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勇者の条件  作者: KEI
第13話 条件なき者たち

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(一)外縁第三門、交戦中

◆ 異常なしの継続


魔王城、戦略会議室。


夜明け前の報告が続いていた。


天空要塞より、第三定時報告。


空は異常なし。


主要街道、異常なし。


北尾根、異常なし。


東谷、異常なし。


西崖道、巡回増加。追加異常なし。


魔王城方面への軍勢接近、確認されず。


記録官が読み上げる声は、昨日とほとんど変わらなかった。


火鏡塔の信号は正常。


夜目の鴉は帰還。


山岳斥候は巡回中。


見える道に、軍はいない。


見える尾根に、旗はない。


見える谷に、荷馬の列はない。


死霊宰相が報告書を閉じる。


「三拠点奪還準備、進行中。転移ゲート復旧、中央中継門を優先。東部中継門は術式再構成中。魔王城外縁警戒、一段階上昇のまま維持」


竜将が言う。


「城内兵を増やすべきでは」


死霊宰相は首を振った。


「これ以上戻せば、転移ゲート復旧と三拠点奪還準備が遅れます」


「魔王城を落とされれば、それどころではない」


「魔王城方面への大規模接近は確認されていません。天空要塞も無傷です」


竜将は不満を隠さなかった。


だが、それ以上は言わない。


前話から、魔王城の警戒は上がっている。


門番は増えた。


結界石は夜ごとに点検されている。


地下格子は封鎖された。


外縁巡回には、鳥型魔物が加えられた。


城壁上の兵は、交代時間を短くされた。


魔王城は眠っていない。


ただし、全軍集結ではない。


それには理由がある。


深海を取り戻さなければならない。


深森の外縁を整理しなければならない。


火山方面の地形を調べなければならない。


転移ゲートを直さなければならない。


東の勇者血族の檻も維持しなければならない。


すべてを魔王城に戻すことはできない。


現魔王は地図を見ていた。


倒れた三つの札。


深海。


深森。


火山。


まだ立っている札。


天空。


魔王城。


「警戒は維持しろ」


現魔王は言った。


「だが、奪還準備を止めるな」


記録官が筆を走らせる。


魔王城外縁警戒、維持。


城内警備、一段階引き上げ。


全軍集結、不要。


三拠点奪還準備、継続。


転移ゲート復旧、継続。


その時だった。


通信水晶が、低く震えた。


戦略会議室の全員が、そちらを見る。


水晶の中で、城内警備隊長の声が乱れた。


「外縁第三門、交戦中」


竜将が立ち上がる。


「軍か」


「いえ」


警備隊長の声は短い。


「少数です」


死霊宰相が問う。


「数は」


「確認できる範囲で四。あるいは五以下」


一瞬、会議室の空気が止まった。


現魔王が言う。


「天空要塞は」


死霊宰相がすぐに確認する。


「異常なし。火鏡塔、正常。軍勢接近、報告なし」


「転移ゲートは」


転移門管理官が震える声で答えた。


「城内転移門、使用記録なし。魔族用転移ゲートから侵入した形跡はありません」


「外門は」


「正門、破られていません。東門、西門、北門、いずれも異常なし」


「では、なぜ外縁第三門で交戦している」


誰も、答えられなかった。


◆ 外縁第三門


魔王城外縁。


第三門は、正門ではない。


兵站通路と外縁巡回路の間に置かれた、黒い石造りの門である。


荷を運ぶ魔族、巡回兵、結界石の管理者が通る。


大軍が攻める場所ではない。


攻城兵器も入らない。


旗を掲げて進む場所でもない。


そこに、灰色の外套を着た四つの影がいた。


結界柱の間を、低く走る。


一人が前を見る。


一人が後ろの気配を読む。


一人が結界柱へ手をかざす。


一人が細い剣を抜いている。


警備兵が叫んだ。


「止まれ!」


返事はない。


前に出た魔物が牙を剥く。


灰色の一人が身を低くし、魔物の横を抜けた。


倒すためではない。


通るために。


魔物の爪が空を切る。


次の瞬間、剣を持った影が一歩だけ踏み込み、魔物の前脚の関節を打った。


魔物は崩れる。


死んではいない。


だが、立てない。


警備兵が槍を構える。


「侵入者!」


別の灰色が、短く言った。


「ここは抜ける。長引かせない」


声は若い男のものだった。


結界柱に手をかざしていた影が、淡い光を指先に集める。


火花のように小さい。


だが、その光は結界の表面ではなく、奥にある一点へまっすぐ刺さった。


「壊すと城全体に響く。要だけずらす」


女の声だった。


結界柱の光が、一瞬だけ揺らぐ。


門全体は壊れていない。


警報の大鐘も鳴らない。


ただ、灰色の四人が通れるだけの隙間が開く。


後方を見ていた影が、ふと右側の通路を見た。


「右はだめ」


「罠?」


「たぶん閉じ込められる」


「見えてるのか」


「見えてないけど、だめ」


前にいた剣の影が、肩をすくめる。


「なら左だな」


四人は左へ動いた。


警備兵たちが追う。


だが、追えない。


魔物が崩れた。


槍を持つ兵の手首が打たれた。


結界は壊れていないのに、通路だけを開けられた。


門は破られていない。


だが、抜けられた。


城内警備隊長は、通信水晶へ叫ぶ。


「第三門、防衛線突破。侵入者、内郭へ移動」



※第13話「条件なき者たち」は全五回です。

続きます。


作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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