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勇者の条件  作者: KEI
第12話 空は異常なし

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(五)外縁の夜

◆ 空は異常なし


再び、天空要塞から報告が入った。


第二定時報告。


火鏡塔の光が、魔王城の鏡面に走る。


信号係が読み上げる。


「天空要塞より第二定時報告。空は異常なし。主要道、異常なし。魔王城方面への軍勢接近、確認されず。西崖道、巡回増加。微細痕跡、追加異常なし」


死霊宰相が言う。


「天空要塞は生きています」


竜将がうなずく。


「ならば、魔王城へ来る者はいません」


現魔王は、少しだけ黙った。


完全に同意はしない。


だが、今ある情報では、そう判断するしかなかった。


「魔王城外縁警戒を維持。転移ゲート復旧を急がせろ。三拠点奪還準備を進める」


記録官が書く。


天空要塞、異常なし。


魔王城方面への軍勢接近、確認されず。


魔王城警戒、一段階引き上げ。


全軍集結、不要。


三拠点奪還準備、継続。


転移ゲート復旧、継続。


竜将が、倒れた三拠点の札を見る。


「空が生きているなら、まだ城は守れます」


死霊宰相が答える。


「少なくとも、大規模進軍は見えます」


吸血侯は黙っていた。


現魔王は地図の北を見ている。


天空要塞の札は、まだ立っている。


落ちていない。


燃えていない。


沈黙していない。


空は異常なし。


その報告は、何度も重ねられた。


◆ 外縁の夜


夜。


魔王城の外壁。


見張りの魔族が、遠くの山道を見ていた。


異常はない。


大軍の火はない。


旗もない。


角笛もない。


荷馬の列もない。


空には、天空要塞からの正常信号が瞬いている。


火鏡塔の光が、雲の上でかすかに反射していた。


見張りは、短く報告する。


「異常なし」


隣の兵が、結界石に手を当てる。


「外縁結界、正常」


「北壁」


「異常なし」


「西塔」


「異常なし」


「地下格子」


「施錠確認」


報告は順に回っていく。


魔王城は、眠ってはいなかった。


警戒は上がっている。


門も閉じている。


巡回も増えている。


それでも、城の外には夜があった。


岩。


影。


風。


城壁の下の、見張りの視界が届きにくい場所。


そこを、何かが移動する。


それは軍ではない。


荷馬車でもない。


旗も掲げていない。


火も焚いていない。


大声も出さない。


見張りの視界の端を、ただ影が過ぎる。


見張りは、遠くの道を見ている。


空には正常信号。


主要道には軍影なし。


北尾根に旗なし。


西崖道に軍の通過痕なし。


魔王城方面への大規模接近、確認されず。


報告は正しい。


少なくとも、報告が見るべきものは、そこになかった。


天空要塞は無傷だった。


火鏡塔は光を返し、夜目の鴉は戻り、山岳斥候は谷と尾根を巡った。


主要街道に軍はいない。


北尾根に旗はない。


東谷に荷馬はない。


西崖道に、軍が通った痕跡もない。


空は異常なし。


魔王城は、警戒を一段上げた。


だが全軍を戻すことはなかった。


三拠点の復旧があり、転移ゲートの修理があり、奪還準備があった。


空は異常なし。


だから、魔王城への大規模接近はない。


魔王軍の記録には、そう書かれた。


そして夜は、記録の外側で、静かに動いていた。


作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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