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勇者の条件  作者: KEI
第18話 塞がれた洞窟

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(三)入口だけなら、でしょ

◆ 洞窟の口


ロアンとミルカは、洞窟の入口を見に行った。


自警団長と数人の村人も同行する。


山肌に開いた洞窟は、思っていたより大きかった。


荷馬車が一台通れるほどの幅がある。


だが、奥はすぐ暗くなり、湿った空気が外まで流れていた。


入口の土には、爪痕がある。


壁には黒ずんだ跡。


折れた槍の柄。


乾いた血。


スライムの粘液。


奥から、小鬼の鳴き声が反響して聞こえた。


声が重なり、数が分からない。


少し先の岩陰に、緑色のスライムが見える。


湿った壁に張りつき、ゆっくり動いている。


あれなら、倒せる。


外なら。


明るければ。


逃げ道があれば。


足元が乾いていれば。


ロアンは剣の柄に手を置き、半歩だけ前へ出た。


ミルカが横から言う。


「入口だけなら、でしょ」


ロアンは足を止めた。


「まだ言ってない」


「言いそうだったから」


「俺の台詞を先に使うの、やめない?」


「使わなくても分かる台詞は、節約できる」


「節約するところ、そこ?」


「洞窟では声も響くから」


ロアンは洞窟の奥を見た。


奥から、小鬼の鳴き声が反響する。


入口のスライム一匹なら、何とかなるかもしれない。


けれど、それは入口だけの話だった。


ロアンは小さく息を吐いた。


「正面からはだめか」


ミルカは頷く。


「少なくとも、片側だけではだめ」


「火で焼くのは?」


「煙」


「風で煙を外へ」


「奥の埃と臭気も動く。魔物も気づく。私の魔力もたぶん足りない」


「たぶん?」


「絶対足りるって言う方が怖い」


「それはそう」


自警団長が二人を見ていた。


「若いのに、突っ込むだけじゃないんだな」


ロアンは少し照れた。


「前に突っ込んで失敗したことがあるので」


ミルカが言う。


「前だけじゃないけど」


「そこ、広げなくていい」


「横にも後ろにも転んだ」


「洞窟前で俺の転倒記録を出すな」


自警団長は今度こそ少し笑った。


「転んで覚えたなら、ましだ」


ロアンは洞窟の暗がりを見た。


魔物を倒したい。


そう思わないわけではない。


しかし、剣を抜いて飛び込む場所ではない。


いま必要なのは、入口のスライムを一匹倒すことではなかった。


反対側と同じ時刻に動けるようにすることだった。


◆ 両側からなら


集会所に戻ると、地図がさらに広げられた。


古い地図も出てきた。


山腹の線は薄く、ところどころ消えている。


老人が呼ばれた。


背は曲がっているが、目はまだ鋭い。


昔、薬草採りで山へ入っていたという。


老人は地図を見て、指先で山の横腹をなぞった。


「昔は、山腹を回る薬草道があった」


村人が驚く。


「今も通れるのか」


老人は首を振る。


「荷馬車は無理だ。馬も無理。大人が槍を持って並んで歩くのも無理だろう」


ミルカが身を乗り出す。


「人が一人か二人なら?」


老人は、ミルカとロアンを順に見た。


「身軽なら、行けるかもしれん」


ロアンは思わず地図に近づく。


ミルカが袖を引いた。


「まだ喜ばない」


「喜んでない」


「顔が行きますって言った」


「顔は口ほどに物を言うな」


「ロアンの顔は口より早い」


老人は話を続ける。


「ただし、途中に沢がある。崖もある。小鬼の縄張りも近い。雨なら戻れ。沢が増えたら渡るな。崖で風が強ければ進むな。夜に歩く道ではない」


ロアンはゆっくり頷いた。


猟師のおじさんの言葉が浮かぶ。


進む理由を考える時は、戻る理由も考えなさい。


ロアンは言った。


「引き返す場所を決めれば、行けるかもしれない」


ミルカはすぐに言う。


「行けるかもしれない、だけでは行かない」


「分かってる」


「本当に?」


「本当に」


「じゃあ、何を決める?」


ロアンは指を折った。


「どこまで行けなかったら戻るか。雨なら戻る。沢が増えてたら戻る。小鬼が多すぎたら戻る。どっちかが怪我したら戻る」


ミルカは少しだけ驚いた顔をした。


「ちゃんと戻る話から入った」


「俺だって成長する」


「今日だけかもしれない」


「信用が細い」


「でも、いいと思う」


ロアンは少し笑った。


村長は二人を見た。


「本気で行くつもりか」


ロアンは即答しなかった。


ミルカも答えない。


二人は地図を見た。


洞窟。


山腹の薬草道。


沢。


崖。


小鬼の縄張り。


反対側の村。


そして、戻る道。


ロアンは言った。


「行けるかどうかを、まず見に行きます」


村長が眉をひそめる。


「反対側まで行くのではなく?」


「行けると思えば行きます。でも、戻る理由が出たら戻ります」


ミルカがうなずく。


「戻れれば、次の案が立てられます」


老人は、少し感心したように二人を見た。


「若いのに、戻る話をするのか」


ロアンは苦笑した。


「戻らないと怒られるので」


ミルカが言う。


「怒られるだけで済めばいいけどね」


「もっと怖い言い方をする」


「無事に戻るため」


「はい」



※第18話「塞がれた洞窟」は全五回です。

続きます。


作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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