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勇者の条件  作者: KEI
第21話 小さな精霊たちの話

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(四)泥だらけの精霊

◆ 洞窟の時も


ロアンは本を閉じかけて、また開いた。


国境洞窟のことを思い出した。


自分たちは魔物を討ち倒した英雄ではない。


書状を運んだだけ。


けれど、両村の自警団が同じ時刻に動けた。


洞窟は開いた。


ロアンは言った。


「洞窟の時も、そうだったのかも」


ミルカはすぐには答えなかった。


少し考えてから、うなずく。


「私たちだけでは洞窟を開けられなかった」


「でも、自警団だけでも時刻を合わせられなかった」


「反対側の村も、こちら側の村も、どちらかだけでは無理だった」


エナは二人を見た。


「それで、開いたんですか?」


ロアンはうなずく。


「たぶん。みんなが少しずつやったから」


ミルカが補足する。


「ロアンは、少しずつを雑にまとめるのが得意かもしれない」


ロアンが顔を上げる。


「褒めてる?」


「半分」


「もう半分は?」


「雑」


「予想通りだった」


エナは小さく笑った。


「でも、少しずつを集めるのは、大事だと思います」


ロアンは本の絵を見る。


「俺は、火みたいに強く燃やせないし、水みたいに癒やせないし、風みたいに遠くへ飛べるわけでもないし、土みたいに支えられるわけでもないけど」


ミルカが言う。


「比べ方が少し変」


「そう?」


「火と水と風と土に並ぼうとしてる」


「そういうつもりじゃ」


「でも、続けて」


ロアンは少し照れくさそうに頬をかいた。


「洞窟の時、俺たちがやったのは、書状を運んだだけだった」


エナは静かに聞いていた。


「でも、それがなかったら、両側から入れなかったんですよね」


「はい。たぶん」


ミルカが言う。


「たぶんじゃなくて、そこはそう」


ロアンは少し驚いてミルカを見た。


「言い切るんだ」


「書状を運んだのは事実だから」


「でも、洞窟を開けたのは自警団だろ」


「それも事実」


エナが本の絵を見ながら言う。


「どちらも、必要だったんですね」


ロアンは少し黙った。


それから、うなずいた。


「そうか。どっちかだけじゃ、だめだったんだ」


ミルカが言う。


「少しずつ、役割が違った」


「俺たちは、間に合うように走った」


「自警団は、洞窟に入った」


「村長たちは、書状を書いた」


「老人は、薬草道を教えた」


エナが微笑む。


「精霊たちみたいですね」


ロアンは少し照れたように笑った。


「俺たち、かなり泥だらけの精霊だったけど」


ミルカが即座に言う。


「精霊に失礼」


「そこまで?」


エナは真面目に考えた。


「泥の精霊なら、少し近いかもしれません」


ロアンはミルカを見る。


「ほら、近いって」


「喜ぶところ?」


「泥が役に立つこともある」


「あるけど、今はたぶん違う」


エナは楽しそうに笑った。


会話は軽かった。


けれど、ロアンの中に残ったものは、軽くなかった。


自分だけで足りないなら、誰かの力がいる。


誰かだけで足りないなら、自分が少しだけ間に入れることもある。


そのくらいのことなら、できるかもしれない。


そう思った。



※第21話「小さな精霊たちの話」は全七回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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