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勇者の条件  作者: KEI
第11話 拠点は落ちる、勇者はいない

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(三)導きの石は砕いた

◆ 森へ入る軍


深海拠点が落ちたことで、南の魔王大陸の沿岸部に人間の足場ができた。


だが、沿岸から内陸へ向かうには、深森がある。


迷いの森。


勇者の記録に、何度も現れる場所である。


深森拠点は、その奥にあった。


森に入った者は、戻れない。


導きの石がなければ、道を失う。


祠と石を壊した時、魔王軍はそう判断していた。


森そのものは残した。


道具を砕いた。


祠を壊した。


導きの石は、もうない。


だから深森は、まだ機能している。


そのはずだった。


数日後。


深森からの定時報告が遅れた。


転移ゲートの線はまだ完全には戻っていない。


伝令は迂回を強いられ、鳥は途中で落ち、密偵は森の外縁で迷った。


報告が届いた時には、すでに遅かった。


深森拠点の残存兵が、泥と樹液にまみれて会議室へ運び込まれた。


膝をついたまま、彼は言った。


「深森拠点、陥落」


竜将が立ち上がる。


「またか」


死霊宰相が、すぐに確認する。


「導きの石は破壊済みだ」


残存兵は答えた。


「はい。我らもそう聞いていました」


「では、なぜ入れた」


「不明です」


吸血侯が問う。


「石を持つ者は」


「確認していません。導きの石らしきものはありませんでした」


「神官は」


「中央神殿の旗はありません。ただ、地方神官や薬師、森に詳しい猟師、測量士のような者がいました」


「歌は」


残存兵は顔を上げた。


「歌?」


吸血侯は少しだけ黙る。


「いや、続けろ」


残存兵は、震える声で続けた。


「人間軍は、何度も迷っていました。毒にもやられています。魔物にも襲われ、補給も失っています。ですが、止まりきらなかった。少しずつ、森の奥へ入ってきました」


死霊宰相が記録する。


「人間側損耗は」


「甚大です。拠点は落ちました。しかし、攻略軍は森の出口で停止。次へ進む余力はありません」


地図の上で、深森拠点の札が倒される。


だが、そこから火山へ伸びる矢印はない。


現魔王は低く言った。


「ここでも止まったか」


◆ 導きの石は砕いた


「導きの石を砕かなければ、もっと早く抜けられた可能性がある」


現魔王が言った。


死霊宰相はうなずく。


「その可能性は高いでしょう。今回の人間軍は、森で大きく損耗しています」


竜将が言う。


「だが落ちた」


「落ちた。だから敗北だ」


現魔王は、そこを曖昧にしなかった。


「深森拠点は失った。森を守りきれなかった。導きの石を砕いても、完全には止められなかった」


残存兵の肩が震える。


現魔王は、彼を責めなかった。


「だが、勇者一行の突破ではない。軍による強行突破だ」


吸血侯が問う。


「陛下は、導きの石の破壊を有効だったと見ますか」


「有効だったかどうかは、比較でしか測れぬ」


現魔王は地図を見る。


「導きの石があれば、森の損耗は減った可能性がある。拠点を落とした後、そのまま火山へ向かう力が残った可能性もある」


死霊宰相が記録する。


「現状、人間側攻略軍、森出口にて停止。毒、迷走、補給欠乏により再編中」


「ならば、完全ではないが、遅らせた」


竜将が低く唸る。


「遅らせただけで、落ちている」


「そうだ」


現魔王は竜将を見た。


「落ちた。だから次を考える。だが、何に落とされたのかを誤るな」


竜将は黙った。


現魔王は、記録官へ言う。


「深森拠点、陥落。導きの石、確認されず。勇者、確認されず。人間側攻略軍、損耗甚大。火山方面への進軍、確認されず」


記録官が書く。


筆の音だけが、会議室に響いた。



※第11話「拠点は落ちる、勇者はいない」は全五回です。

続きます。


作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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