(三)第一の沈黙
◆ 転移ゲート
転移ゲートは、万能ではない。
使えるのは魔族のみ。
人間は使えない。
魔物も使えない。
馬車を通すこともできない。
大量の魔物を一瞬で移動させることもできない。
物資は、魔族が持ち運べる範囲に限られる。
それでも、魔王軍にとっては欠かせない。
命令を運ぶ。
報告を戻す。
専門魔族を派遣する。
負傷した幹部を引き上げる。
術式部材を運ぶ。
離れた拠点同士の時刻を合わせる。
広い戦線を、ひとつの戦略として扱う。
そのための線である。
ゲートは石環でできている。
外側には保護刻印。
内側には座標石。
足元には魔力調整盤。
門ごとに、座標と鍵がある。
鍵を持たない者には開けない。
魔族以外には反応しない。
魔物が近づいても、ただの石の輪にしか見えない。
人間が触れても、冷たい石でしかない。
だからこそ、魔王軍は安心していた。
奪われることはない。
使われることはない。
壊されるとしても、場所を知られなければならない。
構造を知られなければならない。
弱点を知られなければならない。
そして、同時に狙うなら、時刻を合わせなければならない。
そのすべてが、難しい。
少なくとも、一国の軍だけでは。
◆ 第一の沈黙
魔王城、夜。
戦略会議室の灯は、まだ消えていなかった。
死霊宰相が、東方封鎖線から届いた報告を読んでいる。
吸血侯は西方の商人道の通行記録を確認している。
竜将は北方補給線の警備計画に赤い印をつけていた。
現魔王は、転移門の配置図を見ていた。
その時、扉が乱暴に開いた。
転移門管理官が駆け込んでくる。
「陛下」
息が乱れている。
魔族である彼が、走って息を乱していた。
「西部中継門が沈黙しました」
死霊宰相が顔を上げる。
「故障か」
「不明です。定時信号に応答がありません」
現魔王が問う。
「予備経路は」
「現在、接続中です」
その瞬間、別の管理官が入ってくる。
「東部中継門、応答なし」
続いて、さらに別の声。
「北方補給門、沈黙」
「中央中継門、信号途絶」
「沿岸監視門、破損報告」
「旧街道監視門、接続不安定」
「国境補助門、座標乱れ」
会議室の空気が凍った。
竜将が立ち上がる。
椅子が床を削る。
「同時か」
転移門管理官は、顔色を失っていた。
「ほぼ同時です」
現魔王は静かに言った。
「事故ではないな」
誰も答えなかった。
答える必要がなかった。
※第10話「線が切れる」は全五回です。
続きます。
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