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勇者の条件  作者: KEI
第3話 東を封じる

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(三)西方報告

◆ 強戦力の移動


魔王城の兵站室。


死霊宰相が、魔物配置の一覧を確認している。


強い魔物は有限である。


竜種。


巨人。


上級死霊。


深い森に適応した魔獣。


火山に棲む高位魔物。


それらは簡単には増えない。


また、魔物を大量に動かすことも簡単ではない。


魔族用の転移ゲートは、魔族が使うためのものだった。

魔物の群れをそのまま運ぶための道ではない。


強い魔物を移すには、時間をかけて現地へ動かすしかなかった。


死霊宰相が言う。


「東へ回すには、いくつかの地域から強個体を引き上げる必要があります」


現魔王は一覧を見る。


「王国周辺は削るな。聖都周辺もだ。魔王城への北側防衛線も維持する」


「では、西の国境地帯を薄くします」


竜将が地図を見る。


「西は国境分断だけなら、小鬼と低級魔獣で足りるでしょう」


吸血侯が補足する。


「西は勇者の記録も少ない。軍事的には監視が必要ですが、対勇者戦略上の優先度は低い」


現魔王はうなずいた。


「西は捨てるな。だが厚くする必要はない」


死霊宰相が記録する。


西国境、分断維持。


強戦力、東へ再配置。


魔王はさらに言った。


「監視は維持せよ。異常は拾う。優先順位は変えられる。監視しているからだ」


死霊宰相がうなずく。


「西方国境、監視継続。異常報告時、優先度再評価」


記録官がそのまま書き加えた。


◆ 西方報告


東封鎖の報告が続く中、小鬼隊長が西に関する報告を持ってきた。


彼は東の封鎖にも関わっていたが、もともとは下級魔物の配置や検問を扱う現場役である。

強い魔物の配置よりも、村道や洞窟、低級魔物の増減に詳しかった。


小鬼隊長が報告する。


「西の国境沿いですが、封鎖は維持されています。洞窟道の魔物も増え、交易路はほぼ止まっています」


死霊宰相が帳簿を見る。


「国境分断としては機能している、ということだな」


「はい。ただ、周辺村の困窮は進んでいます。交易が止まれば、塩、鉄、薬、麦の流れが悪くなります。村人たちの不満も増えるかと」


竜将が興味なさそうに言う。


「国境を分断するための封鎖だ。困窮するのは当然だろう」


小鬼隊長は少し迷い、それでも続けた。


「加えて、小型魔物が一時的に大規模増殖しています。スライム、小鬼、低級魔獣。強い個体ではありませんが、数は増えています」


死霊宰相が確認する。


「原因は」


「西側から上位種を東へ移動したためと思われます。これまで低級魔物を捕食、または縄張りから追い出していた強個体が減り、低級魔物の増殖を抑えるものが薄くなっています」


竜将が鼻を鳴らした。


「弱い魔物が増えたところで、大した脅威ではない」


小鬼隊長は慎重に答える。


「人間にとっては十分脅威です。畑に入り、家畜を襲い、子どもや老人を傷つけます。ただし、村の自警団、猟師、若い冒険者らしき者が、すでに間引きを始めています」


死霊宰相が帳簿に目を落とす。


「つまり、一時的な増殖はいずれ人間側の討伐で安定する、と」


「その見込みです。被害は出ていますが、村が潰れるほどではありません。むしろ、人間側は低級魔物の討伐に人手を割かれ、国境洞窟への対応が遅れる可能性があります」


吸血侯が薄く笑った。


「封鎖に加えて、村々の手も塞がる。うれしい誤算、というところですか」


現魔王はすぐには答えなかった。


「強個体の発生、あるいは高位魔族の介入は」


「確認されていません」


「神殿、王国軍、勇者血族の動きは」


「確認されていません」


魔王は少し考える。


「うれしい誤算ではある。だが、誤算は誤算だ」


竜将が魔王を見る。


「警戒なさいますか」


「引き続き監視する。低級魔物の増殖がどの程度で安定するか。人間側の間引きが追いつくか。村が潰れるか、持ちこたえるか。すべて記録に残せ」


死霊宰相がうなずく。


「西の優先度は」


「対勇者戦略上の優先度は低い。封鎖を維持し、強戦力は東へ回す。ただし、監視は切るな」


小鬼隊長はうなずいた。


「はい」


西は無視されていなかった。


危険も把握されていた。


封鎖は維持されている。


異常も拾えている。


記録上、西方国境の管理は機能していた。


◆ 西の辺境


西の辺境の小さな村。


夕方。


村の広場では、大人たちが荷車の前で話し込んでいた。


荷車は空に近い。


本来なら隣国から届くはずの塩と鉄が、今月は来ていない。


男が苛立った声で言う。


「東がやばいって噂は聞いてる。勇者の一族だか何だか知らねぇが、魔物が集まってるんだろ」


別の男が、国境の山を見ながら答える。


「けど、こっちも十分やばいぞ。国境の洞窟が魔物に封鎖されたらしい」


「交易ができないんじゃ飯も食えねぇ。塩も鉄も薬も入ってこない」


「魔物も増えてる。小型とはいえ、放っておけば畑に入る。家畜も襲う」


少し離れた場所で、子どもが木の棒を握っていた。


村の外れの草地には、スライムが一匹いる。


近くには大人が立っていた。


その大人は笑っていない。


真面目な顔で言う。


「無理だと思ったら逃げろ。門までは近い。転んでもいい。棒を落としてもいい。生きて戻れ」


子どもはうなずいた。


スライムが跳ねる。


子どもは棒を振る。


当たらない。


スライムが近づく。


子どもは慌てて逃げ、村の門へ転がり込んだ。


大人は息を吐く。


「よし。戻れたなら上出来だ。明日また行け」


子どもは泥だらけのまま、何度もうなずいた。


東では、外へ出る道が死んでいる。


西では、道は細り、交易は止まり、魔物も増えている。


それでも、まだ門まで逃げ帰れる距離に、弱い魔物がいた。



※第3話「東を封じる」は全四回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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