだ。
このまま目蓋を閉じればすぐにでも眠れそうだった。試しに閉じてみるが、眠れない。
どうにも落ち着かないのだ。デスティのことやティムのこと、スライのこと。そしてダイアナのことが離れない。
ティアも同じく眠れていないようだ。目をぱっちり開けて、その青い瞳を天井へ向けている。ティムのことを考えているのだろうか。それともフューリーだろうか。
どちらにせよ私達にはどうにもできないと割り切って眠ることに集中する。
それでも結局窓から白みがかった光が差し込むまで眠ることはなかった。
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