ダイアナと別れ
一度涙を流し終えると、案外冷静に戻るものだ。
私は辺りを見回すと、アルトに状況を説明するように求めた。
「今、ティムに私達以外の時間を止めてもらってる。けど限界もあるからもうすぐ動き出しちゃうけど…」
アルトが少し寂しそうに言った。
時間が動き出せばアルトは行ってしまうということだろう。
「あ、それとティアもダイアナにお別れが言いたいって言ってたんだけど、ティアも呼んじゃだめかな?」
「ええ、ティアにも少なからずお世話になったしね」
するとアルトは私の後ろに手でオーケーサインを出すと、何もなかった空間から突然ティアが現れた。
「て、ティア⁉︎一体どこから…⁉︎」
私が困惑してそう言うと、アルトが答えた。
「私の幻影魔法でみんなを隠してたの。ティムが私を視認しないと、私達も止まっちゃうから必ず見える位置にいてもらうように」
「そ、そうなのね。あ、ティア…」
ティアは少し気まずそうにこちらを見る。
それから一瞬間があったが、すぐに話始める。
「まずはごめんなさい、ね。私、あなたとちゃんと話すまで、あなたのことずっと避けてたの。
ティムにも近づかないようにって言って。
でも、学校でアルトととても楽しそうに話してるダイアナを見て少し話してみたいって思った。
試合の時初めて話して、あなたがとてもいい人だってわかったわ。
ねえダイアナ、私、あなたの友達になってもいいかしら」
「もちろんよ。ティア、ありがとう」
ただそれだけ返す。これ以上話せば別れが辛くなる一方だ。
ティアもそう思ったのか、こちらに向かって笑いかけると、元いた幻影の向こう側へ戻っていった。
「ダイアナ、そろそろ…」
「ええ、わかってる」
そう答えると、アルトは腕をあげ、ティムへと合図を出そうとする。
その腕を、私は掴んで止めた。
「だ、ダイアナ…?」
「アルト、お願い。私がゲートをくぐるまで、手を繋いでいて欲しいの」
「…わかった」
そう言うとアルトは私の手を握り、ティムがあるであろう方向に合図を出す。
そして時が再び動き出すとともに、幻影魔法で姿を消した。
騎士達が動き出すとともに私も一歩前に踏み出す。
しかし体が再び震え出すことはなかった。
それはきっとこの手の温もりのおかげだ。
長い道を進み、山の中腹あたりまでたどり着くと、そこに一つの洞穴があった。
外から見ても奥が見える、かなり小さい洞穴だ。
すると、騎士団の1人が洞穴に近づき、何やら小さな紙切れのようなものを燃やす。
すると、洞穴の壁が歪み始め、やがて洞穴の中が全く別の景色へと変わった。
これが別世界へのゲートなのだ。
私はそこへ近づいていく。
ゲートの目の前に来たところで、私はアルトと繋がっていた右手を離す。
「行ってくるね」
騎士に聞こえないよう、小さな声でそう言う。
そして私はゲートの中に一歩、足を踏み入れた。
先にはこちら側の世界にいる兵が私を待っている。
私がそちらに向かうと、後ろのゲートが閉じていくのがわかった。
そしてゲートが完全に閉じる瞬間──
「きっとすぐに行くから」
そう聞こえた。




