(二)途絶
◆ 途絶
魔王城。
吸血侯は、調査結果を卓に置いた。
「確定情報は得られませんでした。最後の目撃以降、商人道、村落、国境洞窟周辺、いずれにも姿を見せていません」
死霊宰相が補足する。
「死亡確認はありません。ただし、活動報告は途絶えています。雇い主を変えた可能性もありますが、東へ向かった形跡はありません」
竜将が言う。
「ならば終わりだ。地方の少数戦力が消えただけでしょう」
現魔王は、吸血侯を見る。
「勇者血族との接触は」
「なし」
「中央神殿は」
「なし」
「聖剣、聖痕、神託は」
「なし」
「各国軍との接続は」
吸血侯は少しだけ目を細めた。
「不明です。ただし、灰色外套の名で正式に雇われた記録は確認できません」
竜将が苛立ったように言う。
「不明ばかりではないか」
「地方の噂とは、そういうものです」
吸血侯は涼しく答えた。
「ただ、不明であることと、脅威であることは同じではありません」
死霊宰相がうなずく。
「報告が途絶えた少数戦力は珍しくありません。危険な依頼を受けて死んだ。雇い主を変えた。別名で活動している。村に戻った。捕まった。いずれもあり得ます」
現魔王は報告書を見た。
灰色外套。
局地戦力。
勇者候補、非該当。
東方接近なし。
活動報告途絶。
彼は静かに言った。
「監視項目には残せ。だが、警戒を上げる理由はない」
記録官が筆を取る。
西方灰色外套。
活動報告途絶。
推定、死亡、活動停止、または雇用主変更。
東方接近、確認されず。
勇者血族接触、確認されず。
中央神殿接続、確認されず。
警戒レベル、据え置き。
監視項目として残置。
竜将が満足げに頷く。
吸血侯は何も言わなかった。
死霊宰相は、灰色外套の札を勇者候補の列からさらに離れた棚へ移した。
完全に捨てたわけではない。
ただ、中央に置く理由がなくなっただけである。
現魔王は、一度だけそれを見た。
そして、東の封鎖図へ視線を戻した。
◆ 静かな期間
しばらく、重大な異常は起きなかった。
東の封鎖は続いた。
勇者候補は村から出られない。
古い剣は押収されたまま。
神官の密書は届かない。
中央神殿は、勇者認定の機能を失ったまま沈黙している。
聖剣は封じられている。
導きの石は砕かれた。
天空要塞は、魔王城へ定時報告を送る。
異常なし。
西崖道、異常なし。
東部封鎖線、異常なし。
北方補給線、異常なし。
中央中継線、異常なし。
西部中継線、異常なし。
沿岸監視線、異常なし。
魔王大陸南方、異常なし。
深森本土門、異常なし。
火山本土門、異常なし。
西方灰色外套、追加報告なし。
月次報告の声は、いつも同じ調子だった。
「対勇者戦略、継続。重大異常なし」
竜将が言う。
「勇者は出ませんでしたな」
現魔王は、完全には同意しない。
「まだ結論を出すには早い」
だが、状況は安定していた。
安定しているように見えた。
魔王軍の地図には、いくつもの光点があった。
この世界の南側には、魔王大陸がある。
魔王城。
深森拠点。
火山拠点。
南方軍港。
魔王軍の本土門は、その大陸に置かれている。
人間側の軍が、容易に踏み込める場所ではない。
一方、人間側大陸には、魔王軍が張り出した前線門と中継門があった。
東部中継門。
西部中継門。
北方補給門。
中央中継門。
沿岸監視門。
旧街道監視門。
国境補助門。
それらは、人間側大陸の戦線を管理するための門だった。
魔王大陸の本土門と、人間側大陸に張り出した前線門。
その二つを組み合わせることで、現魔王は広い戦線を管理していた。
線は見えない。
だが、魔王軍の中枢には確かに存在していた。
※第10話「線が切れる」は全五回です。
続きます。
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