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勇者の条件  作者: KEI
第15話 スライムのいる町

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(三)水場に入れなかった

◆ 水場のスライム


ある日の昼。


村の水場に、子どもたちが桶を持って集まっていた。


夏に近い日で、空は明るく、土は乾いている。


門の近くでは、大人たちが荷車を直していた。


ロアンも桶を持っていた。


手首の包帯はもう取れている。


赤い跡は薄くなったが、まだ細く残っていた。


その時、林の方から悲鳴が上がった。


「スライム!」


水場の端に、緑色の塊がいた。


小さい。


けれど、水場へ向かっている。


子どもたちが一斉に下がる。


一人が言う。


「大人呼んでこい!」


ロアンも走ろうとした。


だが、足が止まる。


大人を呼ぶ間に、水場へ入られるかもしれない。


水場に入れば、しばらく使えなくなる。


村のみんなが困る。


倒せるかは分からない。


でも、追い払うだけなら。


ロアンは棒を握った。


「呼んできて!」


友だちが目を丸くする。


「ロアンは?」


「入れないようにする」


「倒せるのかよ」


「分かんない」


正直に言った。


それから、水場とスライムの間に立つ。


近づきすぎない。


足元を見る。


後ろを見る。


水場を見る。


乾いた土の場所を選ぶ。


棒で地面を叩いた。


スライムが反応する。


ぷる、と震える。


縮む。


ロアンは下がる。


スライムが跳ねた。


ロアンのいた場所に落ちる。


しぶきは届かない。


「こっち!」


ロアンは、水場から離れる方向へ石を投げた。


石が土に当たる。


スライムがそちらへ向かう。


ロアンはまた地面を叩く。


近づかない。


打ち込まない。


ただ、スライムの向きを水場からそらす。


友だちが走っていく。


「おじさん! スライム! 水場!」


ロアンは息を切らした。


スライムがまた縮む。


今度は少し速い。


水場の近くで湿った土に乗ったからだ。


ロアンは慌てて下がりかける。


でも、後ろには桶があった。


後ろを見る。


桶を蹴らないように横へ動く。


スライムが跳ねる。


桶には当たらない。


水場にも入らない。


「ロアン!」


猟師のおじさんが駆けてきた。


鍬を持った父もいる。


猟師のおじさんは、スライムの横から棒を入れ、乾いた土の方へ追い込んだ。


父が鍬で叩く。


スライムは崩れ、どろりと土に広がった。


ロアンは、その場にへたり込んだ。


手が震えている。


猟師のおじさんが近づいた。


「よくやった」


ロアンは息をしながら言った。


「倒してない」


「水場に入れなかった」


「でも倒してない」


「なら次に倒せばいい」


ロアンは水場を見た。


水は澄んでいる。


桶も無事だった。


友だちが戻ってきて、少し気まずそうに言った。


「すごかった」


ロアンは、まだ座ったまま首を振る。


「怖かった」


猟師のおじさんはうなずいた。


「怖いのに、見ていられたなら上出来だ」


◆ 初めて倒す


それから何日か後。


村外れに、一匹のスライムが出た。


場所は乾いた土の上だった。


水場ではない。


畑からも少し離れている。


門は近い。


大人も近くにいる。


逃げ道は見えている。


ロアンは、布と樹液で固めた棒を握っていた。


スライムは小さい。


けれど、前より小さく見えるわけではなかった。


怖さはまだある。


手首の古い跡が、少しだけうずく気がする。


猟師のおじさんが言った。


「無理なら戻れ」


ロアンは門を見る。


戻れる。


そのことを確認してから、前を向いた。


スライムが震える。


揺れが止まる。


縮む。


ロアンは下がった。


跳ねる。


落ちる。


乾いた土の上で、スライムの動きが少し鈍る。


ロアンは一歩だけ前に出た。


棒を打ち込む。


ぐに、と嫌な感触が手に伝わる。


スライムは崩れない。


ロアンは焦りかけた。


一撃で倒せない。


前なら、そこで無理にもう一度打とうとした。


でも、今は下がった。


もう一度見る。


スライムが伸びる。


また縮む。


ロアンは横へ動く。


跳ねた先を避ける。


落ちたところへ、もう一度棒を打ち込む。


ぱちん、と音がした。


スライムの形が崩れる。


緑色の塊が、土の上に広がった。


しばらく、誰も声を出さなかった。


ロアンも、自分で倒したのか分からなかった。


やがて、友だちが叫ぶ。


「倒した!」


子どもたちが歓声を上げた。


ロアンは棒を握ったまま、目を丸くする。


「倒した」


猟師のおじさんが近づいてくる。


「何がよかったか言ってみろ」


ロアンは、褒められると思っていた顔のまま固まった。


「え」


「何がよかった」


ロアンはスライムの跡を見る。


土を見る。


門を見る。


自分の足元を見る。


「乾いた土の上だった」


「他には」


「門が近かった」


「他には」


「後ろを見た」


「他には」


ロアンは棒を見た。


「一回で倒そうとしなかった」


猟師のおじさんはうなずいた。


「それが分かるなら、今日は本当に勝った」


ロアンは、そこで初めて笑った。


倒したからではない。


どうして倒せたのか、少しだけ分かったからだった。



※第15話「スライムのいる町」は全四回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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