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皮肉と魔術のフラジール  作者: 宇後 筍
一章:アリウム・ギガンチウム
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第12話:邂逅(3)

感想頂きましてありがとうございました。

おかげさまでやる気ゲージがもりっと回復したので続きをどうぞ。


 夜闇を飛ぶ鴉を捕らえられるヒトがいるだろうか。風を切る音がする。艶消しされた真っ黒な刃が、中空から突如現れてアトミの首を狩ろうと弧を描く。


 スウェイで避けたアトミがその姿勢のまま右手の指揮棒をぴんと何処かへ伸ばした。


「『No.8:Bullet(虫喰い)』」


 現れた弾丸が空へ放たれて消える。一見して何の意味もないこの行動。しかし今ここにいる三者にとってはそうではない。


 くぐもった舌打ちが一つ聞こえた。ずるりと液体でも溢れたかのように闇の中からフォマーが現れる。その場所は今しがた弾丸の放たれたすぐ傍からだ。


「やるな……アトミ、割って入ろうかとも思ったけど、必要ないみたいだ。大したもんだよ」


 赤い瞳のカリルドが感心したように呟いた。彼にもこの応酬の全てが見えているらしい。先ほどまでの切迫した雰囲気は失せ、どこか物見遊山染みた様子を見せている。アトミの様子から簡単にフォマーに殺されるような手合いでないと踏んだようだ。


「お褒めに預かり光栄だね。これで深夜の逢引の相手が黒ずくめの陰気な野郎でなきゃあ満点だったんだがな」


 手首を揺らしぷらぷらと指揮棒を振るその姿にはまるで警戒心が見られない。だが、その実眼は鋭くフォマーを捕らえ続け、見逃すまいとしている。不用意な一撃があれば、カウンターを決める心算だろう。どの道先手を取るのは不可能と踏んで待ちの姿勢を取っている。


「その魔術は……それは『銃』だ。間違いなく、そうだ」


 だが。だが、フォマー・ヤコヴレフ。死神がいつまでもこそこそと盗人のように振る舞うものか。彼が姿を消し、夜闇に同化して襲いかかるのは偏にそれが『手軽だから』でしかないのだ。


 アトミの魔術を見た瞬間から、その隠形は解かれている。否、逆に目を引くほどの殺意を放ち続けている。


「お前たちは罪だ。この世にのさばっていることが、いいや、いかように死ぬことすら罪深い。誰にも許されないし、お前たちに許しを与えようとする者も許さない」


「おいおい……重い男は女にモテねえぞ」


「苦しめるために幸福を与えよう。取り上げ、壊し、そしてまた与えよう。殺してやる……そうしてお前を殺してやるぞグスターヴォ……!!!」


「おいにーちゃん、こいつなんかクスリでもやってんのか?」


「言いにくいことだけど至って健康なんだ、アトミ」



 一歩、一歩とゆっくりとフォマーが歩く。いかなる仕組みか、フォマーの体がどろりと溶けたかのように少しずつ中空へ消えていく。まるで、煙のように。そうしたかと思えば逆に闇を取り込むようにその身に変える。書き表わせばなんと滑稽なことだろう。彼は空とその身が循環している。


 空へと溶けた体が次第に膨張し、その形を朧気な煙から針のような鋭い形へと変じていく。


「健康? 俺にはちっとばかり問題があるように見えるがなあ。皮膚病とかじゃねえか?」


 次の瞬間、針が殺到した。甲高い音を立てて地面へ真っ黒な槍とも言えるサイズの影が突き刺さる。それはまるで機関銃の掃射のような連続性とある種の病的な執念を感じさせる。


「『No.3:Enelgy(寄る) field』」


 だが、アトミにとって魔術とそのような特異体質に何の違いがあろうか。この世界の住人であれば恐れたかもしれないが、全てがファンタジーに見える上に精神障壁まであるアトミがその異形に竦むことなどない。


 ならば、これもまた想定できた攻撃の一つでしかない。全方位からの物量攻撃。それに対して講じた策は一つ。全方位への防御展開。つまり、バリアー。


「なあ、フォマー。フォマー・ヤコヴレフ」


 全くの無傷でアトミが立ち上がる。事態は膠着を迎えていた。補足出来ないアトミ、攻撃の通用しないフォマー。一種の千日手となってから10分以上が経っている。アトミが選んだのは対話であった。


「お前は俺を殺すと言ったな。なら、俺はお前を殺すつもりでいるべきじゃないか? それが正しい在り方だ。違うか?」


「彼は口下手なものでね。何か聞きたいなら俺が代わりに——」


「黙ってろ。なら、こうだ。その体のモヤで大事に囲ってるんだ。どうでもいい一市民ってこたぁ、ねえんだろ?」


 アトミの魔術が三十の弾丸を生み出す。奇しくもそれは先ほどの光景の立場を逆にしたようだった。だが、構えている方向が違う。フォマーの方ではなく、小さな木立へと向けられている。


 そこには何も存在していない。そう見えていた。だが、小さく呻く女性の声がする。


「大したお嬢さんだ。ずっと俺のこと狙ってるんだからよ」


 闇が雲散するように消えたその時、そこにいたのはエルサ・ヤコヴレフ——他ならぬフォマーの娘だった。


「ごめん、父さん……」


「分かった。魔術を解けアトミ」


「はァ? 解いて『ください』だろお父さん? 七面倒なストーキングでイライラしてんだよこっちは」


「悪かった。お前を狙うのはやめる……だから、解いてください……」


「……ったく、そんなに娘が大事ならきちんに箱に入れとけっての」


アトミは興が削がれたような、憑き物が落ちたような顔で溜め息を吐くと、カリルドへと向き一つ言い残して去っていく。


「いいか、俺はマジでグスなんたらとかいう奴は知らねえ。お前らがそいつをどうしようが自由だが、俺に迷惑かけんじゃねえ。分かったな?」


「ああ、悪かったよ。魔術師殿」


「じゃあな、『ウサギ目』殿」




「ちょっと皆聴きなさい!!!」


 しばらく経ったある日。クランハウスへアルビーナがいつものように大きな声で騒ぎながら入ってくる。すわまた厄介事か、とメンバーが思わず静かになったところへ、彼女は後から入ってきた三人を指差す。


「新人を連れてきたわよ!! ちょっと歳いってるのもいるけど、内包オド量はばっちり!!」


「俺はカリルド・ケニーピート。英雄になる男だ! よろしくな!!」


「エルサ・ヤコヴレフです!! よろしくお願いします!」


「フォマーだ。娘に手を出したら許さん」




「何でだよ!!!!!!!!!」


 こうして、アリウム・ギガンチウムは図らずも戦力の確保に成功するのであった。

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