ダイアナと、アルトとデスティ
目を覚ますとそこはあまり慣れない天井。どうやら外へ出られてはいないようだ。
立ち上がろうとするが、体を動かそうとするたびに激痛が走り、動くことができない。
何とか顔だけを起き上がらせて、自分の体を見ると、あちこちに包帯を巻かれ治療を施されていた。
「…目が覚めた?一応応急処置はしたから。まだ動けないとは思うけど、もう無茶したりはしないで」
デスティがそう言う。
確かにこうなってしまってはもうどうしようも無い。動くこともできないまま時を待つのみだ。
「ねえデスティ、ダイアナはこっちに戻ってこられるの?」
「…戦闘が不可能なほどの大怪我を負った兵は皆この世界に帰されて治療を受け、元の生活に戻ると聞く」
「そうなんだ、じゃあまた会える確率はゼロじゃないんだね」
私がそう言うと、デスティは表情を曇らせる。
本当はなんとなくわかっている。たとえ帰ってくることができたとしても、ダイアナが戻るのは私達と過ごした学校生活ではなくて、さらにその前の生活だということ。
「ねえデスティ、こんなことになって、ダイアナはどう思ってるのかな」
「…異生命体だと判明してからは、ストレスを与えないように釈放されて…もちろん監視はついていたけど。でも1人で生活するのはとても大変そうだった。店に来るのは嫌がらせをしに来る人たちばかりで…」
デスティはまるでそれらを見てきたかのように、思い出すように語る。
いや、実際見てきたのだろう。きっと監視役というのはデスティのことだ。カナデさんが来るまではほとんど付きっきりで見張っていたのだろう。
「…カナデさんが来ることになって、学校に入れると伝えた時は、気が抜けたように泣き出した。きっと安心して気が緩んだんだと思う…それでもう店は閉めると言うことになった、そのまま続けていてもダイアナが傷つくだけだったと思うから」
そこから、デスティの表情が少し和らいだ。
「…それでカナデさんが王都へやってきて色々手続きをしに回った。そんな時、ダイアナはあなたを見つけたの」
「私を…?」
「…そう、あなたを見たと途端、それこそ石みたいに固まっちゃって…それであなたが財布を落とすのを見たら止めるのも聞かずにあなたのところへまっしぐら…それから本当に驚いたのは、もうあの子にとって嫌な思い出ばかりのはずだったこの店に、あなたを入れたこと、一刻も早く離れたいと言っていたのに」
デスティは今度は驚いた表情になる。本当にその時の記憶を鮮明に語っているようだ。
「…それからはアルトも知っている通りの生活…それまでダイアナとは2人でいる時も何も話したりはしなかったけれど、その時からはダイアナの方から話しかけてくれることが度々あった。ほとんどアルトのことだったけど」
「な、なんか恥ずかしいね…ちなみにどんな?」
そう聞くとデスティはうっすらと笑って答える。
「…アルトはとっても綺麗だ…とか、アルトと一緒にいるとすごく面白くて楽しい…とか、思ったよりも抜けてて可愛い…とか」
「わああ!もういい!話題元に戻して!」
そう言うと、デスティは更に優しげな笑みを浮かべる。
「…ダイアナがどう思ってたのか、だっけ。ダイアナはいつも言ってたよ。あの時から、とても辛いことばかりで、今までの楽しかった思い出も全部嫌になってどうしようもなくなったけど…」
『アルトと出会えたことは、きっと私に与えられた唯一の救いなの。いつも私を笑顔にしてくれて、一緒にいるだけで辛かったことなんて忘れちゃうくらいに幸せだったわ。アルトとの時間は人生の中でまだとても少ない時間だけど、1番の幸せな時間だったわ。これまでも、これからも』
ダイアナは学校を出る前、そう言っていたそうだ。
「…その時のダイアナは、今までで1番幸せそうで…1番辛そうだった。本当だったらアルトを会わせてあげたい。死ぬかもしれない戦場に行くダイアナを勇気付けてあげて欲しい」
デスティは先ほどまで楽しく語っていたことが嘘のように涙を流してそう言った。
そんなデスティを見て私は激痛に耐えながら、立ち上がる。
「やっぱりダメだよデスティ、このままじゃ誰も幸せにならない」
「…アルト?」
「ねえデスティ、あなたはどんなことを命令されたの?」
私の質問の意図を考えているのか戸惑うデスティ、だが私が早く、と急かすと口を開いた。
「…何があってもダイアナをこの世界に留まらせるな…学校で親しくなった者も近づけるなって」
なるほど、その命令ならもしかしたらデスティが無視してもバレない方法があるかもしれない。
「ねえ、もしかしたらバレずにダイアナにもう一度会えるかもって言ったら、デスティは協力してくれる?」
それを聞くとデスティは少し考えるが、表情は暗いままだ。
「…だめ、私は命令を破るわけには…カナデさんに迷惑はかけたくない」
「それでも!デスティだってこのままダイアナが行ってしまうのは嫌なんだよね、だったら…少しでも可能性があるのなら、どっちも選ぼうよ!バレずにダイアナのところまで行って、ちゃんとお別れしようよ!」
暫しの沈黙。そしてまた私がデスティを説得しようと口を開こうとする。が、その前にデスティが話し始めた。
「…私、前にもこんな感情を味わった…その時は私、何もしないまま流されて、結局今も残ってる。ねえアルト、本当にできるの?」
デスティが問う。その問いに対し、私はこう答える。
「必ず」
私はこう答えなければいけなかった。多分とか、わからないとか、迷いがあるようではだめだ。でないとデスティにもまた迷いが生じてしまう。
「…わかった」
デスティはただそれだけの言葉で返すと静かに出口を覆っている壁を消した。




