20140426『クラスメイト:参』
……知ってる
……その『事実』を知ったのは、実の所それほど後の事ではない。
むしろ、『ユーリ』と出会った当初と言っても良いだろう。
確かあれは、初対面を済ませた後、折角なので最寄り駅まで皆で行こうと言う展開になった時だ。
私は三人の後を着いて行きながら、聞くとはなしに会話を耳に入れていた───
□
それまで話していた、今期のアニメの話題が一段落ついた、と思った瞬間だった。
「───それで、春休みの間は『彼氏』と遊びに行ったりしたのかい?」
『サトシ』が何気なく、爆弾発言を放り込んだのだ。
……いやまぁ、正確には。
爆弾発言だったのは、俺にとってだけなんだろうが。
このメンバーにとっては、『周知の事実』というやつだったんだろう。
「うん! 『アイツ』、遠いのに頑張って来てくれたよ!」
「へぇー。 んで、何処行ったん?」
「もちろん、『ゲーセン』!」
「だよねぇー」
□
……その時の私は、好意を持ち始めた相手が既に彼氏持ちであった事に対する、自分自身の気持ちの整理に忙しかった為。 正直、『ユーリ』達がこれ以外にどういう話をしていたかの、事細かな記憶は残っていない。
ただ、印象として覚えているのは、
・その『彼氏』とやらは、かなり遠方に住んでいる事。
・高身長の細マッチョで、ボクシング経験者であり、年下である事。
・かなりの『ゲーマー』で、給料の半分近くを『ゲームセンター』の『アーケードゲーム』につぎ込んでいる事。
……と言った所だろうか。
それまでの私は、彼氏が居る女性に対して好意を持つ事は。
世間一般的に見れば、明らかに良くない事なのだと、極普通に考えていた。
だが、同時に。
私自身、それまで異性と付き合った経験も無く、そもそも他人との交流自身が希薄だ。
そんな私が、のぼせ上がる程に好意を持ってしまった相手に、大人の自制心を発揮できるか。
答えは、無論───否、だった。
……まぁ、言い訳をするならば、遠くに住んでいる『ソイツ』に比べて、自分は『ユーリ』の近くに居れる、だとか。
『ゲーセン』に給料の半分をつぎ込む男より、俺の方が『ユーリ』を想っている、だとか。
冷静に考えてしまえば、矛盾だとか無理だとか、そもそも『ユーリ』の気持ちを考慮していない自分勝手だとか、突っ込み所は山の様に在るが。
当時の私にとって、それは自分を納得させ、『ユーリ』に対する好意を正当化する、免罪符となったのだった。
□
自分を納得させた俺は、遠慮なく前方の会話に割り込みを掛ける。
「……へぇ、『ゲーセン』って最近行ってないんだけど、『ムライシ』さんはどんな『ゲーム』をするの?」
「お? 『チバ』さん、結構『ゲーム』とかするんですか?」
「うん、結構やるよ! 『FPS』とか『TPS』何かは、結構好きかな」
「おぉー! そうなんですか! アタシはですねぇ───」
□□□
───『ユーリ』が彼氏持ちだと言う事実を、再認識させられつつも。
俺は、その時の自分の気持ちを若干カッコつけて答える。
「……まぁ、あれだよ。 好きになったら、障害が在ろうと仕方が無い、って言うか」
「おお、そうなんッスね! 意外と熱血ッスね~…………あ、でも」
腹筋合間のインターバルで、色々と考えながらも当たり障りの無い内容をダラダラと話していると。
唐突に、何かに思い当たったかの様に、『タモリ』くんが俯き加減で言う。
「『チバ』さん真面目そうだし、良い人っぽいッスから…………いや、逆に『ムライシ』さんには、その方が良いのかもしれないッスね」
「……んん?」
何処か含みのある『タモリ』くんの言葉が気になりつつも、俺の想いを肯定してくれる相手を邪険にする気は起きない。
苦笑いを浮かべながら、俺は『タモリ』くんに言葉を返した。
「……あ、うん。 そうなれるように、俺も努力してみるよ」
「応援するッスよ! ……なので、自分にも縁がありそうな時は」
「あー……分かった。 役に立つかは分からないけど、俺に出来る事なら手伝うよ」
「ありがとうございますッス!」
テンションを上げながら、腹筋を再開する『タモリ』くん。
それを横目に、少しでも動かそうとすると引きつった様な感覚を返す自分の腹筋を撫でた俺は。
若いって良いなぁ……等とオッサンの感慨を浮かべつつ、天井を見上げて一つ溜め息をついたのだった。
□□□
……この時点で、細かく話を聞いていれば。
私が辿った運命を回避出来たのだろうか。
『今』でも……そう考える事は、無いとは言えない。
だが……何度考えても。
結局の所、『結論』は同じ所に帰ってくるのだ。
……どんな言葉を掛けられようが、どんな事実を知ろうが、どんな不条理が待っていようが。
私は、私の心のままに、『ユーリ』を愛したのだろう。
たとえそれが、独りよがりの愛だったとしても。
精一杯の愛を、『ユーリ』へ。
今でも、私は思い返さずにはいられない。
結末が変わらないと分かっていても、見ずにはいられない幸せの幻像を。
自らの愚かしさ故に手放した、悲惨で美しい一度だけの、奇跡を。
……止められない




