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勇者の条件  作者: KEI
第11話 拠点は落ちる、勇者はいない

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(五)勇者はいない

◆ 三拠点陥落


魔王城。


長卓の地図には、三つの黒い札が倒れていた。


深海拠点、陥落。


深森拠点、陥落。


火山拠点、陥落。


死霊宰相が、戦況を整理する。


「三拠点はいずれも陥落。ただし、人間側各軍の損耗は甚大。魔王城方面への大規模進軍は確認されていません」


竜将が言う。


「拠点を三つも失って、安心する理由などありますか」


現魔王は竜将を見る。


「安心はしていない」


「ならば」


「だが、見ろ」


現魔王は地図を指した。


「深海を落とした軍は、深森へ進んでいない」


黒い海沿いの印。


そこから内陸へ伸びる矢印は止まっている。


「深森を落とした軍は、火山へ進んでいない」


森の出口で、線は途切れている。


「火山を落とした軍は、天空へ進んでいない」


火山の先には、まだ空白がある。


吸血侯が続けた。


「過去の勇者一行なら、次へ進んだ」


「そうだ」


現魔王は言う。


「今回は、拠点ごとに軍が動いている。勝っているが、止まっている。勇者の道ではない」


竜将は、不満を隠さない。


「しかし、拠点は落ちています」


「落ちている。だから、軍としての敗北だ」


現魔王は、三つの倒れた札を見る。


「だが、勇者に突破された敗北ではない」


死霊宰相が記録する。


三拠点、陥落。


人間側各軍、損耗甚大。


魔王城方面への連続進軍、確認されず。


勇者一行、確認されず。


竜将が問う。


「では、我らは何に負けたのです」


現魔王は答えた。


「軍だ」


「軍なら、軍で潰せます」


「潰す。だが、軍を動かした線を見つけてからだ」


吸血侯が頷く。


「各国軍の背後に、何者かが線を引いている可能性はあります」


「それは探す」


「しかし、勇者ではない、と」


「少なくとも、我らが知る勇者ではない」


◆ 勇者はいない


現魔王は、対勇者戦略の項目を一つずつ確認した。


東の勇者血族。


封鎖継続。


中央神殿。


神託機能停止。


聖剣。


封印中。


聖痕。


噂なし。


神託を受けた勇者。


確認なし。


中央神殿に認定された勇者。


確認なし。


勇者一行。


確認なし。


灰色外套。


活動報告途絶。


門破壊現場および三拠点攻略現場での確認なし。


吸血侯が報告する。


「各拠点攻略軍に、勇者と呼ばれる中心人物はいません。各国で功績を挙げた指揮官、案内人、技師、傭兵はいますが、全軍に共通する旗印ではありません」


死霊宰相が続ける。


「聖剣の目撃なし。聖痕の噂なし。中央神殿の勇者認定なし。東の血筋は檻の中です」


竜将が腕を組む。


「ならば、勇者は出ていない」


「記録上は、そうだ」


現魔王は言った。


「だが、見えない線はある。勇者がいないからといって、敵がいないわけではない」


吸血侯が頭を下げる。


「調査を続けます」


「神官、商人、密使、地方領主、工兵、水先案内人、測量士。人間どもを結んだ者を探せ」


「は」


死霊宰相が筆を走らせる。


対勇者戦略、従来型勇者の発生を抑止。


軍事拠点、三箇所陥落。


人間側進軍、停止。


見えない連絡線、調査継続。


その文面は、勝利報告ではなかった。


敗北報告でも、単純なものではなかった。


拠点は落ちた。


それは否定できない。


だが、勇者の道はまだ見えない。


現魔王は、長卓の北側を見た。


天空要塞の札が、まだ立っている。


魔王城へ至る最後の道。


空の目。


そこからの報告は、まだ異常なしだった。


◆ 拠点は落ちる


夜。


会議が終わった後も、現魔王は一人で地図を見ていた。


深海。


深森。


火山。


三つの札は倒れている。


それは大きな敗北だった。


魔王軍は三つの拠点を失った。


海の砦を失った。


森の砦を失った。


火の砦を失った。


その事実は、どんな分析でも軽くならない。


しかし、魔王城へ向かう一本の線は、まだ地図の上に描けなかった。


深海を落とした軍は、深森へ進めなかった。


深森を落とした軍は、火山へ進めなかった。


火山を落とした軍は、天空へ進めなかった。


どの軍も勝ち、そして止まった。


聖剣を掲げる者はいない。


聖痕の噂もない。


中央神殿に認められた勇者もいない。


東の血筋は檻の中にいる。


過去の勇者一行のように、拠点から拠点へ進む少数の影は見えなかった。


背後で、吸血侯の声がした。


「その判断でよろしいのですか」


現魔王は振り返らない。


「よろしいかどうかではない。現時点で見える事実だ」


「見えないものは」


「探す」


魔王は、天空要塞の札を見た。


「だが、魔王城への接近はまだない。天空要塞が見ている」


吸血侯は頭を下げた。


現魔王は、地図の上に倒れた三つの札を見下ろす。


「拠点は落ちる」


低い声だった。


「だが、勇者はいない」


その夜、魔王軍の記録にはこう書かれた。


深海拠点、陥落。


深森拠点、陥落。


火山拠点、陥落。


人間側各軍、損耗甚大。


魔王城方面への連続進軍、確認されず。


聖剣、確認されず。


聖痕、確認されず。


中央神殿認定勇者、確認されず。


東方勇者血族、封鎖継続。


勇者、確認されず。


魔王軍は、三つの拠点を失った。


それは紛れもなく敗北だった。


だが、切れた線の向こうから、勇者はまだ現れなかった。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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