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勇者の条件  作者: KEI
第14話 貴様は何者だ

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(一)名を聞こう

◆ 玉座の間


黒い扉が開いた。


玉座の間に、冷たい空気が流れ込む。


高い天井。


黒い柱。


壁に灯る暗い炎。


床には、古い魔法陣が薄く刻まれている。


その奥に、現魔王がいた。


玉座には座っていない。


黒い階段の下、玉座の前に立っている。


待っていた。


灰色の外套をまとった四人が、扉の向こうから入ってきた。


若い男が一人。


魔術師らしき女が一人。


治癒術師らしき少女が一人。


剣を持つ男が一人。


旅で汚れた外套。


削れた靴。


使い込まれた荷。


傷の入った武器。


王侯の紋章はない。


神殿騎士の鎧もない。


勇者旗もない。


聖剣の光もない。


現魔王は、彼らを見た。


記録が追いつかない。


条件がない。


血筋ではない。


神託ではない。


聖剣ではない。


聖痕でもない。


天空要塞を落としてもいない。


それでも、四人は玉座の間にいる。


現魔王が言った。


「名を聞こう」


若い男が、少し息を整えた。


恐れていないわけではない。


肩は硬い。


手も汗ばんでいる。


だが、逃げるつもりはない。


彼は答えた。


「ロアン」


隣の女が続く。


「ミルカ」


少女が、少し遅れて言った。


「エナです」


剣を持つ男が、剣を下げたまま答える。


「ガルド」


それだけだった。


現魔王は待った。


勇者。


その言葉を。


神託を受けし者。


聖剣の担い手。


東の血筋。


中央神殿に認められた者。


そう続くのを待った。


だが、誰も何も言わない。


現魔王は問う。


「それだけか」


ロアンは少し困ったような顔をした。


「他に何か必要ですか」


玉座の間の炎が揺れた。


魔王軍の記録に残る勇者たちは、名乗った。


ある者は神託を掲げた。


ある者は聖剣を掲げた。


ある者は血統を示した。


ある者は仲間の名を並べた。


だが、目の前の四人は、ただ自分の名だけを告げた。


現魔王は、ゆっくりと言う。


「所属は」


ロアンは、ミルカを見た。


ミルカが小さくうなずく。


ロアンは答えた。


「アークガルム王国第八傭兵団第三遊撃部隊、灰の一団です」


死霊宰相が、扉の脇でわずかに反応した。


吸血侯の目が細くなる。


竜将は、玉座の間の端で武器を握っている。


灰の一団。


西方灰色外套。


活動報告途絶。


勇者候補、非該当。


その札が、記録の棚から音もなく落ちてくるようだった。


現魔王は言う。


「王国の兵か」


ロアンは首を振った。


「正式な兵ではありません。傭兵扱いです」


「傭兵が、魔王の前に立つか」


ガルドが、ぼそりと言った。


「危険手当は出るんだろうな」


ミルカが小声で言う。


「今それ言う?」


ガルドは肩をすくめた。


ロアンが少しだけ苦笑する。


エナは、緊張で唇を結んだままだった。


その空気は、現魔王の知る勇者一行とは違っていた。


威厳ではない。


神聖さでもない。


決戦に酔う熱でもない。


ただ、長い旅の途中で何度も危ない橋を渡ってきた者たちの、妙な日常がそこに残っていた。


それが、かえって不気味だった。



※第14話「貴様は何者だ」は全四回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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