(三)一人で全部やらなくていい
◆ 少しずつ補う
ロアンはページをめくった。
小さな精霊たちは、それぞれ失敗して落ち込みました。
火の精霊は、燃やしてしまった灰の上に座りました。
水の精霊は、流してしまった種を探しました。
風の精霊は、種を飛ばしすぎた空を見上げました。
土の精霊は、硬くなった山の中で黙りました。
四人は言いました。
「自分には、世界を作れない」
ロアンは本を見ながら、小さく言った。
「まあ、そう思うよな」
エナが頷く。
「ここで子どもがよく悲しみます」
「悲しむんですか」
「はい。火の精霊が泣いている絵があるので」
ロアンは絵を見た。
確かに、火の精霊が小さくしょんぼりしている。
「火なのに涙が出るんだ」
ミルカが言う。
「絵本だから」
「便利だな、絵本」
エナが微笑む。
「涙で少し火が弱くなるのかもしれません」
「それはそれで理屈がある」
ミルカが感心したように言う。
「この神殿、たまに説明が柔らかくて強い」
「褒めてますか?」
「はい」
エナは嬉しそうに笑った。
ロアンは続きを読んだ。
火の精霊が、土の精霊の冷たい地面を少しだけ温めました。
すると、凍った土はやわらかくなりました。
水の精霊が、そこへ少しだけ雨を降らせました。
すると、土は潤い、小さな芽が顔を出しました。
風の精霊が、遠くから種を少しだけ運びました。
すると、芽の隣に新しい芽が増えました。
土の精霊が、芽の根を少しだけ支えました。
すると、芽は倒れず、空へ向かって伸びました。
ロアンは読む声を少し落とした。
火は、燃やすだけではありませんでした。
水は、流すだけではありませんでした。
風は、散らすだけではありませんでした。
土は、止めるだけではありませんでした。
小さな精霊たちは、自分の力を少しずつ分け合いました。
すると、世界は少しずつ形になっていきました。
ロアンは本を見つめた。
「一人で全部やらなくていいんだな」
ミルカが言う。
「子ども向けの話だよ」
ロアンはうなずく。
「でも、子ども向けだから分かりやすい」
エナが言った。
「父もそう言っていました。難しいことは、簡単な話にした方が残るって」
ミルカは少し頷いた。
「それは分かる」
ロアンがミルカを見る。
「難しい話を簡単にするの、得意?」
「得意ではない」
「じゃあ、難しいまま?」
「相手による」
「俺には?」
「かなり簡単にしてる」
「そこまで?」
エナが尋ねる。
「どのくらい簡単に?」
ミルカは真顔で言う。
「靴紐くらいから」
ロアンは目を閉じた。
「俺の理解、靴紐から始まるのか」
「大事でしょ、靴紐」
エナも頷く。
「靴紐は大事です」
「また二対一」
ロアンはため息をつきながらも、笑ってしまった。
それから、本の絵に視線を戻す。
小さな芽を、四つの精霊が囲んでいる。
どの精霊も、世界を一人では作れなかった。
でも、少しずつならできた。
少しずつ分けると、失敗した力が、役に立つ力に変わっている。
それが、妙に胸に残った。
※第21話「小さな精霊たちの話」は全七回です。
続きます。
作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。
※ネタバレ範囲にご注意ください。
https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/




