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勇者の条件  作者: KEI
第10話 線が切れる

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(四)同時に切れる

◆ 同時に切れる


東部中継門。


石環の内側が、黒く焦げていた。


外の保護刻印は残っている。


門そのものも崩れていない。


だが、内側の術式だけが割れていた。


門番の下級魔族が、床に倒れている。


生きてはいる。


だが、まだ起き上がれない。


西部中継門。


座標石が抜かれていた。


代わりに、ただの黒い石が詰められている。


石環は無傷だった。


だからこそ、復旧には時間がかかる。


壊されたのは、目に見える輪ではなく、門を門として成立させている核だった。


北方補給門。


雪の中で、連絡用の小塔が焼けていた。


門の鍵束は残っている。


だが、鍵を受ける刻印が削られている。


中央中継門。


四方へつながる調整盤が砕かれていた。


この門は、東西南北の連絡をつなぐ要だった。


ここを失えば、遠い門同士を迂回してつなぐことが難しくなる。


沿岸監視門。


門の外枠は残っている。


しかし、海路監視用の補助符が剥がされ、接続が歪んでいた。


旧街道監視門。


完全には沈黙していない。


だが、通った魔族が戻れなくなる危険があった。


国境補助門。


魔力調整盤の一部だけが壊されていた。


見た目には、ただの傷に近い。


だが、座標がずれる。


ずれた門を使えば、魔族は予定地から半里も離れた荒地へ吐き出される危険がある。


いずれも完全破壊ではない。


修繕は可能。


だが容易ではない。


専門魔族が必要になる。


部材が必要になる。


時刻合わせが必要になる。


そして何より、何を壊せば門が止まるのかを知っていなければ、できない壊し方だった。


石環ではない。


外枠ではない。


門番の全滅でもない。


術式の要。


座標の核。


調整盤。


鍵受けの刻印。


補助符。


それぞれ違う構造の門で、それぞれ最も復旧に時間のかかる場所が狙われていた。


しかも、各地でほぼ同時に。


切られたのは、魔王大陸の本土門ではない。


人間側大陸に張り出していた、魔王軍の前線線である。


東。


西。


北。


中央。


それらをつなぐ線が、同時に切れた。


◆ 被害状況


魔王城。


死霊宰相が、被害をまとめていた。


「魔王大陸側の本土門に被害はありません。魔王城、深森、火山、南方軍港、いずれも健在です」


竜将が言う。


「ならば致命傷ではない」


「致命傷ではありません」


死霊宰相は否定しなかった。


「ただし、人間側大陸の前線門、中継門、監視門が複数箇所で損傷しています。東部、西部、北方、中央中継。最低限の連絡線が切られました」


転移門管理官が続ける。


「復旧には専門魔族が必要です。部材も足りません。どの門を優先するか、選ばなければなりません」


竜将が机を叩いた。


「誰がやった」


吸血侯が、別の報告書を開く。


「各地で人間側の小部隊の動きが確認されています」


「所属は」


「ばらばらです。東方王国兵、西方諸侯兵、北方辺境軍、中央都市同盟の斥候、沿岸国の兵、神殿騎士の残党と思われる者も混じっています」


竜将の目が細くなる。


「寄せ集めか」


死霊宰相が首を振った。


「単なる寄せ集めではありません。単一国家の作戦でもない。複数国が、それぞれ自国近くの門を狙っています」


現魔王が問う。


「同時にか」


「はい」


「どうやって時刻をそろえた」


答えはない。


会議室に、紙の擦れる音だけが残る。


吸血侯が言う。


「捕虜の証言では、作戦指示は各国の軍内部から出ています。ただし、門の位置情報は別経路で共有された可能性があります」


死霊宰相が続ける。


「各国が同時に動くには、少なくとも位置、時期、攻撃方法の共有が必要です」


竜将が低く唸る。


「だから、誰が共有した」


誰も答えられない。


現魔王は地図を見た。


赤い印が浮かんでいる。


東部。


西部。


北方。


中央中継。


沿岸。


旧街道。


国境。


人間側大陸に置かれた点。


異なる国。


異なる部隊。


異なる理由。


だが、同じ夜に動いた。


現魔王は、しばらく黙っていた。


そして、低く言った。


「線がある」


死霊宰相が顔を上げる。


「人間側の連絡線ですか」


「そうだ。見えぬ線がある」


◆ 犯人像


犯人を探す作業が始まった。


勇者の一族か。


封じている。


東の村から動いた形跡はない。


脱出未遂もない。


中央神殿か。


勇者認定機能は壊した。


写本庫も焼いた。


神託の間も沈黙している。


聖剣か。


封じている。


新たに持ち出された形跡はない。


聖痕か。


報告なし。


どこかの軍事大国か。


単独ではない。


各国の利害は揃っていない。


聖都残党か。


関与はあり得る。


だが、全体を束ねる力は落ちている。


西方灰色外套か。


該当する現場痕跡はない。


門の周辺で、灰色の外套は目撃されていない。


ロアンという不確かな名も、どの捕虜の口からも出ない。


灰色外套の札は、棚の端に置かれたままだった。


現場にいない。


捕虜の証言にも出ない。


命令書にも出ない。


軍旗にもない。


雇用記録にもない。


ならば、破壊部隊の中心としては扱えない。


吸血侯が報告する。


「捕虜の証言を整理しました。彼らは、それぞれ自国の上官から命令を受けています。隣国も動くことを知っていた者はいますが、全体を知っていた者はいません」


死霊宰相が続ける。


「ある国は、魔王軍の東部連絡を断てば封鎖線の運用が鈍ると聞いています。ある国は、北方補給を遅らせるために動いています。ある国は、自国防衛のために近くの門を狙っています。ある国は、中央中継を止めれば全体の命令が遅れると教えられています」


「同じ旗は」


「ありません」


「同じ印は」


「ありません」


「同じ命令書は」


「ありません」


竜将が苛立つ。


「では、なぜ同じ夜に動けた」


吸血侯が、静かに答える。


「誰かが、時刻だけをそろえた」


会議室が沈黙する。


それは、軍の中心ではない。


王ではない。


聖都でもない。


勇者の旗でもない。


けれど、各国に同じ時刻を伝えた何かがある。


現魔王は地図を見ている。


赤い点を結ぶ線は、描かれていない。


だが、線がなければ同時破壊は起きない。



※第10話「線が切れる」は全五回です。

続きます。

作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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