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勇者の条件  作者: KEI
第9話 灰色の報告

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(五)勇者候補、非該当

## 未分類の西方報告


会議の後、吸血侯が現魔王のもとへ残った。


「陛下。西の一連の報告ですが」


現魔王は資料から目を離さない。


「気になるか」


「少し。洞窟の件は、両側の村が同時に動いたこと自体、偶然ではないでしょう。連絡役がいたとして、その者は魔物の縄張りを抜けています」


「戦力評価は」


「不明です。少なくとも洞窟の報告上は、魔物を倒したのは村の自警団です」


「血筋は」


「不明。東の勇者血族とは接続していません」


「聖痕は」


「報告なし」


「神殿との接続は」


「なし。ただし、田舎神殿や巡回神官に関わる雑報はあります。中央神殿との正式な接続ではありません」


現魔王は、ようやく顔を上げた。


「ならば勇者ではない」


吸血侯はうなずく。


「はい。勇者ではありません」


そこで、一度言葉を切る。


「ただ、村と村をつなぐ者がいるなら、それは国境分断にとっては邪魔です。また、灰色外套の目撃が同じ流れに属するなら、放置はしにくい」


現魔王は少しだけ考える。


「西方連絡網として記録しろ」


「一団ではなく」


「一団かどうかも不明だ。個人か、複数か、村ごとの動きか、それも分からぬ」


「報酬を取る者たちの報告もあります」


「ならば報酬制の少数戦力としても記録しろ。ただし、勇者候補ではない」


吸血侯が微笑む。


「冒険者、あるいは傭兵に近いものとして」


「そうだ。危険な仕事に報酬を取るなら、軍事上はその分類でよい」


「一方で、小さな人助けの報告もあります」


「それは一団の活動か」


「判然としません。報告上は、通りすがりの若者、村人、旅人として扱われています」


「ならば分けて記録しろ」


現魔王は言った。


「報酬を取る仕事は、少数戦力として見る。個人の手助けは、評判として残せ。だが、同じものとして束ねるな。束ねる根拠がない」


記録官が書く。


西方村落間連絡。


若年連絡役の可能性。


角笛合図の証言あり。


灰色外套、後発報告あり。


報酬制少数戦力の可能性。


個人単位の人助け報告、別分類。


勇者候補、非該当。


監視継続。


## 東と西


魔王城、記録塔。


死霊宰相が、二つの報告を並べた。


東の勇者候補。


勇者血族。


東の辺境。


古い剣。


聖都との連絡。


神官の支援。


脱出未遂。


外へ出られず、村に戻された少年。


西の報告群。


西の辺境。


血筋不明。


神託なし。


聖剣なし。


聖痕なし。


村落自衛。


若年連絡役の可能性。


角笛による合図の証言あり。


後発報告として、灰色外套の目撃あり。


報酬制少数戦力の可能性。


個人単位の人助け報告あり。


竜将が言う。


「並べるまでもない。勇者に近いのは東です」


死霊宰相も否定しなかった。


「条件上は、その通りです」


吸血侯が、西の報告を持ち上げる。


「ただ、西は動いています」


現魔王は、両方の報告を見る。


「東は檻の中にいる。西は外を動いている」


「危険度を上げますか」


吸血侯が問う。


現魔王は少し考えた。


「西は国境分断への影響として監視。勇者候補ではない。ただし、村落間の連絡が増えるなら、封鎖の効果は落ちる。灰色外套の報告についても、同一集団かどうかを確認しろ」


記録官が書く。


西方村落自衛。


若年連絡役の可能性。


灰色外套の後発報告あり。


勇者候補、該当せず。


国境分断への影響あり。


監視継続。


竜将が言う。


「東へ近づかなければ」


「国境分断への影響を見る」


死霊宰相がうなずく。


「西方封鎖の再構築と合わせて監視します」


現魔王は、東の勇者候補の札を見た。


それから、西の報告群へ視線を移した。


勇者らしく見える者は、檻の中にいる。


勇者らしく見えない者は、外を動いている。


だが、勇者らしく見えない者をすべて勇者候補として扱えば、戦略は散る。


だから分類する。


勇者候補。


局地戦力。


支援戦力。


村落自衛。


連絡役。


未分類報告。


魔王軍の記録は、世界を切り分ける。


切り分けなければ、管理できない。


そして切り分けたものは、その分類の中で扱われる。


西の報告群は、その日、勇者候補の列には置かれなかった。


記録官は、新しい札を作る。


西方村落間連絡。


その札は、東の勇者候補とは別の場所に置かれた。


## 灰色の分類


魔王城。


夜。


現魔王は、一日の報告を見終えた。


東の勇者候補は動けない。


中央神殿は沈黙している。


聖剣はない。


導きの石は砕かれた。


人魚も水の精霊王も確認されない。


天空要塞は見張っている。


勇者の血筋は檻の中にある。


西の報告は増えている。


だが、それはまだ勇者の形をしていない。


記録官が問う。


「西方の一連の報告について、分類を確定しますか」


現魔王は言った。


「未分類のまま監視しろ」


「勇者候補ではなく」


「勇者候補ではない」


「根拠は」


現魔王は淡々と答えた。


「東の血筋ではない。聖痕なし。聖剣なし。中央神殿との接続なし。神託なし。運命の仲間としての記録なし。村落自衛、連絡、道案内、救援、後発の灰色外套。勇者譚の型に合わぬ」


記録官が書く。


西方村落自衛、増加。


若年連絡役、詳細不明。


灰色外套、後発報告あり。


報酬制少数戦力の可能性。


個人単位の人助け報告、別分類。


勇者候補、非該当。


国境分断への影響あり。


監視継続。


現魔王は最後に言った。


「勇者ではない。だが、勇者の道を開く者にはなり得る。ただし現時点では、西方の未分類報告だ。監視を続けろ」


記録官がうなずく。


「は」


その日、西の報告に、小さな異常が混じった。


低級魔物を倒した。


村の間を走った。


洞窟封鎖の突破に関わったらしい。


角笛を鳴らした者がいた。


若い男がいた。


若い女もいたという者がいた。


その後、灰色の外套を着た若者たちの報告が混じり始めた。


危険な仕事では、報酬を受け取っていた。


けれど、報酬の記録がない小さな手助けの話もあった。


神託はない。


聖剣はない。


聖痕もない。


勇者の血筋でもない。


正式な騎士団でもない。


傭兵団としての旗もない。


だから魔王軍の記録には、こう記された。


西方村落自衛、増加。


若年連絡役、詳細不明。


灰色外套、後発報告あり。


報酬制少数戦力の可能性。


個人単位の人助け報告、別分類。


勇者候補、非該当。


監視継続。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/

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