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勇者の条件  作者: KEI
第17話 世界を見に行こう

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(三)外を見たい

◆ 外を見たい


ロアンは、その日の夕方、父に話した。


「少し、外を見てみたい」


父は薪を割る手を止めた。


すぐには答えない。


斧を地面に置き、ロアンを見る。


「どのくらいの外だ」


「隣村の先。町とか、街道とか」


「遊びに行く距離じゃないな」


「分かってる」


台所の方では、母が手を止めていた。


聞こえている。


父は薪に腰を下ろした。


「何をしに行く」


ロアンは少し考えた。


「分からない」


母が眉をひそめる。


「分からないのに行くの?」


「何も考えてないわけじゃない」


「そういう時のロアンは、だいたい少ししか考えてない顔をしてるわ」


「俺の顔、そんなに分かりやすい?」


「分かりやすいわ」


父も否定しなかった。


ロアンは少し咳払いをした。


「村の外のことを、もう少し知りたい。隣村までは行ける。でも、その先は知らない。道が塞がれた時とか、商人が来なくなった時とか、魔物が増えた時とか、誰かが外を知らないと困ると思う」


父は黙って聞いていた。


母も黙っていた。


ロアンは続ける。


「この前、荷が遅れただけで塩が高くなった。薬草も買い取りが変わった。隣村の先の道がどうなってるか、俺たちは誰かが来るまで分からない」


「だから見に行くのか」


「うん」


「一人で?」


母の声が少し強くなる。


ロアンは慌てて首を振った。


「ミルカも行きたいって」


母は一瞬だけ安心した顔をした。


すぐに、別の心配を見つけた顔になった。


「ミルカちゃんを巻き込むの?」


「いや、向こうも行く気で」


父が少し笑った。


「それは、ミルカが決めることだ」


母は腕を組む。


「二人なら安心、って言いたいところだけど」


「安心じゃない?」


「心配が二人分になるわね」


「増えた」


「倍よ」


「せめて一人半くらいに」


「ロアンが一人で一人半くらい心配なの」


ロアンは何も言えなかった。


父は斧の柄に手を置いた。


「外を見たいと思うのは、悪くない」


ロアンは顔を上げる。


「本当?」


「ただし、見に行くのと、ふらふら出ていくのは違う」


母が言う。


「荷物、行き先、金、戻る道、泊まる場所。全部決めてから」


ロアンはうなずいた。


「決める」


母はじっと見る。


「今、半分くらいしか分かってない顔」


「じゃあ、全部決めてからもう一度言う」


父はうなずいた。


「そうしろ」


◆ ミルカの理由


ミルカの家でも、同じような話があった。


母は、手帳と小さな魔術用の石を並べているミルカを見ていた。


「中央へ行くの?」


ミルカは首を振った。


「まだ分からない。中央に行くにも、まず町まで出ないと」


「危ないわよ」


「分かってる」


「分かってる顔をしてるわね」


「ロアンの家と違って、そこは疑われないんだ」


母は少し笑った。


「ロアンくんと比べればね」


「そこ、比べるところ?」


「比べると安心するところ」


「ひどい」


ミルカは手帳を閉じる。


「先生が言ってた。魔法は、使う場所を知らないと形にならないって」


「それを探しに行くの?」


「それもある」


「他には」


ミルカは少し考えた。


「村の外で、自分がどのくらいできるのか知りたい。外の魔術師は、もっとすごいと思う。私が毎日やってる水の玉なんて、町では子どもの遊びかもしれない」


「そうかしら」


「そうだと思う」


父が戸口から言った。


「続けてきたものは、外へ出てもそう簡単には消えない」


ミルカは少しだけ目を伏せる。


「でも、外で役に立つかは分からない」


「分からないから見に行くんだろう」


母はため息をついた。


「ロアンくんと一緒に?」


ミルカはうなずく。


「ロアンだけだと危ないから」


少し間を置いて、付け加える。


「私一人でも危ないけど」


母は少しだけ表情を緩めた。


「そこは分かってるのね」


「分かってる」


父が腕を組む。


「二人なら大丈夫か」


ミルカは、すぐには答えなかった。


「大丈夫、とは言えない」


「正直だな」


「でも、一人よりはまし」


母が指を折る。


「ロアンくんは雑よ」


「知ってる」


「荷物も増やすわよ」


「削る」


「道を間違えるかも」


「確認する」


「変な草を食べるかも」


「止める」


「小鬼を見たら剣を抜くかも」


「荷を見るように言う」


父がとうとう笑った。


「もう半分、姉みたいだな」


ミルカは顔をしかめた。


「そこまで年上じゃない」


母が言う。


「精神年齢の話よ」


「それは否定しづらい」


ミルカは手帳を革袋に入れた。


「でも、私も見たいの。村の外を。先生が歩いた道を、少しだけでも」


母はしばらく黙った。


それから、革袋の紐を締め直す。


「なら、準備しなさい。行くなら、止められないくらいちゃんと準備して」


父も言った。


「行くなら、戻る場所を忘れるな」


ミルカはうなずいた。


「うん」



※第17話「世界を見に行こう」は全六回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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