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勇者の条件  作者: KEI
第3話 東を封じる

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(二)道が死ぬ

◆ 東の辺境


東の辺境の村。


朝。


いつもなら、村人は畑へ向かい、子どもたちは森の浅い場所で木の実を拾い、商人の荷車が村の広場へ入ってくる。


だが、その日は違った。


道の先に、魔物がいた。


丘の上に、巨大な影が立っている。


竜ではない。


だが、普通の村人が近づけば、その一撃で体を裂かれるほどの魔物だった。


村長は、道の向こうを見つめていた。


隣には、荷物を背負った若い男がいる。


神殿へ使いに出るつもりだった。


村長が言う。


「行くな」


若い男は悔しそうに答える。


「でも、聖都に知らせなきゃ。あれは普通の魔物じゃない」


「分かっている。だから行くな」


「知らせなきゃ、誰も助けに来ない」


村長は答えられなかった。


その時、村の外れで鐘が鳴った。


森の方にも魔物が出たという合図だった。


木の実を拾いに行った子どもたちが、泣きながら戻ってくる。


小さな神殿の神官は、祠の前で祈っていた。


祈りの言葉はいつもと同じだった。


だが、聖都へ向かう道は塞がれている。


村は焼かれていない。


家もある。


畑もある。


井戸もある。


けれど、道だけが消えていた。


◆ 勇者の一族


夜。


村の古い家に、人々が集まっていた。


勇者の一族と呼ばれる家系の者たちである。


年老いた女。


若い母親。


十代半ばの少年。


古い剣。


聖都へ送るはずだった書簡。


年老いた女が言う。


「東の道は見られている。南もだめだ。西の商人道なら、まだ小鬼の検問だけだと聞いた」


若い母親が少年を見る。


少年は震えていた。


彼は勇者候補かもしれない。


少なくとも、この家ではそう育てられてきた。


剣を教えられ、薬草を覚え、逃げ道を覚え、古い勇者譚を聞かされてきた。


母親が言う。


「行きなさい」


少年は首を振った。


「母さんは」


「私は行けない。あなたが行くの」


その時、外で犬が吠えた。


続いて、低い唸り声。


魔物ではない。


人影のようなものが、窓の外を一瞬だけ過ぎる。


吸血侯の配下が、村を見ていた。


年老いた女は、古い剣を布で包む。


「急ぎなさい」


少年はうなずき、書簡を懐に入れた。


裏口から出る。


月明かりは薄い。


地面は湿っている。


家の影を抜け、納屋の裏を通り、柵の切れ目へ向かう。


そこに、小鬼の検問があった。


小鬼隊長が、槍を構えて立っている。


後ろには、狼型魔獣が二匹。


小鬼隊長は少年を見て、少しだけ困った顔をした。


「通れません」


少年は剣に手をかける。


小鬼隊長は首を振る。


「抜かない方がいいです。あなたが死にます」


少年の手が止まる。


彼の背後で、狼型魔獣が低く唸った。


少年は動けなかった。


その夜、勇者候補は村を出られなかった。


◆ 報告


魔王城、報告の間。


死霊宰相が報告を読む。


「東辺境、第三村。勇者血族と思われる少年の脱出を阻止。聖都への書簡一通、古剣一振りを押収」


竜将が笑う。


「やはり焼けば早かったのでは」


現魔王は、押収された書簡を受け取った。


書簡には、聖都へ助けを求める言葉が記されている。


少年の名。


一族の名。


古い剣の由来。


聖都にいる親族の名前。


魔王は書簡を閉じた。


「焼いていれば、この情報は得られなかった」


竜将は黙る。


魔王は死霊宰相へ言う。


「聖都にいる親族を調べろ。古剣は破壊せず保管。由来を洗え。少年は殺すな。村の中に戻せ」


記録官が顔を上げた。


「戻すのですか」


「村の外へ出られぬ勇者候補は、ただの村人だ」


吸血侯が静かに笑う。


「心は折れますね」


「折る必要はない」


魔王は言った。


「育たなければよい」


記録官が筆を走らせる。


勇者血族候補、殺害不可。


村内監視継続。


古剣、由来調査。


聖都親族、追跡。


竜将が腕を組む。


「陛下は、ずいぶん気長ですな」


「逆だ」


魔王は書簡を卓上に置いた。


「育つ前に止めるのが、最も早い」


◆ 道が死ぬ


東の辺境では、短い出来事が積み重なっていった。


神殿へ向かう巡礼者が、峠の手前で引き返した。


商人は荷車を止め、東の辺境を避けるようになった。


勇者の一族の子どもは、村から出られなかった。


古い道場は、弟子を外の試合へ送り出せなかった。


小さな神殿の写本は、聖都に届かなかった。


村の若者が魔物を倒しに行こうとして、丘の上の巨体を見て戻ってきた。


誰も、村ごと焼かれてはいない。


誰も、広場で見せしめに処刑されてはいない。


畑には麦が育った。


井戸には水が残った。


夜になれば、家々には灯りがともった。


だが、道が死んだ。


道が死ぬと、人は外へ出られない。


外へ出られなければ、師に会えない。


聖都へ行けない。


他流試合へ行けない。


神託を受けに行けない。


自分より強い相手を知らない。


東の辺境は、残された。


ただし、閉じ込められた。


現魔王の対勇者戦略は、確かに機能していた。



※第3話「東を封じる」は全四回です。

続きます。


作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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