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勇者の条件  作者: KEI
第15話 スライムのいる町

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(四)門までの道

## 畑と魔物


その夜。


ロアンの家の食卓には、豆の煮込みと黒パンが並んでいた。


ロアンはいつもより少し得意げに座っている。


母はそれに気づいていたが、何も言わなかった。


父がパンをちぎりながら言う。


「スライムを倒したそうだな」


ロアンはすぐに顔を上げた。


「うん」


「どうだった」


「思ったより、二回目の方が難しかった」


父は笑った。


「一回で倒せなかったからか」


「うん。でも下がった」


「それでいい」


ロアンは少し首をかしげる。


父は続けた。


「魔物を倒すのは、畑を耕すのと似ている」


「全然違うよ」


「似ている」


「畑は跳ねない」


「たまに石が出る」


「それは跳ねない」


母が笑った。


父も笑ってから、ゆっくり言った。


「道具を見る。天気を見る。土を見る。自分の体力を見る。今日どこまでやるか決める。無理なら明日に回す」


ロアンは黙った。


「魔物も同じだ。倒せる日もある。追い払うだけの日もある。逃げる日もある」


母が言う。


「逃げる日が一番大事な時もあるわよ」


ロアンは少し不満げにした。


「逃げるの、格好悪い」


母は包帯を巻いた日の手首を指で軽くつついた。


もう包帯はない。


けれど、薄い線が残っている。


「戻ってこない方が格好悪い」


父がうなずく。


「村の外へ出るなら、戻ることまで考えろ」


ロアンは手首を見た。


スライムに焼かれた跡。


小さくて、細くて、歪んだ線。


勇ましい傷ではない。


近づきすぎて、驚いて、逃げ帰った日の跡だった。


それでも、覚えておくにはちょうどよかった。


スライムは跳ねる。


弱い魔物にも、近づきすぎれば痛い目を見る。


戻れれば、次の日が来る。


ロアンはパンを口に入れながら、小さくうなずいた。


## 門までの道


村の門は、いつも同じ場所にあった。


朝、畑へ出る人を通す。


昼、水場へ向かう子どもを通す。


夕方、薬草を摘んだ母たちを迎える。


夜には閉じられ、古い閂がかけられる。


ロアンは、その門を何度もくぐった。


初めてスライムに近づいた日。


棒を落として、泣きそうになりながら逃げ帰った。


泥だらけになった日。


友だちに笑われながら戻った。


水場を守った日。


へたり込んでから、ゆっくり歩いて帰った。


初めてスライムを倒した日。


少し胸を張って戻った。


門の内側には、戻ってきたロアンを見る大人たちがいた。


叱る母がいた。


棒を直す父がいた。


笑う子どもたちがいた。


何も言わずにうなずく猟師のおじさんがいた。


その門は、勝った者だけが通る場所ではなかった。


逃げた者も通る。


転んだ者も通る。


泣いた者も通る。


何もできなかった者も通る。


そして、次の日また外へ出る者も通る。


ロアンが初めて覚えたのは、魔物の倒し方ではなかった。


逃げる距離だった。


門まで戻る道だった。


棒を落としても、転んでも、泣いても、戻れば次の日が来ることだった。


スライムは弱い魔物だった。


けれど、弱い魔物にも近づきすぎれば足を取られる。


水場では速くなり、乾いた土では遅くなる。


後ろを見ずに下がれば転ぶ。


見栄を張れば距離を間違える。


倒せない日もある。


追い払うだけの日もある。


逃げるしかない日もある。


それでも、戻れればまた外へ出られる。


西の辺境の小さな村で、ロアンはそれを覚えた。


まだ勇者ではない。


英雄でもない。


ただ、スライムのいる町で、危険の見方を少しだけ覚えた子どもだった。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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