第10話:邂逅(1)
「ねーえ、アトミ。イキましょ? 依頼」
最近、アトミがクランホームである食堂で食事をしているとやたらと絡んでくる女がいる。キュルケという名のその娘は以前の怨念鎧討伐の際に彼を気に入ったらしく、こちらの意思もお構いなしとばかりに対面に座り話しかけてくる。
「近寄るな、鬱陶しい」
冒険者の仕事は多岐に渡る。冒険者という肩書きに何の保証もないことは先に述べた通りだが、その仕事の内容もまた、冒険者個人によって異なる。
大陸の東へと進み、人類未踏破地域や迷宮制覇に挑む者。街に腰を下ろし、害獣駆除や人足の必要な工事に参加する者。 戦わず薬の原料の採取や採掘に精を出す者。そして、恐喝や暴力を繰り返し、何の生産的行動をも行わない治安を乱す人間のクズ。
アトミもまた、冒険者の一人である。先日の遺跡騒ぎで懐は潤っているが、『何でも屋』としての冒険者の依頼をこなしていかなければ、生活は出来ない。
「つれないわねぇ、あの娼婦のコにはあんなにデレデレしてるのに」
「お前はなんか病気持ってそうで嫌だ」
「はあァーーーッ!!?!?? 娼婦と比べて!!? ちょっと失礼すぎない!?」
「どうせそのチチで取っ替え引っ替えしてんのよ。このビッチは」
アルビーナが己の僻みを込めて混ぜ返す。アトミからすればアルビーナを含めてそういう慎みをどこかへ置いてきた冒険者の女に総じて好感を持てないだけなのだが、面倒なので口には出さない。
キャットファイトを横目にアトミはため息を吐くと食堂を後にした。
*
「よう、ネミネ。元気にしてるか?」
「……アトミ、あんたまた来たの?」
娼婦のネミネは今日も街頭に立っている。アトミは見た目も悪くない彼女が危険も多いだろう立ちんぼなどをやっているのか、その理由を聞いたことはない。
彼女はまずアトミに心を開きはしなかったし、アトミもまた娼婦でありながら何人にも媚びない彼女を面白く思っていたからだ。
「で、値段は? そろそろ銀貨4枚くらいにはなったか?」
「5枚!」
ネミネは人を見て値段を変える。アトミが彼女と出会ったときも堂々と客に向かってその落ち度を説明し、銅貨1枚すらまけないと啖呵を切ってみせた。相手は刃物すら出していた。だが、それでも彼女は誇り高く、矜恃に殉ずる覚悟があった。
そんな女が娼婦をやっている。その姿がアトミの琴線にいたく触れてからは、こうしたやり取りは日常となっていた。
「そうかい、そりゃ残念だ。ほれ、5枚」
「あんた、それだけ羽振りがいいならそこそこの娼館だって通えるわよ。まあ、これは返せって言われても返さないけど」
「人形抱いたって面白くねえんだよ。その点お前は魅力的だからな」
「そんな口説き文句じゃトロールだって落ちないわよ。さ、行きましょ」
腰を抱いたアトミの手をするりと抜けると、ネミネは連れ込み宿の方へと先に足を進めるのだった。
*
いつもの宿への帰り道、すっかり暗くなった夜道を歩く。屋台で随分と呑んだが、アトミの超人的な体はアルコールをすぐに分解したらしく、さして酔っているということもない。
「暗ぇなあおい」
アトミの宿までは、裏路地が続く。ただでさえ夜は大した灯りのないこの世界で人気も少ないこんな細い道は、目を凝らして進まなければ到底歩けないほどである。
「んでよぉ、お前はどこの誰なんだよ。ここ暫くべったり張り付いてくれやがって、漸く『はじめまして』か?」
気が付けばそこには一人の青年が立っていた。浮かび上がるような白い肌、すらっとした細身の体躯。そしてそれらの印象を塗りつぶすような赤い瞳。
「気がついてたのか、中々鋭いな」
「毎日毎日朝から晩までくっ付いといて、鋭いもクソもねえだろ。で、何の用だよ。好きでもねえ酒たらふく飲んだ甲斐がある話を聞かせてもらいたいもんだ」
「そうか、奇遇だな。俺も一つ、アンタに訊きたいことがあったんだ」
「……気が合って何よりだ。友情の証に名前でも教えちゃくれないか?」
皮肉を口にしたアトミは腰を浅く落とす。その男はにっこりと笑ってこう言った。
「カリルド。俺の名前はカリルド・ケニーピート……アンタ、『銃』を知ってるな?」




