(五)どの精霊なんでしょう
◆ どの精霊なんでしょう
エナは、本の中の四つの精霊を見ていた。
火。
水。
風。
土。
どれも小さく、不器用で、足りない。
でも、役割はある。
エナはぽつりと言った。
「私は、どの精霊なんでしょう」
ロアンは真面目に考えた。
「癒やすから、水?」
ミルカも考える。
「危ないところを感じるなら、風っぽくもある」
エナは目を丸くした。
「二つも?」
ロアンが首をかしげる。
「別に、一つに決めなくていいんじゃないですか」
エナは驚いたようにロアンを見る。
「いいんですか?」
「この話だと、一人で全部できないから補うんですよね。だったら、一人の中に少しずつ混ざっててもいい気がします」
ミルカが言う。
「ロアンにしては珍しくまとも」
「今日はそれ多くない?」
「まともなことを言う頻度が珍しいから」
「褒められてるのに傷が増える」
エナは笑った。
けれど、胸の奥に小さなものが残った。
自分の力を、無理に一つの名前に収めなくてもいい。
癒やし。
予感。
神官。
見習い。
娘。
どれか一つだけでなくてもいい。
混ざっているなら、混ざったまま考えてもいいのかもしれない。
ミルカは、エナの表情を見ていた。
「エナ」
「はい」
「どの精霊か決めるより、倒れない使い方を考えた方がいいと思う」
エナは少しだけ肩を落とす。
「そこに戻りますか」
「戻る」
「ミルカさんは、戻るのが上手ですね」
「戻る条件を決めてるから」
ロアンが言う。
「俺も最近は得意になってきた」
ミルカが即座に返す。
「自己申告は減点」
「また減った」
エナが言った。
「でも、戻れる人は強いと思います」
ロアンとミルカが同時にエナを見る。
エナは少し恥ずかしそうに続けた。
「癒やしを使うと、戻れなくなる時があります。力を使う前の自分に戻るのに、時間がかかるというか」
ミルカの表情が真剣になる。
「だから、倒れる前に言って」
「はい」
「本当に」
「はい」
「短めに倒れるのは禁止」
エナは少し笑った。
「それ、昨日も言われました」
「昨日言ったから今日も言う」
「毎日ですか?」
「必要なら」
ロアンが言う。
「ミルカの毎日は強いよ」
「ロアンも靴紐毎日確認」
「はい」
エナは二人を見て、また笑った。
自分の力をどうすればいいのか、まだ分からない。
だが、一人で考えなくてもいいのかもしれない。
それだけは、少し分かった気がした。
祈りの間の入口で、エナの父が三人の会話を聞いていた。
彼は、ロアンたちが古い子ども向けの物語を軽んじていないことに気づいた。
中央の神官なら、精霊像を片づけろと言うかもしれない。
子ども向けの本など、教義の中心ではないと言うかもしれない。
しかし、ロアンたちはその話を、自分たちの経験に重ねている。
エナも、楽しそうに話している。
神官は静かに思った。
この子は、ここだけに置いておくべきなのだろうか。
この神殿はエナを守ってきた。
だが、守ることと閉じ込めることは、同じではない。
まだ結論ではない。
ただ、迷いが少しだけ深くなった。
※第21話「小さな精霊たちの話」は全七回です。
続きます。
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