第11話:邂逅(2)
闇夜に浮かぶ赤い双眸。カリルドと名乗る男は柔和な笑みを崩さずに続けた。
「冒険者アトミ。半年前からクラン『アリウム・ギガンチウム』に所属するようになった魔術師、だよな?」
「なんだ、ストーカーか? それともファンかよ。クラン通してくれねえかなァ、そういうのは」
アトミは努めて粗野に笑いながら腰の指揮棒に手をやろうとする。目の前に立つ男から感じるのは好意などではない。何か粘ついた執念のような意思が、アトミを貫くような鋭敏さで向けられている。
「ヘタに動くのはやめた方がいいぜ。これは脅しじゃなくてホントに忠告だ。アンタは今、俺以外からも『見られてる』」
「へえ、そいつは嬉しいね。案外モテるんだな俺は」
「正直に言って、俺はアンタを白だと思ってるが……他はそうじゃない。素直に話してくれるのがお互いのためだ」
「……白も黒も、夜道で事情も言わずにごちゃごちゃ抜かすんじゃねえよ」
「一つ目の質問に答えてくれ。アンタは『銃』を知ってるか?」
「……ああ、知っーーーー!!」
瞬間、アトミは身を屈めて這いつくばるように伏せた。頭上で何かがふぉん、と風を切る音がする。半ば勘だった。怨念鎧のときに感じたあの圧力、あれと同じものを首筋に感じて体が動いた。
「テメエッ……!!」
「外したか」
「おい!! 約束が違うぞ!」
三者三様。気付けばその場に黒ずくめの男が短刀を持って佇んでいる。アトミにはその動きは見えなかった。女神に改造された動体視力をして見切れぬその太刀筋。今頭を下げなければ間違いなく死んでいた。静かな死線に冷や汗が伝う。
「まだ話の途中だ!!」
「銃を知ってるなら、どの道関係者だ。末端だろうが中枢だろうがそんなことは関係ない」
「俺は無差別な殺しはしない!! アンタらを殺人鬼にする気もない!!」
カリルドと名乗った青年は黒ずくめの男に怒鳴るようにして話しかける。しかしこの短刀を持った男の纏う空気は変わらない。どこか怨念鎧に似た、悍ましいまでの鬼気を感じる。ただ信念のためにそれ以外を削ぎ落としたような、研ぎ澄まされた雰囲気だ。カリルドから感じたそれとは格の違う、怖気がアトミの背筋を通り抜ける
「……おい、俺にはアンタらの言ってることがさっぱりなんだがよ、誰かと勘違いしてねえか?」
「グスターヴォ・カルデアーノ」
男はぽつりと呟く。だが、そこには鉄よりも重い憎悪があった。
「お前のその魔術、それとよく似た魔道具『銃』を開発した男だ」
「俺たちはそいつに用がある。恐らくはこの街にいるんだ。だから銃みたいな魔法を使うアンタを見て関係者だと疑った」
カリルドが引き継いで話す。先の話しぶりでは彼はアトミをさして疑ってはいないようだった。注意するべきなのは隣の黒ずくめだろう。未だに隙あらばという意思を隠す気もない。
「『用がある』ねえ。ご足労いただいたのに悪いがそりゃ筋違いだ。確かに俺は銃を知ってるが、そんなヤツのことは知らねえ。ただイメージに丁度良かったから、ちょっとモチーフとして拝借しただけ。残念だよ、もし俺がそのなんたらって野郎とダチなら親睦を深めるためにお茶会でも開けたんだが」
「……初めは『アリウム・ギガンチウム』がグスターヴォ・ファミリーの下部組織なのかと疑ったが……あらゆる洗い方からも足は出なかった。アンタはそのクランに入り浸っていて他のアジトらしき場所には出入りしていない」
「うるせーな、俺は出不精なんだよ。大体なんだ、グスターヴォ・ファミリーぃ? 確かに俺たちゃヤクザ崩れだがマフィアと同じにされるほど悪いことをした覚えはねえぞ」
「俺もそう思う。だが、彼はそう思ってない。分かるよな、俺にだって止められないんだ。素直に教えてくれアトミ。『銃』をどこで知った?」
瞬間、アトミはその頭脳を回転させあらゆる損得を勘定した。グスターヴォが開発したという銃。それは自身の魔術と似ているということから明らかに元の世界のそれと同じ産物だろう。同じくここへやって来たものがいる? それとも偶然か? こいつらはそれを掴んだようだが、グスターヴォとやらがそれを知ったらどうなるか?
複雑な思考の末、出した結論は至ってシンプルだった。
「さあな、寝てる時にでも俺の頭に神様がプレゼントしてくれたんじゃねえか?」
スッ惚けておけばいい。
「なんてこったッ……!!」
「言う気はないということか、冒険者」
「俺ぁ挨拶が出来ねえヤツは嫌いなんだよ。社会人なんでね」
「……まあ、いい。『言わせてください』と言えるまで拷問すればいいだけの話だ」
フォマーの纏う空気が更に鋭くなる。隣にいたカリルドが臨戦態勢を取ってしまうほどの鬼気。『死神』と呼ばれた元暗殺者が、本気になった。
フォマー・ヤコヴレフ
引退した元暗殺者。請けた依頼は必ず完遂することから『死神』と呼ばれた男。ある時を境に足を洗ったという噂が流れたが、今再びアトミの前に暗殺者として現れた。グスターヴォ・カルデアーノと因縁があるらしい。




