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勇者の条件  作者: KEI
第18話 塞がれた洞窟

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(四)できる形にする

◆ できる形にする


村長の家の机に、紙が置かれた。


ミルカが筆を持つ。


ロアンが横から覗き込む。


「何書くの」


「目的」


「目的は、知らせに行く」


「それをちゃんと書くの」


ミルカは紙に書き出した。


目的。


反対側の村へ、洞窟挟撃の提案を伝えること。


必要なもの。


村長の書状。


地図。


水。


軽い食料。


薬草。


縄。


合図用の布。


火打ち石。


持たないもの。


重い荷。


余分な鍋。


不要な道具。


ミルカはそこまで書いて、筆を止めずに言った。


「鍬は書くまでもなく持たない」


ロアンは口を開きかけたまま止まった。


「まだ何も言ってない」


「言いそうだったから」


「俺の荷物への信頼が低い」


「鍬への信頼が高すぎる」


「穴を掘る時にいるかもしれないだろ」


「山腹の薬草道で?」


「……山腹に穴が必要な時とか」


「それはたぶん、穴に落ちた時」


「落ちたあとに鍬があれば」


「落ちる前に荷を軽くして」


ロアンは少し考えた。


「じゃあ、鍬はなしで」


「書くまでもなかったでしょ」


「今、書くくらい話したけど」


「記録に残すほどではない」


避けるもの。


戦闘。


沢の増水。


日没後の崖道。


戻る条件。


雨。


沢の増水。


怪我。


日没までに第一目印へ到達できない場合。


小鬼が三匹以上まとまっていて、避けられない場合。


ミルカが筆を止める。


「他にある?」


ロアンは考えた。


「ミルカがだめって言ったら戻る」


ミルカは少し驚いて顔を上げた。


「それ、条件に入れるの?」


「入れる」


「理由は?」


「俺が見てないものを、ミルカが見てる時があるから」


ミルカは少し黙った。


「逆もあるよ」


「じゃあ、俺がだめって言っても戻る」


「ロアンが?」


「今、少し疑っただろ」


「少しじゃない」


「正直だな」


「でも、いいと思う。どちらかが止める理由を見つけたら、確認する」


「確認して、だめなら戻る」


「そう」


ミルカは紙に書き足した。


同行者の判断により確認。危険が解消できなければ撤退。


ロアンは覗き込む。


「俺の意見も入った」


「一応」


「一応」


「雑な同行者の意見も、聞くだけは聞く」


「採用は?」


「内容による」


「公平だな」


ミルカはさらに書いた。


連絡内容。


夜明けに両側から洞窟へ入ること。


合図の方法。


準備が整わない場合は無理に突入しないこと。


失敗時。


戻って報告。


別案を立てる。


ロアンは紙を見て、少し息を吐いた。


「こうして書くと、旅ってほとんど準備だね」


「そうだよ。やっと分かった?」


「少し」


「少しでいい。少しずつ増やして」


「準備も旅か」


「準備しない旅は、だいたい誰かに迷惑をかける」


ロアンは荷馬車や濡れた薬草を思い出した。


「それは、知ってる」


村長は二人の紙を見た。


「ただの若い旅人に頼むには、重いな」


ロアンは答える。


「頼まれたから行く、だけじゃだめだと思います」


村長が問う。


「ではなぜ行く」


ロアンは少し考えた。


「道が塞がってるからです。洞窟も、村と村の間も」


集会所が静かになる。


ロアンは続けた。


「俺たちは、まだ戦って勝てるほど強くない。でも、知らせに行くくらいなら、できるかもしれない」


ミルカが補足する。


「できるかもしれないことを、できる形にしてから行きます」


村長は、長く二人を見た。


最初に見た時より、その目に少しだけ信用が増えていた。


◆ 小さな火


出発の準備をしている最中、洞窟の方から叫び声が上がった。


「出たぞ!」


ロアンとミルカは顔を見合わせ、すぐに外へ出る。


洞窟の入口から、スライムが二匹と小鬼が一匹、這い出してきていた。


村人が槍を持って集まる。


荷馬車の馬が怯えていななく。


子どもたちが家の中へ走る。


ロアンは剣を抜いた。


ただし、前へ飛び込まない。


「水場から離す!」


彼はスライムの動きを見た。


湿った地面の方へ行こうとしている。


そこに行かせると、動きが速くなる。


ロアンは石を投げ、乾いた土の方へ誘導した。


スライムが反応して向きを変える。


一匹は村人の棒で叩かれ、崩れた。


もう一匹は跳ねようとして縮む。


ロアンは下がる。


跳ねた先を見て、横から棒で弾いた。


「そっち、槍!」


村人が槍で突く。


スライムは土の上で崩れた。


小鬼が石を投げる。


ロアンは避け、剣を構える。


だが、自分から斬りに行かない。


小鬼を村人たちの槍の方へ追い込む。


「こっちじゃない。そっちへ」


「魔物に言って通じるの?」


ミルカが後ろから言った。


「通じなくても、動けばいい」


「なるほど。会話じゃなくて誘導」


ミルカは杖を構えた。


小さな火が、彼女の指先に灯る。


大きな炎ではない。


ろうそくより少し大きい程度。


それを、彼女は小鬼の足元の一点へ飛ばした。


火は草を燃やさず、小鬼の足元の土だけを弾くように焦がした。


小鬼が驚いて跳ねる。


その瞬間、村人の槍が届いた。


小鬼は倒れた。


村人の一人が驚いた顔で言う。


「今の、小さい火なのに」


ミルカは少し困ったように答えた。


「大きくすると洞窟内では危ないので」


ロアンは剣を下ろした。


「ミルカの魔法、やっぱり便利だよね」


ミルカは小さく肩を落とす。


「便利止まりなのが悲しいけど」


「便利って、かなり強い褒め言葉じゃない?」


「町の魔術師はもっとすごいと思う」


「町の魔術師は宿代を安くできる?」


「それは紹介状の仕事」


「じゃあ、手紙も魔法も便利」


「雑に並べないで」


自警団長は、ミルカの小さな火の跡を見ていた。


派手ではない。


だが、狙いが正確だった。


「大きくしない火、か」


ミルカは頷く。


「洞窟で大きい火は危ないと思います」


自警団長は、しばらく考えてから言った。


「向こう側と時刻を合わせられれば、その火は役に立つかもしれん」


ミルカは少しだけ目を見開いた。


自分では、ただ小さく使っただけだった。


けれど、場所によっては、それが必要になる。


師匠の言葉が、少しだけ形を持った気がした。



※第18話「塞がれた洞窟」は全五回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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