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勇者の条件  作者: KEI
第14話 貴様は何者だ

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(三)勇者じゃないと、だめですか

◆ 誰が結んだ


現魔王は問う。


「誰に命じられた」


ロアンは少し考えた。


「いろんな人に頼まれました」


「誰の軍だ」


「軍じゃありません」


「どの国の密使だ」


「たぶん、いろんな国に手紙は運びました」


死霊宰相が、わずかに顔を上げる。


吸血侯の視線がロアンに留まった。


現魔王は続ける。


「貴様が各国を結んだのか」


ロアンは即答しなかった。


ミルカが少し警戒したように、彼の横へ半歩寄る。


エナは胸元の小さな護符を握る。


ガルドは、剣先をわずかに下げたまま、魔王の動きを見ている。


ロアンは、嘘をつくかどうかを考えている顔ではなかった。


どこまで言えばいいのか、分からない顔だった。


やがて彼は言った。


「俺たちだけじゃありません」


現魔王は黙って聞く。


「通してくれた人がいた。手紙を預けた人がいた。道を教えてくれた人がいた。兵を動かした人がいた。港を開けた人がいた。森の抜け方を教えてくれた人がいた。水路の話をした人がいた」


言葉は、整っていない。


軍議の報告ではない。


作戦書でもない。


ただ、旅の中で積み重なったものを、一つずつ拾っているだけだった。


「俺たちは、その間を走っただけです」


現魔王は、地図を思い出した。


東。


西。


北。


中央。


各国の門が、同じ夜に切られた。


深海。


深森。


火山。


それぞれ別の軍が動き、それぞれ拠点を落とし、それぞれ止まった。


中心は見えなかった。


同じ旗はなかった。


同じ命令書もなかった。


だが、線はあった。


見えない線。


目の前の男は、軍ではない。


王でもない。


神官長でもない。


勇者でもない。


だが、線の一部だった。


線そのものではないかもしれない。


しかし、線が通るための節目だった。


現魔王は低く問う。


「貴様は、各国を動かしたのか」


ロアンは首を振る。


「動かしたのは、その国の人たちです」


「では、貴様は何をした」


「頼まれたものを届けました」


「それだけで、国が動くか」


「俺だけなら、動かないと思います」


ロアンは、少しだけミルカたちを見た。


「でも、俺たちだけじゃなかったので」


魔王は、その答えを理解しきれなかった。


だが、切り捨てることもできなかった。


◆ 勇者ではない


現魔王は言った。


「貴様は勇者ではない」


ロアンは、あっさりとうなずいた。


「そうですね」


その返事に、竜将が目を細めた。


ミルカも驚かない。


エナも否定しない。


ガルドは、特に興味もなさそうに立っている。


誰も、勇者と呼ばれることに執着していなかった。


現魔王は問う。


「ならば、なぜここにいる」


ロアンは答える。


「止めないといけないから」


「誰を」


「あなたを」


玉座の間の炎が、大きく揺れた。


竜将が一歩出ようとする。


現魔王は手で制した。


「勇者でもない者が、魔王を止めると」


ロアンは、少し困った顔をした。


「勇者じゃないと、だめですか」


言葉に挑発はない。


思想を語る口調でもない。


彼は本当に、肩書きの必要が分かっていないようだった。


必要だから来た。


止めなければならないから来た。


誰かに頼まれた。


道を通してもらった。


仲間がいた。


だから来た。


それだけで、魔王の前に立っている。


現魔王にとって、それは理解しづらい。


勇者とは、条件を持つ者だった。


血筋。


神託。


聖剣。


聖痕。


仲間。


伝承。


認定。


世界が勇者を勇者として押し上げる何か。


それを潰してきた。


一つずつ。


慎重に。


確実に。


だが、目の前の四人は、そのどれにも正面から触れていない。


条件を持たないまま、結果だけを持ってきた。


玉座の前に立つという結果を。


現魔王は、四人を改めて見る。


ロアン。


中心にいる。


だが、輝いてはいない。


突出した魔力も、聖性も、血統もない。


それでも、他の三人の立ち位置は、彼を中心に動いている。


ミルカ。


魔術師。


派手な魔力ではない。


だが、魔王城の結界の要を見ていた。


壊すよりも抜く。


燃やすよりもずらす。


あの制御は、戦場で磨かれたものだ。


エナ。


震えている。


だが、魔王の殺気が動く前に視線が揺れる。


危険の起こる場所を、言葉になる前に避ける。


神託ではない。


だが、似た働きをする何かを持っている。


ガルド。


剣士。


名乗りは軽い。


構えも大げさではない。


しかし、その重心は不自然なほど静かだ。


魔王の一撃に対して、反応できる位置に立っている。


彼らは、誰か一人が勇者なのではない。


四人で、一つの機能になっている。


そして、その背後に、ここまで彼らを押し上げた無数の手がある。


村。


宿屋。


鍛冶屋。


田舎神殿。


漁村。


森の口伝。


山の水路を知る者。


通行手形を出した者。


密書を預けた者。


兵を動かした者。


それらのすべてが、玉座の間には来ていない。


だが、四人の背後にはある。


魔王は、それを完全には言葉にできなかった。


ただ、危険だと分かった。


目の前の四人は、条件を持たない。


だが、条件を満たした勇者より弱いとは限らない。



※第14話「貴様は何者だ」は全四回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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