究極生命体と事件 3
血塗れで横たわるティムを見たカナデさんは、ティムのそばへと駆け寄り、急いで回復魔法をかける。
それでも血は止まらないようで、焦ったように回復魔法を重ねがけする。
するとそれをピーター先生が止め、カナデさんへ指示を出した。
「カナデ様は少し抑えても良いので途切れさせることなく回復魔法をかけ続けてください。今から彼を医療棟へ運びます。そうしたら必ず私が彼を助けますから」
カナデさんはそれを承諾し、横たわるティムを抱き抱え移動を始める。
私達のことを気にしている余裕もないようで、指示も出さずに私達や男子生徒を放置して行ってしまった。
だが、男子生徒達は指示されるまでもなく、自ら部屋へと戻っていった。
きっと皆、野次馬心で集まってきた者ばかりだったのだろう。
もちろん純粋に心配で見ていたものもいるはずだが。
ともかく全ての男子生徒は部屋へと戻っていき、廊下には私とティアだけが残された。
「アル…ト…ティムは……」
ティアは耳を済ませないと聞こえないほど弱々しい声でそう言った。
続きが言葉となることはなかったが、おそらく大丈夫なのか、助かるのかということが続くだろう。
「きっと大丈夫だよ。ピーター先生は死ぬかもしれなかった私を助けてくれたし」
ティアを安心させようとそう言うが、おそらくその声は震えていただろう。
怖くてたまらないのだ。
また友人を失ってしまうのかと、私の前から親しい人間が消えていくのがたまらなく怖い。
私達は膝から崩れ落ち、しばらく立ち上がることはできなかった。
―――
どれくらい経っただろうか。
廊下で座り込んだままただ呆然としてしばらくが過ぎた。
まだかなり動揺して落ち着くことができないが、それでもずっとこのままであるわけにもいかない。
「ティア、医療棟に行こう。ここでこうしているより、出来るだけティムの近くに行こう」
ティアは無言で頷く。
そしてゆっくりと立ち上がり、寮の階段を一段一段慎重に下り、寮から出てまっすぐ医療棟へと進んでいった。
その途中、ちらりと奥にある本校舎が見えたが、校舎の一部がほぼ丸々なくなって、とても悲惨な状態だった。
医療棟へ着き中に入ると、階段から下りてくるカナデさんが目に入った。
カナデさんはすぐにこちらに気づき、慌てて寄ってくる。
「ごめんティアちゃん、アルトちゃん。置いていっちゃって。ティムなら無事よ。命に別状はないわ」
それを聞いて、私とティアは顔を見合わせる。
だが、カナデさんがその言葉に「だけど、」と付け加えた。
「だけど、まだ少し問題があって……こればっかりは見てもらいながら説明した方が早いわね」
カナデさんは私達に「ついてきて」と言ってもと来た階段を上がっていく。
カナデさんに言われるまま、私達はその後を追った。
そのままカナデさんは2階、3階と上がっていき、4階へとたどり着くと廊下へ出て病室の方へと歩き出した。
しばらく歩いたあと、カナデさんは一つの病室の前で足を止めると、ドアをノックし中へ入った。当然私達もそれに続く。
するとカナデさんは1つのベッドの前で止まった。
そのベッドの上にあったのは顔の上半分が包帯で覆われたティムの姿だった。
その姿を見たティアは思わず駆け寄って彼を抱きしめる。
ただ、眠っているようで反応はなかった。
眠っているティムを少し眺めてみたが、どうやら他に治療されたらしい箇所は見当たらなかった。
カナデさんはなぜこの状態のティムを見せたのか、それを改めて聞くため顔をカナデさんの方へ向ける。
するとカナデさんは1度ティアの方をちらりと見て、話し始めた。
「彼は、目をくり抜かれていた。他に傷もなかったし、多分それが目的で襲われたんだと思う」
カナデさんはまずそう言った。
私もティアも、思わずもう一度ティムの顔を見る。
本来目があるはずのその場所は、包帯が厳重に巻かれ、それの有無を確認することはできなかった。
カナデさんは続ける。
「実は最近似たような事件が王都で起こっているの。王都に住む異生命体ばかりがさらわれて、そして体の一部をが失われた状態で発見される事件が」
その事件については知っている。
おそらく前にフラムに聞いた誘拐事件と同じものだろう。
まさかその犯人が学校内に侵入したのだろうか。
そもそもそんなことをするメリットは一体なんなのだろうか。
「被害にあった人達は異生命体ということ以外に特に共通点はなく、失った体の部位もバラバラだった。ただ、発見されたあとには皆、ある事実が共通してた」
カナデさんはティムに視線を向ける。
おそらくティムにもその共通する事実があったのだろう。
カナデさんはさらに言葉を続け、その事実が何かを口にした。
「被害者は皆、能力を失っていた。異生命体としての力を全て失っていた。おそらく、犯人に能力を奪われたの、体の一部とともに」
カナデさんはそう言うと、続いて私に問いかけた。
「この学校には関係者以外は私の許可がないと絶対に入らないのは知っているかしら?」
突然そんなことを聞かれて思わず私は戸惑う。
「え、どういう…」
「私、昨日調べたのよ。あなたが言っていたスライについて。そうしたら、やっぱりそんな子をこの学校に入れた記録はなかった」
カナデさんの言っている意味がわからない。
なぜ今スライの話が出てくるのだろう。この流れではまるで…
「アルト、スライについて知っていることを教えてくれないかしら。この事件の犯人はおそらく彼女よ。」




